表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/62

正面想起

校舎裏での殴り合いから数日が経った。

最初は頬に張っているガーゼのことを聞かれたものの、奏汰も悠人も教室で何事もなかったように振る舞っている。悠人と咲良が会話を交わすこともあるが、以前のように親しげな雰囲気にはなれず、どこかぎこちなかった。


昼休み、悠人は無言のまま弁当をつついていた。奏汰の言葉が頭の中で何度も反響している。


――「咲良にくらい、ちゃんと向き合えよ」


その言葉を振り払うように、悠人は小さく息を吐いた。


「悠人、ちょっといい?」


弁当の箸を止めると、目の前には咲良が立っていた。


「……あぁ、いいよ」


悠人はできるだけ平静を装いながら答え、咲良と一緒に廊下へ出た。


屋上での対話


「……ねえ、悠人。最近、私たちなんか変じゃない?」


屋上に到着すると、咲良は悠人の顔をじっと見つめた。


「そうか?」


「そうだよ。前みたいに話せてないし、悠人、何かを誤魔化してる感じがする」


「……そんなことはない」


悠人は咲良から視線を逸らした。だが、彼女は一歩踏み込むように言葉を続ける。


「悠人、私のこと好き?」


真正面から問いかけられた瞬間、悠人の心臓が大きく跳ねた。


「……好き、だよ」


「ほんとに?」


咲良はどこか寂しげな笑顔を浮かべた。悠人は言葉に詰まる。嘘ではない。だが、確信を持って言えない自分がいる。


奏汰の拳、奏汰の言葉、それらが悠人の胸に重くのしかかっていた。


「私はね、悠人のことが好き。でも、悠人が私のことを好きかどうか、よくわからないんだ」


「……そんなこと」


「ない、って言い切れる?」


悠人は言葉を失った。


咲良は続ける。


「私はただ、悠人の本当の気持ちが知りたいだけ」


悠人は目を閉じ、拳を握りしめた。ここで嘘をつけば、きっと彼女は気づく。そうなれば、何もかも壊れるかもしれない。


だが――。


「……ごめん」


その一言が、思わず口から零れた。


咲良の目が揺れる。


「そっか……」


「違うんだ、咲良。お前のことが嫌いなわけじゃない。むしろ、大事にしたいって思ってる」


「……じゃあ、何が違うの?」


悠人は言葉に詰まる。


「悠人の中に、私じゃない何かがあるなら……それを隠したまま、付き合うのはやめよう?」


咲良はそう言い残し、悠人を残して屋上を去っていった。


悠人は、その場でしばらく動けなかった。


(俺は……どうすればよかったんだ)


答えは出ない。ただ、咲良の表情が脳裏に焼き付いて離れなかった。


「悠人……?」


不意に聞こえた声に、悠人は顔を上げた。


咲良が、戻ってきていた。


「……なんで戻ってきたんだよ」


悠人は気まずそうに視線を逸らす。


「さっきのまま終わらせるのは、なんか嫌だな〜って」


咲良は少し照れくさそうに笑いながら、悠人の隣に腰を下ろした。


「……本当は、言い過ぎたなって思ったの」


「……いや、そんなこと……」


「悠人が私に嘘をついてないことは分かる。でもね……」


咲良は、少し言い淀んでから続けた。


「悠人の心の中に、私が知らない何かがある気がするの」


悠人はギクリと肩を震わせた。


「……そんなこと……」


「ううん、言わなくていいよ」


咲良は小さく微笑む。


「でもね、悠人が私とちゃんと向き合おうとしてくれてるのは分かるから」


「……」


悠人は何も言えなかった。


本当は、咲良を大切に思っている。でも、自分の中にある得体の知れない違和感を、咲良に正直に伝えることはできない。


それが何なのか、悠人自身も分かっていないから。


「だからさ、もう少しだけ……私のことを見てくれない?」


咲良の声は穏やかだった。


「……ああ」


悠人は、ゆっくりと頷いた。


「絶対私だけしか見れないようにしてやるんだから!覚悟しとけよ?葦根悠人!」


 咲良はニヤリと口角を上げてそう宣言する。


 一瞬の胸の高鳴り。その答えが、自分の本心なのかどうかは分からないまま――。


咲良と一緒に屋上を後にする。


並んで歩いているはずなのに、どこか心が落ち着かない。


(……俺は、本当にこれでいいのか?)


隣で微笑む咲良の横顔を見ながら、悠人は自分の中にある違和感を押し殺すように息を吐いた。


咲良は、そんな悠人の小さな変化に、気づき始めていた――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ