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殴打打倒

校舎の廊下には、まだ体育祭の準備をしている生徒たちのざわめきが残っていた。

しかし、そんな喧騒とは裏腹に、校舎裏の目立たない場所には重たい空気が漂っていた。


奏汰と悠人。


二人は向かい合い、互いの表情を探るように見つめていた。


「……お前、マジで何なんだよ。」


奏汰が先に口を開いた。


悠人は腕を組み、軽く溜息をつくように目を伏せた。


「別に何でもねぇよ。」


「ふざけんな。」


奏汰は一歩前に出る。


「この前、殴ったことを謝る気はないのか?」


「……謝るつもりはない。」


悠人の声は低く、揺るがなかった。


「……そうかよ。」


その瞬間だった。


拳が交わる瞬間


奏汰の右拳が悠人の顔面を捉えた。


「……っ!」


悠人の体が揺らぎ、壁際まで後退する。


「お前、何のつもりだよ。」


悠人が口元を拭いながら睨みつける。奏汰の拳はまだ強く握り締められていた。


「殴った理由なんか、そっちが一番分かってるだろ。」


「……っ!」


悠人の瞳が揺れる。


「……ふざけんなよ。」


そう言った次の瞬間、悠人もまた拳を振り上げた。


鈍い衝撃と荒い息。


奏汰の腹部に重たい衝撃が走る。思わず一歩下がるも、すぐに踏みとどまり、今度は悠人の肩を殴りつける。


悠人も負けじと、奏汰の頬を狙い拳を振るった。


「……ッ!」


頬に鈍い痛みが広がり、奏汰の視界が一瞬揺らぐ。だが、それでも引き下がらない。


悠人もまた肩を大きく上下させ、荒い息を吐いていた。


「……何なんだよ、お前……。何がそんなに気に食わねぇんだ。」


「そっちこそ……俺に言えないことがあるくせに、偉そうにすんな。」


「関係ねぇだろ……!」


悠人の拳が再び振るわれる。だが今度は奏汰がそれを防ぐように手を掴み、そのまま悠人を壁に押し付けた。


「……っ、お前……!」


「逃げんなよ、悠人。」


奏汰の目は鋭く光っていた。


「俺が何を思ってるかなんて、お前には分からねぇよ。」


悠人が振り払うように奏汰を突き飛ばす。二人は再び距離を取り、肩で息をしながら睨み合った。


しばらくの沈黙の後、悠人は疲れたように呟いた。


「もういい……。こんなの、意味ねぇよ。」


奏汰も拳を開き、ゆっくりと力を抜く。


「……ああ、そうかもな。」


拳と拳を交わした後、奏汰と悠人は互いに荒い息を吐きながら睨み合っていた。


悠人の口元には切れた傷から血が滲み、奏汰の頬も赤く腫れている。

殴り合った痛みは残っているはずなのに、それ以上に心に残るものがあった。


奏汰は唇を噛みながら悠人を見据えると、静かに口を開いた。


「……咲良にくらい、ちゃんと向き合えよ。」


悠人の表情がピクリと動く。


「……は?」


「お前、咲良と付き合ってるんだろ?だったら、ちゃんと向き合ってやれよ。」


悠人は一瞬、視線を逸らしたが、すぐにまた奏汰を睨んだ。


「……そんなこと、お前に言われる筋合いはない。」


「俺に言われたくねぇなら、なおさらしっかりしろよ。」


悠人の拳が軽く握り締められる。


「……何が言いたいんだよ。」


「お前、咲良と仲直りするって約束したんだろ?」


悠人の目がわずかに見開かれる。


「……なんで、それを……」


「咲良が言ってたよ。お前とちゃんと話したいってな。」


悠人は唇を噛みしめたまま、何も言えなかった。


奏汰は悠人の反応を見ながら、ゆっくりと息を吐いた。


「お前が何を考えてるのかは知らねぇ。でも、咲良のことを適当にするなら……俺は許さねぇからな。」


悠人は何も言わず、ただ黙っていた。


しばらく沈黙が続いた後、悠人はようやく小さく呟いた。


「……あぁ。」


それが、了承の言葉なのか、自分自身への言い聞かせなのかは分からない。


けれど、奏汰はそれ以上何も言わず、悠人をじっと見つめた後、ゆっくりと背を向けた。


それぞれの思い


悠人はその場に立ち尽くしながら、握った拳をゆっくりと開いた。


奏汰の言葉が、思った以上に胸の奥に響いていた。


自分は、咲良にちゃんと向き合えているのか——


悠人の心には、また新たな葛藤が芽生え始めていた。

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