不仲不調和
夏休み明けの体育祭準備も進み、表面上は日常が戻っていた。だが、悠人と奏汰の間には依然として微妙な空気が漂っていた。
それは周囲の友人たちにも伝わっているようで、何度か千尋や咲良がそれとなく話題にしようとしていたが、二人とも適当に流していた。
放課後、奏汰は一人で校舎裏に向かった。悠人がそこにいることを、なんとなく分かっていたからだ。
「……よう。」
「……なんだよ。」
悠人は壁にもたれかかりながら、視線を奏汰には向けなかった。
「あの日のこと、話さないか?」
「別に話すことなんてないだろ。」
悠人の口調は素っ気ないが、どこか棘があった。奏汰はそれを察しながらも、引くつもりはなかった。
「あのままでいいのかよ。」
「お前に関係ないだろ。」
その一言に、奏汰の胸がチクリと痛んだ。関係ない。そう言われると、もうそれ以上踏み込むことはできない気がした。
「……そうか。」
言葉を飲み込み、奏汰は悠人を見つめた。しかし悠人は一切目を合わせなかった。
もう何を言っても無駄なのかもしれない。
「じゃあ、せめて――」
だが、言葉を続けようとした瞬間、悠人が苛立ったように舌打ちをした。
「お前、ほんとしつこいな。」
その言葉に、奏汰の中で何かが引っかかった。
(……なんでそんな言い方するんだよ。)
悠人の態度は、ただ単に喧嘩をして拗れているだけのようには思えなかった。
しかし、それを口に出したところで、悠人はきっとまた突っぱねる。そう思うと、奏汰はそれ以上何も言えなくなった。
「……分かったよ。しつこくして悪かったな。」
そう言い残し、奏汰はその場を後にした。
悠人は、その背中を見送ることなく、ただ目を伏せたままだった。
───────
体育祭の準備で騒がしい放課後、教室ではリーダー的な生徒たちが競技の分担や練習日程について話し合っていた。
そんな中、悠人は静かに荷物をまとめ、誰とも目を合わせずに席を立った。
「あ、悠人、帰るの?」
千尋が声をかけたが、悠人は軽く頷くだけで、特に返事をしなかった。
千尋は心配そうに悠人を見たが、それ以上は何も言わなかった。
奏汰もまた、悠人の後ろ姿を横目で追っていた。
結局、あの日の話し合いは何の進展もなく終わったままだ。悠人の態度は相変わらずよそよそしく、距離を縮めるどころか、むしろ遠ざかっているようにさえ思えた。
「……くそ。」
ため息交じりに呟き、奏汰は自分も帰る支度を始めた。
校門を出ると、悠人の背中が見えた。奏汰は少し躊躇ったが、思い切って早足で追いかける。
「悠人、ちょっと待てよ。」
呼び止められた悠人は、一瞬だけ足を止めたが、すぐに歩き出した。
それでも奏汰は歩調を速め、悠人の隣に並ぶ。
「お前、最近ずっと避けてるよな。」
悠人は無言のまま前を見据えていたが、やがて静かに口を開いた。
「別に避けてるわけじゃない。」
「なら、何なんだよ。どうしてそんなに突っぱねる?」
「お前がしつこいからだろ。」
悠人はあくまで冷たい口調だったが、その目はどこか揺れていた。
奏汰はその揺らぎを見逃さなかった。
「……本当にそれだけか?」
悠人は眉を寄せ、一瞬だけ口を閉ざした。
「奏汰、お前さ……俺のこと何も分かってねぇくせに、分かったような顔すんなよ。」
その言葉には、これまでのどの言葉よりも強い感情が込められていた。
「……っ!」
思わず拳を握りしめた奏汰だったが、すぐに力を抜いた。
(悠人は何かを隠している。でも、それを俺に話すつもりはない。)
それが分かってしまうと、どうすることもできなかった。
「……そうかよ。」
それだけ言うと、奏汰は悠人の前から歩き去った。
悠人は、その背中をただじっと見つめていた。
拳を強く握りしめながら――。




