雨
放課後の環境委員会。
今日は月に一度の報告会があり、奏汰と千尋はいつもより遅くまで学校に残っていた。
「次の活動計画、しっかり立てておけよー」
委員長の言葉で解散となり、奏汰は疲れたように軽く伸びをした。
ふと隣を見ると、千尋は特に表情を変えることもなく、淡々と片付けをしていた。
「お前、そういうの面倒くさくないのか?」
「……何が?」
「委員会とか、わざわざ積極的にやるタイプには見えないけど」
千尋は少しだけ考え込むような素振りを見せた後、静かに答えた。
「別に。やるって決めたことは、最後までちゃんとやるだけ」
「……そうか」
変に投げやりでもなく、責任感があるわけでもない。ただ、彼女なりのルールとして物事を淡々とこなしているように見えた。
「帰るか」
奏汰が鞄を持ち、教室を出ようとしたその時——。
ゴロゴロ……
「……雷?」
窓の外を見ると、いつの間にか分厚い雲が空を覆い、雨が激しく降り始めていた。
「やば……結構降ってるな」
悠人がいたら「うわー、最悪!」とでも言いそうな光景だ。
しかし、今ここにいるのは千尋だけ。
「……傘、持ってきた?」
奏汰が尋ねると、千尋はポケットから折りたたみ傘を取り出して見せた。
「お前、ちゃんと準備してるんだな」
「天気予報、見てたから」
「そうか……」
奏汰は自分の鞄を確認するが、当然のように傘は入っていなかった。
「お前は?」
「持ってない」
「……ふぅん」
千尋はしばらく雨を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「……一緒に入る?」
「マジか」
奏汰は思わず口に出してしまった。
まさか千尋のほうから誘ってくるとは思わなかったからだ。
「別に、傘くらい貸すけど。断るなら、一人で濡れて帰れば?」
「いや、そういうわけじゃ……」
奏汰は微妙に気まずそうにしながらも、千尋の傘に入る。
——近い。
折りたたみ傘は大きくはない。
そのため、二人の肩が触れそうなくらいの距離になる。
「……」
奏汰はなんとなく視線の置きどころに困った。
千尋は特に気にする様子もなく、前を向いて歩いている。
雨の音だけが響く静かな道。
(なんだ、この妙な空気……)
奏汰は落ち着かない気分だった。
しかし、それを見透かしたように千尋がぼそっと言った。
「そんなに緊張すること?」
「……別に緊張してねぇよ」
「ふぅん」
千尋はどこか楽しそうだった。
途中、信号で立ち止まった時、千尋がふと呟いた。
「……昔、よくこうやって帰ってたな」
「え?」
「前の学校で。友達と」
「……そっか」
千尋が自分の過去について話すことは珍しかった。
「そいつとは、仲良かったのか?」
「うん……すごく。でも、もういない」
「……?」
奏汰が聞き返すよりも先に、千尋は軽く首を振った。
「気にしないで。ただの昔話」
そう言いながらも、その横顔はどこか寂しげだった。
(……)
奏汰は、それ以上は何も聞かなかった。
しばらく歩き続けると、雨脚が次第に弱まってきた。
「……もう少しで止みそうだな」
「うん」
奏汰は何気なく、千尋の横顔を盗み見た。
彼女は相変わらず表情をあまり変えないが、どこか穏やかな雰囲気を感じた。
「……」
「……ん?」
「なんでもない」
奏汰は、それ以上は何も言わなかった。
そして、静かに雨が止んだ。




