仲違え
二学期が始まって数日が経った。
クラスの雰囲気は、夏休み前と変わらないようで、どこか少し違っていた。
奏汰と悠人。
このクラスで特に目立つ二人の間に、誰もがはっきりとは言えない「何か」を感じていた。
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その日の4時間目は班ごとの発表準備だった。
奏汰と悠人は偶然、同じ班に入っていた。
奏汰の班には、悠人のほかに千尋と、明るくおしゃべり好きな村瀬、落ち着いた性格の田辺がいた。
「じゃあさ、役割決めようぜ。原稿作るのと、スライド作るのと、あと発表担当な」
村瀬がホワイトボードにざっくりと項目を書き出す。
奏汰は軽く手を挙げた。
「俺、スライドやるわ」
「了解。悠人は?」
「……何でもいい」
悠人はスマホを弄る手を止めず、そっけなく言った。
「じゃあ、悠人は原稿作成な」
「……あぁ」
その返事も、どこか投げやりだった。
かつてなら、悠人はこういう場では率先して進めるタイプだった。
それをしないということは、やはりどこかおかしい。
「発表は私がやるね」
千尋が明るく手を挙げ、場を和ませる。
「じゃあ、俺も手伝うわ」
田辺が頷いた。
役割は決まったものの、班の雰囲気はどこかぎこちなかった。
「奏汰、スライド作るなら写真とか必要だろ? 俺、資料まとめとくよ」
「あぁ、助かる」
村瀬と話していると、不意に視線を感じた。
悠人だった。
奏汰と千尋が隣同士で話しているのを、無表情で見つめていた。
その目には、感情が読めない。
「悠人?」
千尋が声をかけると、悠人はふっと視線をそらした。
「いや、何でもない」
短く答える。
その一瞬の表情に、奏汰は胸の奥がざわつくのを感じた。
(なんだ、今の……)
⸻
昼休みになり、奏汰は千尋とともに購買へ向かった。
「悠人、やっぱりなんか変だよね」
パンを手に取る千尋が、ぽつりと言う。
奏汰は答えなかった。
「夏休み前はもっと話してくれてたのに、今は全然……」
「……俺に聞くなよ」
言葉が、思ったより強くなった。
千尋は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑んだ。
「……そっか。ごめん」
その微笑みに、胸が痛む。
「……悪い」
「ううん、いいよ。でも、悠人ともちゃんと話せるといいね」
奏汰は答えられなかった。
⸻
教室に戻ると、悠人は一人で席に座っていた。
「悠人、一緒に食べねーの?」
村瀬が声をかけるが、悠人は軽く首を振った。
「今日はいいわ」
それ以上、誰も何も言えなかった。
昼休みの喧騒の中で、悠人の席だけが、静かに孤立していた。
――埋まらない距離が、そこにあった。




