表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/62

夏休終日

夏の終わりを告げる蝉の声が、まだかすかに聞こえる。

 二学期の始業式が終わり、クラスでは久々の再会を喜ぶ声が飛び交っていた。


「おはよー! 夏休み、どうだった?」

「バイトばっかりで死ぬかと思った」

「宿題終わった?」

「終わったかどうかより、提出するかどうかが問題だろ?」


 教室のあちこちで、そんな会話が交わされる中、奏汰は自分の席に荷物を置き、軽く背伸びをした。

 正直、あまり気分が乗らない。いや、理由は分かっている。


(悠人……)


 ちらりと教室の入り口を見る。悠人はまだ来ていなかった。


 夏休み最後の花火大会の夜――あの喧嘩以来、悠人とはまともに話していない。LINEも一度も送っていないし、向こうからも何の連絡もなかった。

 あの時、自分は何を感じていたのか、未だに整理がつかない。


「奏汰、おはよ」


 背後からかけられた声に振り返ると、千尋が立っていた。

 浴衣姿の彼女が脳裏に浮かび、奏汰は一瞬目をそらす。


「……おはよ」

「夏休み、結局どこにも行かなかったね」

「あー……まあな」


 何を話せばいいのか分からず、曖昧に返事をする。

 千尋は少しだけ口を尖らせたが、すぐに柔らかく笑った。


「今日からまた学校だね」

「そうだな」


 その時、教室の扉が開いた。

 悠人だった。


 彼は周囲に挨拶をするでもなく、真っ直ぐ自分の席へ向かう。

 その表情は、以前と何も変わらないように見えた。

 だけど――奏汰は、決定的な違和感を覚えた。


(何もなかったような顔しやがって……)


 腹の奥がざわつく。

 それを振り払うように、奏汰は深く息を吐いた。


 これから、二学期が始まる。

 悠人との関係は、どうなるのか――奏汰は、答えの見えないまま、新しい学期を迎えたのだった。



二学期の最初のホームルームが終わり、休み時間になると、クラスのあちこちで夏休みの思い出話に花が咲いていた。


「でさ、海行ったらマジでクラゲに刺されてさ!」

「うわ、最悪じゃん!」

「でも日焼けしたし、なんか夏! って感じだったわ」


 そんな他愛もない会話を聞き流しながら、奏汰は何となく窓の外を眺めた。

 悠人はさっきから一言も話していない。席についてスマホをいじるふりをしているが、視線はどこか虚ろだった。


(あいつ、普段はもっと周りと話すのに……)


「奏汰って悠人となんかあった?」


 突然、隣の席の村瀬が話しかけてきた。

 奏汰は少し肩を跳ねさせながら、適当に誤魔化そうとした。


「別に……なんで?」

「いや、今日ずっとお前ら目を合わせてないからさ」


 図星だった。

 しかも、奏汰と悠人だけじゃない。周りのクラスメイトも、どこか二人の様子をうかがっているように見えた。


「夏休みの間に喧嘩でもした?」

「してねぇよ」

「本当に?」


 村瀬はじっと奏汰を見つめる。

 その視線をかわすように、「知らねぇよ」とそっけなく言った。


 ――すると、その時。


「悠人、今度の体育祭、どの競技出る?」


 女子の一人が悠人に話しかけた。

 悠人は一瞬、奏汰の方をちらりと見た気がした。


「……まだ決めてない」


 それだけ言うと、悠人はまたスマホに目を落とした。

 彼にしては珍しく、会話を切り上げるのが早かった。


「……絶対、なんかあったよね」


 村瀬がぼそっと呟く。

 他のクラスメイトも、何となく気まずそうに二人の間を見つめていた。


 ――わかりやすいほどの、違和感。


 それでも、悠人は何も言わないし、奏汰も言うつもりはなかった。


 夏の夜に交わした拳の感触だけが、まだ手の中に残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ