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喧嘩爆痕

夜の境内に響く荒い息遣いと、互いに打ち合った拳の痛みがじんじんと残る。


奏汰と悠人は、互いに拳を握りしめたまま、息を切らして向き合っていた。


「……もうやめろよ」


奏汰が言葉を絞り出すが、悠人は微動だにしない。


「……っ、まだ終わってねぇ」


悠人の目がまだ闘志を宿しているのを見て、奏汰もまた拳を固めた。


バシッ――!


再び拳が交わる直前、


「やめて!!」


少女の悲鳴が、夜の静寂を切り裂いた。


――千尋だった。


「奏汰! 悠人!」


彼女の肩を掴むように、少し遅れて咲良も駆けつける。


二人の乱闘を目の当たりにした千尋の顔が青ざめ、息を呑む。


「何やってるの……!? そんなの、二人ともおかしいよ!」


千尋が叫ぶように言うと、悠人が強く奥歯を噛んだ。


「……関係ないだろ」


「あるよ! 私たち、友達でしょ!?」


「……っ!」


悠人の眉がわずかに歪んだ。


だが、奏汰はその隙を見逃さなかった。


「千尋、下がってろ!」


奏汰が警告するが、千尋は後ろに下がるどころか、二人の間に飛び込もうとした。


「ダメだってば!」


「やめて、こんなのおかしいよ! 何で殴り合うの――」


千尋が奏汰の腕を掴んだ瞬間だった。


悠人の拳が――振り上げられる。


「あっ――」


千尋の目が見開かれる。


悠人の拳が、そのまま千尋の方へと振り下ろされようとしていた。


「――っ!」


奏汰の身体が、反射的に動いた。


ドンッ!


「奏汰っ!」


咄嗟に千尋を突き飛ばし、代わりに奏汰の肩に悠人の拳が直撃する。


「ぐっ……!」


鈍い衝撃が肩を襲い、奏汰は数歩後ずさる。


悠人の目が、大きく揺れた。


「……っ、違う、俺は……!」


千尋を殴るつもりはなかった。だが、奏汰が千尋を庇ったことで、まるで悠人が千尋に手を上げようとしたように見えた。


悠人の表情が凍りつく。


「……千尋、お前……大丈夫か?」


奏汰が息を切らしながら千尋を振り返ると、千尋は呆然とした顔で奏汰を見つめていた。


「奏汰……」


「俺は平気だから……お前は?」


千尋は、かすかに震える声で答える。


「……私、大丈夫。でも、奏汰が……!」


彼女の目が奏汰の肩に向けられる。悠人の拳が当たった肩が赤く腫れていた。


悠人が拳を握りしめたまま、一歩後ろに下がる。


「……俺、そんなつもりじゃ……」


掠れた声が、夜の風に溶けるように消えていく。


「悠人……」


咲良が心配そうに声をかけるが、悠人はそれには答えず、ただ拳を開き、そして閉じる。


「……悪い」


そう呟くと、悠人は踵を返し、闇の中へと足を踏み出した。


「悠人!」


咲良が呼び止めるが、彼は振り向かない。


奏汰は、その背中をじっと見つめる。


「……咲良。頼む」


「っ!……うん!」


奏汰がそう頼むと、咲良は頷いて悠人の背を追って行った。


悠人の本心は、まだ分からない。


だけど――


奏汰の胸の奥には、今までにない違和感が残っていた。


千尋は、奏汰の手をぎゅっと握る。


「奏汰は……行かなくていいの?」


奏汰は、しばらく悠人が消えた方向を見つめた後、小さく首を横に振った。


「……今は、追えない」


悠人が、自分たちに何を隠しているのか――それを知るには、まだ時間がかかりそうだった。


夜空に打ち上げられた最後の花火が、儚く散っていく。


そしてその音は、奏汰の胸に深く響いていた。

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