遊戯型抜
――夜の帳が下り、祭りは佳境に差し掛かっていた。
無数の提灯が灯り、浴衣姿の人々が通りを埋め尽くす。屋台から立ち昇る煙と香ばしい匂いが混ざり合い、賑やかな笑い声が響く。
奏汰、千尋、悠人、咲良の四人は、そんな喧騒の中をゆったりと歩いていた。
「次、どこ行こうか?」
悠人が問いかけると、千尋が少し考え込む。
「うーん……あ、型抜きやりたい!」
「いいね。俺もやろうかな」
悠人が頷くと、咲良も「私も!」と賛同した。
「奏汰は?」
千尋が振り向いて尋ねる。奏汰は屋台の景色を一瞥し、「俺はいい」と肩をすくめた。
「えー、せっかくなんだからやろうよ!」
「俺、こういうの苦手だし」
「苦手なことにも挑戦するのが楽しいんだよ!」
千尋が腕を組んでじっと奏汰を見つめる。奏汰は少し戸惑ったが、しぶしぶ頷いた。
「……わかったよ」
「やった!」
千尋が嬉しそうに微笑むのを見て、悠人が僅かに眉をひそめる。
(……最近、なんかこいつら、やけに自然だよな)
そんなモヤモヤを振り払うように、悠人は型抜きの屋台に向かって歩き出した。
型抜きの屋台には、すでに何人かの客が挑戦していた。店主が「慎重にやれよ」と声をかけながら、型抜きのプレートを渡している。
「よーし、頑張るぞ!」
千尋が気合を入れ、慎重に針を入れる。奏汰も隣でプレートを眺めていたが、なかなか手をつけられずにいた。
「奏汰、ほら、ここから削るといいよ」
千尋が身を寄せ、彼のプレートを指さした。
(……近い)
ふわりと千尋の浴衣の香りが鼻をくすぐる。奏汰は無意識に視線をそらした。
「こう、優しく……って、あっ!」
千尋の手が滑り、プレートが割れる。
「ええっ、そんな……!」
「ははっ、ドンマイ」
悠人が笑いながら、型抜きを続ける。咲良は慎重に作業を進め、形をほぼ崩さずに成功させていた。
「……奏汰は?」
「……ダメだ」
奏汰のプレートも千尋と同じく、粉々に割れていた。
「奏汰も不器用なんだね」
千尋がクスクス笑うと、奏汰は肩をすくめる。
「向いてないって言ったろ」
「まぁ、そういうこともあるよ」
悠人が自分の型抜きを成功させ、店主から景品の小さなキーホルダーを受け取る。
「ほら、これ千尋にやるよ」
「えっ、いいの?」
「千尋、型抜き失敗したしな」
悠人が軽く笑って渡すと、千尋は頬を赤くしながら「ありがとう」と受け取った。
奏汰は何も言わず、その様子を見ていた。
(別に、どうってことない)
そう思うのに、心の奥が微かにざわついた。
「そろそろ花火、始まるんじゃない?」
咲良が腕時計を見ながら言う。
「いい場所、探さなきゃね」
千尋が辺りを見回し、四人は少し離れた丘の上へと向かった。
程なくして、夜空に大きな光が弾ける。
「おお……!」
千尋が思わず歓声を上げる。悠人は穏やかな笑みを浮かべ、咲良も感動したように花火を見上げていた。
奏汰も夜空を見つめながら、花火の音が胸に響くのを感じていた。
ふと、千尋が横を向く。
「……奏汰、なんか考え事?」
「……別に」
「そっか」
千尋は奏汰の隣に寄り添うように座り、「キレイだね」と微笑んだ。
奏汰は何も言わず、ただ空を見上げた。
悠人はそんな二人の様子を横目で見ながら、静かに拳を握りしめる。
(……やっぱり、俺の勘違いじゃないよな)
モヤモヤとした感情が、胸の奥で渦巻いていた。




