祭り遊戯
浴衣姿の千尋と咲良を迎え、四人は連れ立って夜店が並ぶ通りへと歩き出した。
辺りはすでにお祭りの熱気に包まれていて、屋台からは美味しそうな匂いが漂い、色とりどりの提灯が通りを照らしている。
「うわぁ、めっちゃ賑わってる!」
千尋が嬉しそうに目を輝かせる。
「ほんとだね。どこから回る?」
咲良が浴衣の袖を揺らしながら尋ねると、悠人が腕を組んで考え込んだ。
「まずは適当に歩いてみて、気になったとこで止まるのがいいんじゃね?」
「賛成! お祭りって、歩いてるだけでも楽しいもんね」
千尋が頷き、みんなで屋台を回ることにした。
たこ焼き、焼きそば、かき氷――定番の屋台が並ぶ中、奏汰は少しだけ千尋の様子を窺っていた。
彼女は本当に楽しそうで、目を輝かせながら屋台を眺めたり、小さく歓声を上げたりしている。
(なんか……いつもよりテンション高いな)
千尋は普段、落ち着いている方だが、今日はどこか子供っぽくはしゃいでいるように見えた。
「ねえねえ、あれやろうよ!」
千尋が指差したのは射的の屋台だった。
「お、いいじゃん」
悠人が先に並び、千尋もその後ろに並ぶ。
「奏汰もやる?」
「……いい」
「えー、やればいいのに」
「別に、興味ないし」
そんな会話を交わしていると、千尋が銃を構えた。
「よし、当てるよ!」
彼女の狙いは小さなぬいぐるみだったが――
「……あっ」
外れた。
「おーい、千尋、それじゃ全然当たらねぇぞ」
悠人が笑いながらアドバイスする。
「えー、じゃあ悠人がやってよ!」
「いいよ。俺が当てたら、どうする?」
「えっ? なんでも言うこと聞いてくれるの?」
「まあ、ほどほどにな」
悠人はそう言って、余裕の笑みを浮かべながら銃を構えた。
そして――見事にぬいぐるみを撃ち落とす。
「やった!」
千尋が手を叩くと、悠人は得意げにぬいぐるみを千尋に渡した。
「ほら、これで文句ないだろ?」
「すごい! 悠人、ありがとう!」
「おう」
千尋が嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる様子を見て、奏汰は何とも言えない気持ちになった。
(……別に、いいけど)
千尋と悠人が並んで笑い合う姿が、妙に気になった。
自分がどう思っているのか、正直よくわからない。ただ、心の奥に小さな違和感が残る。
その違和感が何なのか、まだ奏汰は気づいていなかった。
夜の帳が下り、お祭りの喧騒はますます活気を増していた。
屋台の灯りが浴衣姿の千尋や咲良を柔らかく照らし、人々の楽しげな笑い声が響く。
「わたあめ食べたいなぁ」
千尋が目を輝かせながら言うと、悠人がすぐに反応した。
「じゃあ、俺が買ってくるよ。千尋、何色がいい?」
「あ、じゃあピンクがいい!」
「了解」
悠人は軽やかに歩き出し、その後ろ姿を千尋は嬉しそうに見送る。
(……なんか、普通に仲いいな)
奏汰はそんな二人のやり取りを横で見ていたが、心の奥がざわつくのを感じた。
「奏汰も何か食べる?」
咲良が声をかけるが、彼は軽く首を振る。
「いや、いい」
「そっか……」
咲良は少し意味ありげな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。
悠人が戻ってくると、千尋は「ありがとう!」と満面の笑みでわたあめを受け取る。
その無邪気な笑顔を見て、悠人もまた優しく微笑んだ。
(……)
奏汰はなぜか目を逸らしたくなった。
「次、どこ行く?」
悠人がそう尋ねると、千尋が少し考えた後に「ヨーヨー釣りやりたい!」と答える。
「おっ、いいね。行こうぜ」
悠人と千尋が歩き出し、咲良もその後を追う。
奏汰は一瞬迷ったが、結局ついていくことにした。
――が、その途中。
「ねぇ、君たち。浴衣、すごく似合ってるね」
不意に、見知らぬ男たちが声をかけてきた。
三人組の大学生らしき男たちが、千尋と咲良の前に立ちふさがる。
「せっかくだし、一緒に回らない?」
千尋が戸惑った表情を浮かべ、咲良はわずかに身を引く。
「えっと、すみません。私たち、友達と来てるので……」
千尋が断ろうとするが、男たちは諦める様子がない。
「いいじゃん、ちょっとくらいさ。ね?」
その瞬間――
「お前ら、何してんの?」
低い声が響いた。
振り向くと、奏汰と悠人が険しい表情で立っていた。
「なんだよ、お前ら?」
「こいつらが嫌がってるんだから、どっか行けよ」
悠人がズイッと一歩前に出る。
「は? なんでお前らが口出すんだよ」
男たちの一人が不満げに言うと、奏汰が冷めた目で言った。
「……またナンパか」
「また?」
千尋が小さく聞き返すが、奏汰は肩をすくめるだけだった。
「……いいから、行けよ。邪魔」
悠人が低く言うと、男たちは舌打ちをして去っていった。
「……はぁ、助かった」
咲良が安堵の息をつく。
「もう……奏汰、さっきの言い方、なんか引っかかるんだけど」
千尋が頬を膨らませて奏汰を睨む。
「別に。ただ、よくナンパされるなって思っただけ」
「何よ、それ……そんなに軽く見られてるってこと?」
「いや、そういう意味じゃないけど」
奏汰が淡々と答えると、千尋は少しムッとした表情になった。
「ふぅん……」
悠人はそんな二人のやり取りを見ながら、どこか複雑そうな顔をしていた。
(……やっぱり、なんか変だよな)
悠人の胸にも、言葉にできない違和感が募っていくのだった。




