花火大会
夏の終わりを告げるかのように、街には花火大会のポスターがあちこちに貼られ始めていた。
昼間の暑さは相変わらずだが、夕方になるとほんの少しだけ涼しさを感じる風が吹くようになり、夏の終盤を意識させる。
そんなある日、グループLINEに咲良からのメッセージが届いた。
「今年の花火大会、一緒に行かない?」
すぐに千尋が反応する。
「行きたい!」
それに続くように悠人も「いいね」と短く返し、奏汰も「行く」とだけ送った。
すると、咲良がすかさず新たな提案を出してくる。
「せっかくだから、みんな浴衣で行こうよ!」
「いいね、夏っぽい!」
千尋が乗り気になり、グループの雰囲気は一気に盛り上がる。
楽しげなスタンプがいくつも飛び交いながら、自然と花火大会の予定が決まっていった。
奏汰はスマホを眺めながら、ふと千尋の浴衣姿を想像してしまう。
(どんなの着るんだろ……いや、俺が気にすることじゃないけど)
そんな考えを振り払うようにスマホを閉じるが、なぜか心のどこかが落ち着かなかった。
花火大会当日。
昼間の強烈な日差しが少し和らぎ、夕暮れの空が茜色に染まり始めたころ、奏汰は待ち合わせ場所へと向かっていた。
駅前のロータリーにはすでに人が集まり始めていて、浴衣姿の人もちらほら見える。
浴衣を着ることに慣れていないのか、少し歩きにくそうにしている人もいれば、スマホを片手に友達と笑い合う姿もあった。
(みんな、そろそろ来るかな)
そう思いながらスマホを開くと、悠人からメッセージが届いていた。
「もう着いた」
奏汰が顔を上げると、少し離れたところに悠人が立っていた。
彼は浴衣ではなく、ラフなTシャツとジーンズだったが、いつもより少し落ち着いた雰囲気がある。
「お前、浴衣じゃねぇの?」
「持ってねぇし、別にいいかなって」
悠人は肩をすくめる。
「奏汰も私服なんだな」
「うん。浴衣なんて持ってないし」
二人が軽く言葉を交わしていると、待ち合わせ場所に向かってくる二人の姿が見えた。
「お待たせ!」
千尋と咲良だった。
「……」
奏汰は思わず言葉を失う。
千尋は淡い青色の浴衣を身にまとい、白い帯をきゅっと締めていた。
普段の制服姿とはまるで違い、大人っぽさと涼しげな印象を与えている。
咲良はピンクと白の花柄の浴衣で、髪を可愛らしく結んでいた。
元々華やかな雰囲気のある子だったが、浴衣を着ることでより一層目を引く存在になっていた。
「どう?」
咲良がくるりと回ってみせる。
「似合ってる」
悠人が即答した。
「奏汰は?」
咲良がニヤニヤしながら奏汰の反応をうかがう。
「……うん、似合ってる」
奏汰は少し視線をそらしながら答えた。
「千尋は?」
咲良が楽しそうに千尋の方へ視線を向ける。
「えっ?」
千尋は少し戸惑ったような表情を見せるが、内心では少し期待しているようにも見えた。
「……両方、似合ってる」
「えー、どっちが?」
咲良がさらに追及するように問いかける。
奏汰はちらりと千尋を見た後、少しだけ考えてから口を開いた。
「……千尋の方が、似合ってるかな」
その瞬間、千尋の頬が少し赤く染まった。
「……そ、そう?」
「うん」
奏汰はそれ以上何も言わず、前を向いたまま歩き出した。
悠人はそのやり取りを見つめながら、少し複雑そうな表情を浮かべた。
(……やっぱ、俺は)
そんな悠人の視線には、ほんのわずかに迷いがにじんでいた。




