委員会
新学期が始まり、一週間が経った。
授業やクラスの雰囲気にも少しずつ慣れ始めた頃、生徒たちにとって避けては通れないものがやってくる。
——委員会決め。
「今年度のクラス委員、学級委員、その他の委員会を決めるぞー」
担任の先生が黒板に委員会の一覧を書きながら、手際よく説明を進める。
「俺、学級委員とかは無理なんで、パスで」
奏汰は最初から消極的だった。面倒ごとを避けるため、できるだけ負担の少ない委員会を選ぶつもりだった。
一方で、悠人は積極的に手を挙げる。
「じゃあ、俺は体育祭実行委員やるわ!」
「悠人、やると思った!」
クラスの笑い声が響く。彼は元々、こういうイベントごとに関わるのが好きな性格だった。
奏汰は、それをぼんやりと見ながら適当に決めようとしていたが——。
「環境委員会、誰かやるか?」
先生の言葉に、誰も手を挙げない。
「えー、いないのか? なら推薦で——」
「私、やります」
静かな声が教室に響く。
——千尋だった。
転校生である彼女が、まさか自分から委員会に手を挙げるとは思っていなかったクラスメイトたちは、驚いた表情を見せる。
「おっ、千尋やるのか。助かるなぁ。他にもう一人……」
その時だった。
「……」
なんとなく、その場の空気が奏汰のほうに向いた気がした。
(いや、俺は別に——)
「奏汰、いいんじゃね?」
悠人の無邪気な一言が、すべてを決めた。
「えっ、俺?」
「だって、どうせ暇だろ?」
「……うるさい」
周囲からも「いいじゃん、やっちゃえよ!」という声が上がる。
「決まりだな。奏汰も環境委員!」
担任の先生が容赦なく黒板に名前を書いた。
こうして——。
奏汰は千尋とともに、環境委員会に所属することになった。
翌日、環境委員会の初回会議が開かれた。
環境委員の仕事は、主に校内の美化活動や植物の管理、リサイクル推進など。
委員長が決まり、ざっと活動内容が説明される。
「まあ、そこまで大変な仕事はないと思うけど、適当に分担決めてやってこう」
奏汰は黙って話を聞きながら、ちらりと千尋を見る。
彼女は無表情のまま、何も言わずに座っていた。
「んじゃ、校内の清掃チェック担当、誰かやる?」
「……」
またしても沈黙。
「じゃあ、転校生の千尋と、えーっと……奏汰で」
「……は?」
またか。
「二人で掃除用具の点検と、教室のゴミ箱整理とか頼むわ」
奏汰はため息をつきながらも、しぶしぶ了承した。
一方の千尋は、特に何も言わず、ただ静かにうなずくだけだった。
放課後、二人は校内を回りながら、ゴミ箱のチェックをしていた。
千尋は相変わらず必要最低限のことしか話さない。
奏汰も無理に話す気はなかった。
「……」
「……」
無言のまま、ゴミ箱の中身を確認し、分別ができていないものを整理する。
「静かすぎないか?」
ついに耐えきれなくなったのか、奏汰がぼそっと呟いた。
「別に話すことないし」
千尋は淡々と答える。
「普通、こういう時ってもうちょい会話しないか?」
「……そう?」
「……」
会話が、続かない。
「……つまんないやつだな」
「そっちこそ」
お互い、同じように言い返す。
その時——。
「おーい、お前ら、ちゃんとやってるかー?」
悠人が突然、廊下から顔を出した。
「お前、環境委員じゃないだろ」
「いやー、なんか二人が一緒に活動してるのが気になってさ!」
悠人はにやりと笑い、千尋のほうを向く。
「千尋、奏汰と二人で作業してどうよ?」
「……別に、普通」
即答だった。
「お、手厳しいねぇ。奏汰、お前、つまんないってさ!」
「……うるさい」
悠人の明るい調子に、千尋は少しだけ口元を緩めたように見えた。
奏汰は、その表情をなんとなく見逃さなかった。
その日の活動が終わり、二人は帰り支度をしていた。
「……明日も同じ時間に集合でいいか?」
「うん」
千尋は短く答えたあと、ふと奏汰を見た。
「……あんたも、意外とちゃんとやるんだね」
「は?」
「適当にやるかと思ったけど」
千尋は少しだけ、微笑んだように見えた。
奏汰は一瞬、言葉に詰まる。
「……当たり前だろ」
「ふぅん」
それだけ言うと、千尋は先に帰っていった。
奏汰は、残されたまま、彼女の後ろ姿を見送った。
(なんだ、アイツ)
最初はそっけなく、距離を取ろうとしていたのに。
たった一言の変化に、なぜか心がざわつく——。
春の終わりとともに、彼らの関係は少しずつ、形を変え始めていた。




