ナンパ水着
更衣室の前で、奏汰と悠人は並んで待っていた。
「女子の着替えって、なんでこんなに時間かかるんだろうな」
「……さぁな」
悠人がぼやくと、奏汰は腕を組んで短く返した。
「お待たせー!」
軽やかな声とともに、更衣室の扉が開く。
奏汰と悠人が振り向くと、そこには普段とは違う姿の千尋と咲良が立っていた。
千尋は水色のシンプルなビキニに、透け感のあるパレオを巻いている。いつもより少し大人びて見えた。
咲良は鮮やかな水色のフリル付きワンピース型。明るい雰囲気にぴったりで、まるでアイドルみたいだった。
「……どう?」
千尋が少し照れくさそうに尋ねると、奏汰はじっと見たあと、ふっと笑った。
「……まぁ、両方似合ってるな」
「まぁ?」
千尋が少しムッとすると、奏汰は軽く肩をすくめた。
「じゃあ、どっちが似合ってる?」
咲良が興味津々で聞くと、奏汰は一瞬考え——そしてズバリと言った。
「千尋は、そのパレオなしのほうがいいんじゃねぇの?」
「っ……!」
奏汰の率直な言葉に、千尋は一気に顔を赤らめる。
「な、何言ってんのよ……」
「いや、隠してるよりそっちのほうが……まぁ、似合ってるって話」
「べ、別にいいでしょ!これはこれで!」
千尋は慌ててパレオを押さえながら、ちらりと悠人を見た。
悠人は苦笑しながら「どっちもいいんじゃない?」とだけ言う。
咲良はくすくす笑いながら、「奏汰って意外とはっきり言うんだね」と茶化した。
「はっきり言わねぇと、めんどくせぇだろ」
奏汰はそう言って、さっさと波のプールへ向かって歩き出した。
千尋は頬を赤らめながら、その後ろ姿を少し睨むように見つめる。
「……ほんともう!」
「でも、嬉しそう」
咲良がからかうように言うと、千尋はさらに顔を赤くした。
楽しく遊んで、そろそろ昼食をとろうという流れになったとき——
「ちょっとトイレ行ってくるね」
千尋と咲良はそう言って、女子更衣室のほうへ向かった。
奏汰と悠人は先にフードコートの近くで待つことにし、ベンチに腰を下ろす。
「……水泳部だっただけあって、お前、泳ぎ安定してるな」
「まぁな」
悠人が苦笑しながら言うと、奏汰は軽く肩をすくめた。
「でも、波のプールとか久々に入ると意外と楽しいな」
「それな」
そんな会話をしていた時——遠くの方から、少し強めの声が聞こえてきた。
「ちょっと、やめてください!」
奏汰と悠人は反射的に顔を見合わせ、声のした方へと視線を向ける。
「……またかよ」
奏汰が呆れたように言うと、悠人も小さくため息をついた。
——更衣室の近くで、千尋と咲良が見知らぬ男たちに声をかけられていた。
「少しだけ遊ぼうよ、ね?」
「いや、結構です」
「そんな冷たいこと言わずにさ〜」
男たちはしつこく絡んでおり、千尋が軽く眉をひそめている。
奏汰はすぐに立ち上がると、悠人と一緒にその場へ向かった。
「おい、そいつらの知り合いか?」
悠人が奏汰に尋ねると、奏汰はため息混じりに答えた。
「違ぇよ、ただのナンパだろ」
「……助けるか」
二人は迷わず歩き出し、ナンパ男たちの前に立ちはだかった。
「悪いけど、こいつら俺たちと一緒なんで」
奏汰が低い声で言うと、ナンパ男たちは一瞬顔をしかめた。
「え?いやいや、別に悪いことしてないし?」
「でも迷惑だってよ」
悠人も静かに言い放つ。
奏汰と悠人の二人にじっと見られた男たちは、気まずそうに笑ってその場を去っていった。
「ったく、またナンパかよ……」
奏汰が呆れたように言うと、千尋が少しむくれながら言い返した。
「そんなにナンパされるのが悪い?」
「いや、そうは言ってねぇけど」
「もう……」
千尋は少し頬を膨らませながらも、助けてくれたことには感謝している様子だった。
咲良も「本当にありがとう」と微笑むが、悠人はそんな彼女たちを見ながら、どこか複雑そうな表情を浮かべていた——。