デートショッピング
水着を決めたあと、千尋はホッとしたように袋を抱えた。
「やっと決まったー!奏汰のおかげ!」
「俺はただ付き合わされた側だけどな」
奏汰は軽く肩をすくめる。
千尋はちらりと時計を見ると、まだ昼過ぎだった。
「せっかくだし、他の店も見ていかない?」
「……まだ見るの?」
「だって、水着だけじゃもったいなくない?」
奏汰は「はぁ……」とため息をつきつつも、「まあいいけど」と歩き出した。
千尋が選んだ次の店は、カジュアルな服が揃うショップだった。
「奏汰もなんか見たら?」
「俺、こういうの興味ねぇし」
「そんなこと言わずに!ほら、私、ちょっと試着してくるから待ってて!」
千尋はそう言って試着室へと入っていった。
しばらくして、ふわっとしたワンピース姿で現れる。
「どう?」
「……似合ってるんじゃね?」
「ふーん……」
奏汰の反応が、さっきの水着選びよりあっさりしている。
「ねえ、ちょっと!水着のときの方が真剣だったじゃん!」
「別にどっちでもいいし」
「ひどい!」
千尋がぷくっと頬を膨らませると、奏汰は苦笑した。
ショッピングを一通り終え、二人はフードコートで休憩することにした。
千尋はクレープ、奏汰はアイスコーヒーを手にして席に座る。
「今日、結構歩いたね」
「お前が色々回るからな」
「でも楽しかったでしょ?」
奏汰は答えずにアイスコーヒーを飲む。
千尋はニヤッとして、「まあまあ、付き合ってくれてありがとう」とクレープを半分にちぎって奏汰の前に置いた。
「ほら、食べていいよ」
「……別にいらねぇけど」
「せっかくあげるって言ってるのにー」
「……チョコソース、ついてんじゃん」
「ダメ?」
「……まあ、もらうけど」
奏汰は渋々受け取りながらも、一口食べる。
千尋は満足そうに微笑んだ。
(なんだかんだ言っても、一緒にいてくれるんだよね)
そんなことを思いながら、千尋は残ったクレープを頬張った——。
フードコートでの休憩を終えたあと、千尋が「ちょっと寄りたいところがある!」と言って向かった先は、ゲームセンターだった。
「ゲーセン?」
「うん、あんまり来たことないから」
「へぇ……意外」
「なんで?」
「いや、お前、こういうとこ好きそうなのに」
「そう思うならもっと早く連れてきてよ!」
千尋は冗談っぽく笑いながら、クレーンゲームのコーナーへ向かう。
「わっ、このぬいぐるみ可愛い!」
奏汰がチラッと見ると、小さな白いクマのぬいぐるみだった。
「取ってみたら?」
「うーん、やってみる!」
千尋は真剣な表情で操作レバーを握ったが——結果は惨敗。
「……全然取れないんだけど」
「まぁ、そういうもんだろ」
「奏汰、やってみてよ」
「俺?」
「うん!一回だけ!」
奏汰は少し面倒くさそうにしながらも、100円玉を入れる。
クレーンがゆっくりと動き——カシャン。
「……あれ?」
ぬいぐるみは見事に奏汰の手の中へ。
「え、すごっ!」
「運が良かっただけだろ」
「いやいや、すごいって!ありがと!」
千尋は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。
奏汰は「別に……」とそっけなく答えながら、ふと千尋がぬいぐるみを見つめて微笑むのを横目で見る。
(まぁ……取れてよかったか)
ゲームセンターを出た後、千尋はショッピングモール内の雑貨屋へと足を運んだ。
「こういうアクセサリーとか、小物見るの楽しくない?」
「まあ、俺は別に……」
奏汰は興味なさそうにしながらも、千尋が楽しそうに並んでいるピアスやブレスレットを見ているのを、隣でなんとなく眺めていた。
「これ、可愛くない?」
千尋が手に取ったのは、小さな星のチャームがついたブレスレット。
「ふーん……お前、そういうの好きなんだ?」
「うん!シンプルだけど可愛いでしょ?」
奏汰は適当に頷きながら、ふと後ろを振り返る。
(……今、誰かに見られてたような)
気のせいかもしれないが、なんとなく落ち着かない感覚があった。
「奏汰?」
「……いや、なんでもねぇ」
「変なの」
千尋は首をかしげながらも、気にせずブレスレットを棚に戻した。
日が傾き始めた頃、二人はショッピングモールを後にした。
「楽しかったね!」
「お前が楽しけりゃ、いいんじゃね?」
「もっと素直に『俺も楽しかった』って言ってくれていいのにー」
「言わねぇよ」
「ちぇー」
千尋は不満そうにしながらも、ぬいぐるみを抱えて嬉しそうに歩いている。
その姿を見ながら、奏汰はポケットに手を突っ込み、さっき買った小さな袋の存在を確認した。
(あのブレスレット……なんとなく、買っちまったけど)
次に渡すタイミングを考えながら、奏汰は軽くため息をついた。
——少しずつ、二人の距離は縮まっていく。