ショッピング水着
夏休みも中盤に差し掛かり、暑さが一層厳しくなってきたある日。
奏汰のスマホが振動する。
《夏の計画》
悠人:「お前ら、今度の休み暇?」
千尋:「お!また映画?」
悠人:「いや、もっと夏らしいことしようと思ってさ」
咲良:「夏らしいこと?」
悠人:「プールとかどう?」
千尋:「いいね!涼しくなれるし!」
咲良:「楽しそう!」
悠人:「流れるプール、波のプール、ウォータースライダー……完璧じゃね?」
千尋:「絶対楽しいやつ!!」
咲良:「でも、私水着新しいの買わなきゃ……」
千尋:「あ、私も!」
悠人:「じゃあ、買いに行ってきなよ(笑)」
咲良:「誰か一緒に行かない?」
千尋:「奏汰、一緒に行こ!」
奏汰:「は?」
悠人:「お、奏汰と水着デートか(笑)」
奏汰:「なんで俺なんだよ」
千尋:「えー?だって誰かに意見聞きたいし」
奏汰:「俺に聞くな」
千尋:「いいじゃん、付き合ってよー!」
悠人:「奏汰、頼んだ!」
奏汰:「……めんどくせぇ」
千尋と咲良の水着選びに付き合うことになった奏汰は、スマホを見つめながら小さくため息をついた。
休日の午前中。奏汰は待ち合わせ場所の駅前へ向かっていた。
(……めんどくせぇ)
水着を買うのに男が付き合う意味がわからない。
だが、千尋に頼まれると断り切れず、結局こうして足を運んでいた。
駅前の広場には、すでに千尋の姿があった。
が——その隣に見知らぬ男が立っている。
「ねえ、今から暇?ちょっとお茶でもどう?」
「え、あの……私、待ち合わせが……」
千尋が困惑した表情で身を引くが、男はしつこく食い下がっていた。
奏汰は舌打ちすると、そのまま二人の間に割って入る。
「おい」
千尋が驚いたように奏汰を見上げる。
「遅れて悪かったな。行くぞ」
奏汰は千尋の腕を軽く引いた。
男が「なんだよ、お前」と不満そうに言うが、奏汰は無視してその場を離れた。
千尋も何も言わずについてきた。
人混みを抜け、ショッピングモールに入ったところで千尋が口を開く。
「助かった……ありがとう」
「変なのに絡まれるお前が悪い」
「うっ、それは……」
千尋は気まずそうに俯く。
「でも、奏汰が来てくれて安心したよ」
「そりゃよかったな」
「……なんかちょっとカッコよかったし」
「は?」
「ううん!なんでもない!」
千尋は笑いながら足早に歩き出す。
奏汰は彼女の後ろ姿を見ながら、なんとなく落ち着かない気分になっていた——。
ショッピングモールの水着売り場。
千尋は試着室のカーテンを少し開けて、外に立つ奏汰を覗き見た。
「奏汰、ちょっと見てほしいんだけど……」
「……なんで俺が」
「ほら、せっかく付き合ってもらってるし!」
ため息をつきながらも、奏汰は試着室の前で待つ。
カーテンが開くと、千尋が水色のビキニ姿で立っていた。
「どう?」
「……まあ、普通に似合ってんじゃね?」
「普通ってなに!」
千尋はぷくっと頬を膨らませる。
「もう一つも着てみるから、ちゃんと見ててよ!」
奏汰が適当に頷くと、千尋は再びカーテンの奥へ消えた。
数分後、今度は白地に花柄のワンピースタイプの水着で現れる。
「これならどう?」
奏汰は二つを見比べ、少し考え込むように腕を組んだ。
「どっちも似合ってるんじゃね?」
「えー、それじゃ決まらないよ!ちゃんと選んで!」
千尋がじれったそうに言うと、奏汰は少し面倒くさそうに息を吐く。
「……じゃあ、こっち」
そう言って指をさしたのは——水色のビキニだった。
「そっちかぁ……なんで?」
「似合ってるから」
「……っ」
あまりにもあっさり言われて、千尋は思わず言葉を詰まらせる。
「え、えーっと……そ、そうなんだ」
「なに、嫌ならやめれば?」
「いや、嫌とかじゃなくて……ちょっと意外だっただけ!」
千尋は誤魔化すように試着室に戻りながら、顔の熱を感じていた。
(……そういうことサラッと言うのずるいじゃん)
ドキドキする胸を押さえながら、水着を脱ぐ千尋の頬はまだ赤かった——。