カラオケ
「終わったーーー!!!」
教室から出るなり、千尋が大きく伸びをして歓声を上げた。
「やっと解放された……!」
「お前、全力で勉強したみたいに言うなよ」
奏汰が苦笑しながら言うと、千尋はぷくっと頬を膨らませた。
「ちゃんとやったもん!」
「いや、最後の最後で『もういいや!』って投げてたじゃん」
「そ、それは……!」
千尋が言い淀んでいると、悠人がクスクスと笑いながら近づいてきた。
「まあまあ、とりあえず終わったんだし、今日は楽しもうぜ」
「そうだね!」
咲良がにこっと微笑んだ。
今日は、みんなで試験お疲れ会としてカラオケに行く約束をしていた。
奏汰、千尋、悠人、咲良、それから同じグループの何人かも一緒だ。
夕方、カラオケボックスの前に集合すると、すでに数人が待っていた。
「おー、みんな揃った?」
悠人が確認すると、全員が頷く。
「じゃあ、さっそく行こうか!」
店内に入ると、個室に案内された。
広めの部屋には大きなソファとテーブル、そしてマイクが2本。
「ドリンクバー付きだから、好きなの取ってきていいって!」
「やったー!」
千尋がさっそくドリンクを取りに行き、咲良もそれに続く。
奏汰は部屋の片隅に座りながら、悠人と目が合う。
「お前、歌う気ある?」
「……まあ、適当に」
「だよな」
悠人はクスッと笑いながらリモコンを操作し、最初の曲を入れた。
最初に歌ったのは咲良だった。
「わぁ、咲良めっちゃ歌上手い!」
「いやいや、そんなことないよ」
照れながらも、咲良は満足げに微笑んでいた。
次に千尋が選んだのは、アップテンポなポップソング。
彼女はノリノリでマイクを握り、楽しそうに歌い始めた。
「千尋、テンション高いな」
「まあ、あいつらしいよな」
奏汰は悠人と肩をすくめながら、そんな千尋の姿を眺めた。
自分はあまり歌わないタイプだけど、こういう雰囲気は嫌いじゃない。
(……楽しそうだな)
千尋の無邪気な笑顔を見て、なんとなくそう思った。
「次、誰歌う?」
千尋がマイクを持ったまま振り返る。
「奏汰、そろそろ歌ったら?」
「いや、俺はいい」
奏汰が断ると、悠人がニヤリと笑う。
「お前、前に歌ったとき普通に上手かったじゃん。隠れ実力者なんだし、たまには披露しろよ」
「そんな大したことないって」
そう言いつつも、周りからの「歌ってみてよ!」という声に押され、渋々リモコンを手に取る。
(まあ、適当に一曲だけ)
選んだのは落ち着いたバラード曲。
奏汰がマイクを持って歌い始めると、千尋は驚いたように目を見開いた。
「……え、奏汰、普通に上手い……」
「だろ?」
悠人がドヤ顔で言う。
奏汰が歌い終わると、拍手が起こった。
「もっと歌えばいいのに!」
「いや、もう十分だろ」
奏汰は少し照れくさそうに視線を逸らす。