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勉強会

「そろそろヤバくない?」


千尋の一言で、期末試験に向けた勉強会が開かれることになった。


「確かに、今回は範囲も広いし、一人でやるより集まって勉強したほうが効率良さそう」


奏汰が頷くと、悠人が軽く肩をすくめる。


「まあ、俺は別にそこまで焦ってないけどな」


「悠人は余裕すぎるんだよ」


「そうそう、ちょっとは焦ってほしいよねー」


千尋と奏汰のツッコミに、悠人は笑いながら手をひらひらと振った。


「で、どこでやる?カフェとか?」


「うーん、騒がしくないところがいいよね」


「……あ、そうだ」


奏汰がふと思い出したように言う。


「俺の親戚のカフェ、二階に貸し切りできるスペースがあるんだ。そこなら静かに勉強できると思うけど」


「えっ、そんなとこあるの?」


「うん。普段は使われてないから、多分大丈夫」


「じゃあ、そこでやろう!」


こうして、週末に奏汰の親戚が経営するカフェで勉強会を開くことが決まった。



週末の午後、カフェの二階。


木のぬくもりを感じる落ち着いた空間に、4人分の飲み物とノートが広げられる。


「さーて、頑張りますか!」


千尋が気合を入れ、早速ノートを開いた。


「まずはどこからやる?」


「数学とか?」


「お、いいね。俺、数学なら得意だし」


悠人が得意げに答えると、千尋が少しだけ眉を下げた。


「……実は私、数学がちょっと苦手なんだよね」


「ほう?」


悠人がにやりと笑う。


「じゃあ、先生が教えてあげましょうか、生徒さん?」


「なにその言い方!」


「まあまあ、遠慮せずに頼れよ。ほら、この問題とか、こうやって考えると——」


悠人が千尋のノートを覗き込み、スラスラと解説を始める。


(悠人って、こういうとこ本当に頭いいんだよな……)


奏汰は隣でその様子を見ながら、なんとなくノートにペンを走らせた。


千尋は真剣に聞いていて、悠人もそれに応えるように説明している。


(……なんか、楽しそうだな)


そんな風に思ってしまう自分に、奏汰は内心で首を振った。


「……奏汰?」


「え?」


「なんか、さっきから静かだけど、分からないとこあるなら聞けば?」


悠人がふと声をかける。


「いや、別に……。俺は大丈夫」


「そっか。でも、奏汰って意外と真面目に勉強するよな」


「え、意外?」


「うん。もっと適当かと思ってた」


「それはひどいな?」


「はは、ごめんごめん」


奏汰が少し苦笑していると——


「悠人くん、わたし、こっちの問題が分からないんだけど……」


咲良が悠人に甘えるようにノートを差し出した。


「あー、これは——」


悠人はそちらに意識を向け、千尋とのやりとりは一旦中断。


その間に、奏汰は千尋のノートを覗き込んだ。


「ここ、さっきの応用だけど、分かる?」


「えっ?」


「さっき悠人が言ってた方法で解くと、こうなるんじゃないか?」


奏汰が何気なくアドバイスすると、千尋は驚いたように顔を上げた。


「……ほんとだ!すごい、奏汰!」


「まあ、さっきの説明を聞いてたからな」


「でも、私が理解できるように言い直してくれたの、奏汰のおかげだよ」


そう言われて、奏汰は少し戸惑う。


(……なんか、くすぐったいな)


「ま、まあな」


「あ、ちょっと照れてる?」


「照れてねえよ」


そんなやりとりをしていると、悠人がふと視線を向けた。


「お、なんかいい感じだな」


「えっ?」


「いや、奏汰もちゃんと教えられるんだなーと思ってさ」


「なんだよ、それ」


「別にー?」


悠人は軽く笑って肩をすくめる。


その横で、咲良が少しだけ千尋の方を見ていた。



その後も勉強会は続き、数学の次は英語、さらに社会科目へと進んだ。


途中で休憩を挟みながら、雑談を交えつつ、それぞれの勉強スタイルが見えてくる。


悠人はスラスラと問題を解きつつ、適当に解説を入れるタイプ。

千尋は真面目にノートを取りながらも、分からないところは素直に質問する。

奏汰は一歩引きつつも、要所で千尋に助言を入れる。

咲良は悠人に甘えながら、楽しそうに勉強している。


そんな空間の中で、奏汰はふと千尋の横顔を見た。


(……なんか、楽しそうだな)


少し前までは、千尋とこんな風に勉強することなんてなかった。

でも今は、こうして一緒に机を並べている。


「さて、そろそろ休憩にするか?」


悠人が伸びをしながら言う。


「賛成ー!」


千尋が手を上げ、咲良も笑う。


「じゃあ、飲み物でも追加で頼もうか」


奏汰が立ち上がり、みんなのオーダーを聞く。


その何気ない時間の中で、彼の胸の奥には言葉にならない感情が、少しずつ芽生えていた——。

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