告白
放課後、悠人は教室で鞄を肩にかけながら、ふと外を見た。
春の夕陽が校舎に差し込み、心地よい風が窓から吹き込んでくる。
「悠人くん、ちょっといい?」
声をかけられ、振り向くと、そこにいたのは咲良だった。
(咲良……?)
同じクラスの女子で、以前、合宿の班が一緒だった。
明るくて、誰とでも仲良くできるタイプで、班のまとめ役になってくれていた。
「どうした?」
「少し話したいことがあって……いいかな?」
咲良は微笑みながら、どこか緊張した表情を見せる。
悠人は少し戸惑いながらも、「いいよ」と頷いた。
二人は校舎の裏手にある中庭へと向かった。
「改めてだけど……悠人くん、ありがとうね」
「え?」
「合宿のとき、班長として引っ張ってくれたじゃん。悠人くんがいたから、すごく楽しかったんだ」
「いや、そんな大したことしてないよ」
悠人は照れくさそうに首をかしげた。
合宿中、悠人は自然と班をまとめる役割をしていた。
咲良もそれをサポートしてくれていたが、こうして改めて感謝を伝えられると、少し気恥ずかしい。
「でもね、実は……そのときから、ずっと気になってた」
咲良は少し頬を染めながら、まっすぐ悠人を見つめた。
「悠人くんが好きです。付き合ってほしい」
心臓が一瞬、跳ねる。
咲良の言葉は真っ直ぐで、嘘がない。
彼女は少し緊張した様子で、それでも笑顔を浮かべていた。
悠人は咄嗟に何も言えず、黙ってしまう。
(告白……か)
予想していなかったわけではない。
咲良とは仲が良かったし、そういう雰囲気を感じることもあった。
だけど、悠人の胸の中には、別の何かが引っかかっていた。
(俺……どうしたいんだろう)
ほんの数日前、スーパーで見た奏汰と千尋の姿が脳裏に蘇る。
並んで歩く二人の雰囲気が、やけに自然で、親密に見えた。
あのとき、自分は何を思った?
ただの友達として、少し驚いただけ?
……違う。
あのとき、心の奥底で確かに感じた。
「なんで、こんなに気になるんだろう」
だけど、その答えは見つからなかった。
「悠人くん?」
沈黙する悠人を見て、不安そうに咲良が声をかける。
悠人は顔を上げた。
咲良は、何の迷いもなく悠人を見つめている。
彼女の気持ちは真っ直ぐで、悠人はそれを踏みにじるようなことはしたくなかった。
「……ありがとう、咲良」
悠人は一度息を吸い、口を開いた。
「少し考えてもいい?」
「……うん」
咲良は寂しそうに微笑んだが、無理に答えを求めることはなかった。
悠人は自分の胸の中にあるモヤモヤを整理できないまま、その場を後にした——。