エッセイ「空白の一時間」
小説ではなく、エッセイです。
高2のある日、その時の担任だった30代後半の男の先生に、「今度、一時間分、授業の時間が空くからクラスで好きな事をやろうと思うんだけど、何がいいかな?」と言われた事があった。クラスのみんなは急な事だったので、口をつぐんだ。
先生はクラス委員の男女2人を教壇に呼び、クラスのみんなにアンケートをとらせた。一人一人に紙切れを配り、それにやりたいものを書き込んで無記名で提出する。そして回収した紙をクラス委員が一枚一枚読み上げ、それを黒板に書いて行った。
「下校」一
「下校」二
「マーメキュー」一(マーメキューというのは、当時クラスで流行っていた言葉で、バーベキューを文字ってバーベキューの肉の代わりに豆を焼くといった、なぜそんな言葉が流行ったのかは意味不明である)
「マンガを読む」一
「下校」三
「下校はまずいな〜」
『下校』の票が伸び、『下校』で決定してしまう事を恐れた先生がそう口を挟んだ。
「マーメキュー」二
「マーメキュー」三
「下校」四
「下校」五
「即下校」六
この『即下校』は自分の書いたものだった。『下校』、『下校』、と続いていただけに、三段落ちのように実にタイミングよく読まれ、単調化していたアンケートにいいアクセントにもなった。『クラス委員もそのまま読まなくてもいいだろう』というのが自分だけツボで、自分の中ではその答えに満足し、笑うのを必死に堪えていた。
アンケートはいつしか『下校』と『マーメキュー』の一騎打ちのような形になっていた。
「マーメキュー」四
「マーメキュー」五
「下校」七
「マーメキュー」六
「マーメキュー」七
そしてクラス委員がアンケートを全て読み上げ、先生はその黒板に書かれたアンケート結果を確認すると、はっきりとした口調でこう言った。
「じゃー、マーメキューだな」
ダラダラとしていたクラスは、その一言で一気に静まり返った。
「バーベキュー、いや、マーメキューセットは先生が持ってくるとして、後は豆だな...」
それを聞いたクラスのみんなはポカーンとしていた。
そんな先生を見ると、いたって真面目な顔だった。
その時『せーの』でクラスのみんなで同じ事を言って、それが出来たら100万円と言われたら絶対にチャレンジしていたし、絶対に取れる自身もあった。
『せーの、ホントにやんのかよ!』と。
これで見事100万円獲得だっただろう。
『この先生すげー』と、もっと凄かったのが、後日、そのアンケート結果は本当に現実になった事だ。みんなで豆を持参し、先生のバーベキュー、いや、その日限定でマーメキューセットと化したその物で、普通にみんなで豆を焼き、普通にみんなで豆を食べる。なんだこの光景は。しかし未だに分からないのは、あの先生は物凄い真面目な人なのか、物凄い笑いの分かる人どっちなのかという事だ。もしかしたら、アンケートという名の大喜利を一人で楽しんでいただけなのかもしれない。『お前らもまだまだだな』と...。
くだらないエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。
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