12:vs『愛玩犬』 その2
「メンテナンスが無事終わって良かったですね」
「ありがとうございます。非常に可愛らしいデザインでしょう? ご主人も大変気に入ったようで、数時間前までは、それはとてもお元気で。ふふ、私困ってしまいました。しかし、ご主人の欲を受け入れるのが『愛玩犬』の仕事です」
メンテナンス・・・全身整形が終わったことを松山に笑顔で返す藍原。スカートをたくしあげ、股に指を挿れて行為を思い出している。淫靡な液体が指を伝う。
『愛玩犬』の特質上、主人の望む姿に整形などはごく普通の話だ。
しかし、全くと言って違和感を覚えない整形の自然さに驚く。
尋常ではない技術力は大金が動く世界ならではと言えるだろう。
「あなたの体にかかる負担は度外視ですけれどね」
「・・・雑談は以上でよろしいでしょうか? 3人で来られますか? それともサシで、でしょうか?」
藍原の雰囲気が変わった。
鋭い目つきが更に鋭利に変化し、殺気が漏れる。
どちらでも問題はないと言わんばかりの態度だ。
「イキってる癖に、随分とお仲間を準備してるようね」
鼻で笑うリオが顎で校舎の窓から見える複数の影に気付いていると示す。
「あら、バレてましたか。うふふ」
「なに笑ってんだよ。今すぐ全員でかかってこいよ。すぐにブッ殺してあげる」
「リオ」
「あ、すいません」
また熱くなっている自分を叱責する松山にリオは頭を下げる。
視線を戻した松山が続ける。
「私ともう1度戦いませんか?」
「・・・多少鍛え直したところで、私に勝てるとは思いませんが」
「ええ。『愛玩犬』の特質上、4ヶ月前のあなたより、今のあなたの方が遥かに強いでしょう。ですが問題はありません。どちらにしてもあなたも短期決戦のほうが都合が良いでしょう? 乱戦になるよりかはサシで戦ったほうが少なくとも早く勝負はつきますし、1人は確定で殺せますよ? 死ぬのはあなたですがね」
「ええ。構いませんよ。残りの方々は暇を持て余しそうなので、良ければあちらで遊んで行ってはいかがでしょうか」
「・・・・・・」
正直、ここで藍原の言う通りにする必要はない。
目的は丸谷慎二の殺害だからだ。
このクソビッチは目的達成の障害になる。
今ここで全員で戦えば、さすがの藍原でも勝機はない。
故に最善は3人で同時に戦うことだが、それをすれば松山が黙っていないだろう。
「メイド長」
「なんでしょうか、ユキノ」
「私たちが1番大事なのはご主人様です」
「ええ、知っています。私もそうです」
「元とは言え『闘犬』だった松山秋穂が三津木家に現在も仕えているからこそ、ご主人様を狙う多くの敵の抑止力になっています。そんなメイド長が万が一にも死んだとなれば、これ幸いと付け狙う輩も増えるはずです」
「そうですね」
「なので負けそうになったら呼んでください。・・・以前醜態を晒したばかりの私が言うのは憚れるのですが、『愛玩犬』に殺される前に私たちがメイド長を殺します。そちらのほうが、まだ都合が良いので」
元とは言え最強の『闘犬』が『愛玩犬』に殺されることなどあってはならない。組織内でのパワーバランスが崩れる一因になりえるからだ。
影響力の大きさを鑑みて、もしもの時は双子メイドが自分を殺す。
それを理解した上で、三津木豊と双子メイドたちは今回の戦闘を許してくれている。
ただのワガママにも関わらず。
特にユキノとリオの優先順位は三津木豊が1番だ。
それが害される事があれば松山とて容赦なく殺すだろう。
「ええ。その時はお願いします」
背を向けて歩き出す藍原に、松山はついていった。
その背を見送ってから、双子メイドは反対に位置する校舎に入っていく。
校舎1階。
職員室前廊下。
「・・・敵が全然出てこないね」
「楽ならそれはそれでいいわよ。メイド長に何かあればすぐに行けるってことだし。・・・ユキノ」
「何?」
「さっき言ってた、メイド長を殺す、って本気?」
「うん。もちろん、助けれるなら助けるけど。最悪はそれでしょ。リオも同じ考えでしょ?」
「そうね」
銃を構え、警戒しながら歩く双子メイド。
広めの廊下から聞こえるのは、雨が窓を叩く音とメイドが履くストラップシューズが床を叩く音だけだ。
時々、教室の中を伺って敵を探る。
1階で人が隠れれそうな場所は全て見たが、気配は未だゼロ。
それに松山が戦っている音すら聞こえない。
その時。
カタリ、と物音がなった。
双子は瞬時に銃口を音の先に向ける。
・・・突き当りが見えるだけ。
しかし突き当りを右に行けば2階への階段がある。
アイコンタクトをして、慎重に階段に近づいていく。
急所には防弾性能があるメイド服とはいえ、それ以外でまともに攻撃を食らえばただでは済まない。
ユキノが顔だけで階段を覗き込む。
気配はない。
下ではリオが1階を警戒している。
「大丈夫・・・多分」
双子が2階廊下の中央付近に近づいた時。
ガタガタと教室の扉が開かれる。老朽化で建付けが悪くなっているようだ。
「裸の・・・女?」
リオが呟く。
異常に発汗した裸の女が姿を見せた。
あざが胸や腹に多くあり、股からはイカ臭い精液が垂れた女だった。
しかし、痛みに苦しんでいる様子はなく、どこか快感に興奮している様にも見えた。
「えっと・・・お楽しみの最中だったとか? 特殊なプレイ中の・・・あはは・・・」
「ここにそんな奴がいるわけないでしょう。ユキノ、警戒を解かないで」
体液を廊下にこぼしながら緩慢に歩く女。
「動くな」
リオが警告するが無視して歩き続ける。
ゆっくりだった動きが少しずつ機敏になっていく。
そしてついには走り出し、双子に襲いかかる。
「ちッ」
「もう」
文句を口にしながら、引き金を引く。
大きな音とともに女の額に穴が2つ空き、血を噴き出しながら倒れた。
「何なのよ、こいつ」
「ほ、本当にただの一般人だったらどうしよぅ・・・怒られちゃう?」
「・・・んなわけないでしょう」
死体を足で蹴りながら、姉の馬鹿な発言に鼻で笑うリオ。
何を言ってるのよ、と口にしながら再度周囲の警戒を始める。
すると先程と同じ教室からもう1人女が現れた。
今度は警告なしで発砲。
赤い華が鮮やかに咲いたが、それはすぐに踏み散らかされ、消えていった。
その理由は。
「・・・お、おいおい」
廊下埋め尽くすほどの裸の女が姿を見せたからだ。
1人が文字にならない声で叫ぶ。
それを皮切りに他の女たちも次々に叫び始めた。
無茶苦茶なフォームで走り出す女たちが双子を襲う。
素早い動きに、リオが3発発砲。
手前にいた3人の頭に命中し、崩れ落ちる。
死体に足が引っかかり、倒れる女を踏みつけながら続々と近づいてくる。
後続の女たちを撃ちながら少しずつ後退していく。
勢いは止まらない。
更に数を増していく女たちに切りがないと、踵を返そうと振り返る。
だがそこには、新しく現れた女たちがユキノたちを挟み込んでいた。
「や、やば。これは流石に」
「一旦退却しよ、リオッ」
廊下を埋め尽くす女たちに、2人は廊下の窓を開ける。
縁を掴み、足に力をいれる。
そのまま階下の窓をブチ破り避難に成功した・・・かのように思えたが。
「嘘でしょ」
「ぅええぇ」
そこにも女が大勢いた。
幸いなことに上階より遥かに少ない人数。
立ち回れるスペースが確保できている。
このまま外に出て、追いかけて来た女たちに全方向から攻撃されるより、廊下で戦ったほうが良いと判断。
戦闘に突入した。
ユキノが正面の女の頭を撃ち抜く。
その隙に右から手を伸ばしてきた女の腕を掴み、一本背負い。
何人かを巻き込みながら倒すことに成功。
倒れた女の頭目掛け発砲、血の華が廊下に広がる。
そして死角から現れた女をノールックで射殺。
やがて弾切れを起こした。
カチカチと引き金が鳴るだけで弾はでない。
リロードする隙もなく迫ってくる女に銃を回転、銃身を握りしめて柄で頭蓋骨を砕く。
一撃では死ななかったので、何度も叩く。
血と脳漿がユキノの服を汚す。
次に腰に差したナイフに持ち替え、更に追撃してきた相手を刺殺していった。
一方、リオは反対側から現れた女たちと相対している。
リオも銃を早々に手放し、斧を力強く薙ぎ払って破壊の嵐を巻き起こす。
「結局、これかよッ」
気持ち良く銃をブッ放せなかったことに欲求不満を覚える。
「あん?」
今しがた首を断ち切った女の顔を見て、ある事に気付いた。
やけに豊満な胸に細いウエスト。
そしてへその横にあるホクロ。
だが問題はそこではない。
「なんか見たことある顔が・・・」
以前どこかで見た顔に、どこだったかと思考する。
思考中も斧を振り回し、頭を割き、胴を断つ。
荒々しい暴力が続く。
「あ、AV女優の新井マナカだ」
ハード系のAVに出演していたが、何ヶ月か前に突如失踪したとネットニュースで見た記憶があった。
次に足を掴みに向かってきた女の顔も知っている。
「これは地下アイドルだなッ。これは一時期ゴリ押しされてた元女優ッツ。こいつはッレース・・・クイーンかッ」
首を断ち切りながら、テレビで見たことのある顔がいくつか散見された。
「ユキノ! こいつら丸谷の性奴隷よッ! 多分自分の好みの女を藍原に拉致させて、ハメてたっぽいわよ。あははッ、とんだ絶倫野郎ね。巨乳でしっかりくびれがある女がタイプと見たわ。あッははは、面白い! デブ巨乳は好みじゃないって。もしかして私たちも狙われてるんじゃない? あはははは」
「リオちゃ~ん、下品な言葉使わないで〜」
その後しだいに数を減らしていき、両足を地に付けるのは双子メイドのみになった。
汗で髪が顔に張り付くユキノがうっとうしそうに髪を払うが、滝のように流れる汗に意味はない。
諦め、大きく息を吐く。
「つっかれた〜。何人いたのぉ。50超えてからは流石に数えてないよ〜。リオ〜大丈夫?」
「・・・ねぇ、ユキノ。この臭いに気付かない? どうやら普通の薬物じゃなさそうよ」
「??」
死体の首を切り取り、ユキノの顔まで持ち上げる。
「うわっ、やだ。気持ち悪いよ」
「それはわかるけど。そこじゃなくて。ほら、この甘い臭い」
「すんすん。あ、この臭いって」
「ええ。藍原と同じ甘い臭いよ」
「ってことは、うわ~可哀想。『愛玩犬』が使ってるヤクをいれられたんだね。頭がブッ飛んで、主人にいいなりの廃人になったんだ」
ドン引きといった風に表情を歪ませるユキノ。
「多分ね」と、リオは首を投げ捨てる。
「『愛玩犬』のヤクか。流石に藍原のよりは低品質だよね?」
「ええ。一般人が純度の高い物を使えば確定で死ぬわ」
「それって『愛玩犬』以外に勝手に使っていいんだっけ?」
「知らないわよ」
「ふぅん。マトモじゃないね。とりあえず藍原と一緒ってことでいい?」
「大分弱いけれどね。原理は藍原も同じよ。要約すればキメセクで愛を誤認させて、自分の主人の為に常に火事場の馬鹿力を出させてるってわけだし」
あまりにも荒唐無稽な話だが、実際それが『愛玩犬』に起きていることだ。
『愛玩犬』が殺し屋として活躍出来る期間、耐用年数とも言うが、それは約5年だけ。
しかし、終わりが近付けば近づくほど実はメリットがある。
薬物中毒の『愛玩犬』は毎日2回のお注射が必要だ。そして時間が経つほど1日の薬物の摂取量が増える
ヤクは快楽も刺激するし、『愛玩犬』の感度を上げて楽しむ為に、多めに注射する主人も多い。
それらは『愛玩犬』の自己の認知や精神崩壊が起きるのと反比例に、全身の力や反応速度といった身体能力の向上といったメリットがあるが、ヤクの摂取量が過度に多ければその分、耐用年数も減っていく。
藍原は2年目だ。
薬物の過剰摂取とセックスのし過ぎでイカれるスピードが尋常ではない。
だが、主人の命令には忠実に従うし、1日に何十回ヤっても無くならない底無しの体力で、主人の欲を膣で受け止める『愛玩犬』の需要は高い。特に妊娠しないのが良いと評判だ。
だが『犬』特製の薬物に耐えれる人間でしか『愛玩犬』が生産出来ないという効率の悪さから販売数には限りがあり、また売買でしか雇うことはできない。
それでも常に需要が供給を超えるのは、男たちの白い欲望には限りがないと言うことに違いはあるまい。
「・・・セックスか」
「したいの?」
「そりゃご主人様となら、ユキノもでしょ?」
「うん!!!」
顔を真っ赤にしながら、顔を高速に上下に振るユキノ。
「でもキメセクはやだな。よく言うじゃん、キメセクはヤクに依存してるだけで、本当の愛なんかないって。私は・・・ご主人様が大好きだから。そんなモノに頼らなくたって大丈夫だもん」
「そうね、私もそう思うわ」
少しだけ姉を見直したリオは、「さて、さっさと残りの奴らも殺すわよ」と続けた。
その時。
「あ、あの格好したらご主人様も少しは私たちに対してHな気分になってくれるかな?」
「え?」
リオが姉の指差す先に視線を向ける。
果たしてそこには。
無表情でサブマシンガンを握りしめるエロコスプレをした女たちがいた。
やはり馬鹿な姉にため息を付き、痴女たちとの第2ラウンドが始まった。




