2.遭遇と台風
8月中旬、雨が降った次の夏の今日は、雲一つない真っ青な空で
雨雲が残していった水分と昨日はリモートワークしていた太陽によって
蒸し蒸しとした嫌な暑さをしていた。
こんな日の海辺はさぞかし気持ちよく一面が青一色で埋め尽くされているのだろう。
このように考えていたのは僕ではなかったらしい。
今日は土曜日なので大勢の家族連れやカップルが今日のその海辺には集まっていた。
そんな楽しい空間を横目にして僕はボロい電車に揺られながら大学へと向かっていた。
梅雨が終わり夏になっても、相変わらず僕の前に現れていた彼女は今頃何をしているのだろうか。
二週間ほど僕は彼女の姿を見てはいない。
ずっと煙たがっていた存在である彼女に実際に会わなくなってみると
どこかさみしく、何か物足りない日常に戻っているという風に感じてしまう。
ナニカをなくした感覚と時間に揺られていた僕はいつの間にか
大学のある最寄りの駅に突っ立っていた。
ホームを出るとそこはもう都会である。
実際には大都会の郊外にある街なのだろうが田舎から出てきた身からすると都会に違いはない。
前には大きな道路を挟んだビルが立ち並び、右にはコンビニ、左にはおおきな公園がある。
コンビニの前の通りを歩いていると真の大都会へとつながる地下鉄がそこには眠っている、。
僕の通っている大学はこの地下鉄を無視した先にある。
たまにそこから聞こえる地下鉄の電車の走行音は
大きな地下ダンジョンにいるモンスターの叫び声のようにも。
そんなことを大学入学当初の自分は思っていたが今ではただの雑音のする、
薄暗くて蜘蛛の巣が張った妙に濡れている地下鉄の入り口だ。
今は大学に行く時間だ、地下鉄に用事はない。
このようなテロップが画面に出たかのように僕は再び大学へと足を運び始めた。
大学が終わりお昼過ぎ、
何もすることもない僕はコンビニに立ち寄ることもなくただ一心に家へと向かい始めた。
大学から駅へと歩いていると、例の地下ダンジョンから聞き覚えのある声がした。
「あーーーーーーーーー!!」
そう、彼女だ。彼女が地下ダンジョンから僕の前に現れた。
ダンジョンから現れた彼女はナニカ話したそうにしている。
「あれ?君!なんでここにいるの??!」
「ここに僕は居てはいけないんですか。」
「そうじゃないけど、でもびっくり!ひさしぶりだね!」
僕は内心どこかほっとしていた。
変わらない太陽のような笑顔で僕の前に現れていた彼女に。
「君。君ももしかして、大学の帰りだったりする?だとしたら私も帰りなんだ~」
「なら僕はもう一度、大学に行くことにします。」
「もぉーー、ちょっと!そんな意地悪しないでよ!(笑)
せっかくここであったんだし、何処かに遊びに行かない?
いつも会うのはあの海だけだしさ。」
「嫌です。帰ります。帰ってバイトの用意とかしたいですし。何より人と遊ぶ、、。」
僕はきっとむすっとした顔で答えていただろう。
彼女は僕の話をまるで聞いていないかのように、僕の話をさえぎって。
「よし!決まりだね!いくよぉぉぉ!!!」
台風のような彼女は僕の左手をつかみ、
穏やかな海を荒らしてダンジョンの中へと僕を連れ去っていった。