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父の日

作者: 飛馬 光

僕にはお父さんがいない


じゃ1セットのゲノムはどこから来たんだという話になるので,正確にはいるけれど,僕はお父さんの顔すら知らない


小さいころから母と兄と祖父母がいる家庭で育った


お父さんは遠くにいるのよ,という母の言葉を小学校低学年まで信じていたけれど


どこかしらか「離婚」という言葉を耳にして

あぁ僕にはお父さんがいないんだ

と理解した


かといって何か不都合があったわけでもなく

おじいちゃんとおばあちゃんはそれはそれは孫の僕を可愛がってくれたし


母の兄弟も遊びに行けば可愛がってくれていた


何不自由なく,なんていうことはないかもしれないけど

それなりに色々経験して一丁前の大人にまで成長した


いたほうが良かったのか

いなくて良かったのか

そんな結論を出す気もないし

どこかで生きているんだろうなとは思っていた


そんなある日

ちょっとしたことでTVのテロップに僕の名前が流れた


しばらく経った頃,僕の「お父さん」から仕事のアドレスにメールが届いた

しかも夜中


今まで何十年も連絡すらなかったから

僕はちょっとだけ狼狽えて

彼女とのチャットを中断せざるを得なかった


実を言うと

その時はちょっとした別れ話をしていて

そのおかげで今もまだ付き合っているんだ


そう考えるとお父さんには感謝をしないといけないね


詳細な内容は忘れたけれど

TVのテロップで流れた名前を見つけたよ,と

自分と息子の自慢と

今を楽しんでいるんだ,みたいな

そんな話が書いてあった


何のためのメールなのかよくわからず

困惑して兄に相談をしたら

「死でも近いんじゃない?」と一蹴された

まぁそう考えるのが普通かもしれない

何十年も姿を見せず

今更なんなんだろうという感じも否めなかったし


僕に腹違いの兄弟がいることは知っていたけれど

まさか思っていたあの人とは


さすがに母には言えなかったけど

とりあえず「お父さん」というものが僕にも存在していて

この世にまだいることを確認した


きっとこれからもねじれの位置にいて

僕らがクロスすることはない気がするけれど


今の僕がいるのは

お父さんがいなかったらありえないことで


今お互いがどんな関係であろうとも

ここにいることは

お父さんがいたからこその証になる


今まで父の日について何も感じたことはなかったけど

今年の父の日は

ほんの少しだけ

顔も知らないあの人のことを考えて

ちょっとだけ感謝してもいいのかなと

そんな気持ちになったよ

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