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9話

 客用の布団を用意して隣り合わせで横になる。なんだか修学旅行の気分だ。……そういえば、幽霊って寝るんだっけ?

 隣のあぐりを見てみると。


「くぅ~」


 既に眠りに落ちていた。どうやら家族として認められた安心感からすぐに眠ってしまったようだ。

 安らかな寝顔を見ていると、今までの俺の不安が嘘みたいに消えていくのがわかる。

 俺も寝るか。妙な倦怠感(けんたいかん)からすぐに眠気が襲ってきた。

 眠りに落ちる瞬間、隣から誰かが動き出す気配を感じた。

 まさか。

 そう思ったが、眠気のせいで深くは考えられなかった。


 ※※※※※※


 早苗は精気を集める方法は二通りあると言っていた。

 一つは『憑りついた相手から精気を奪い取る』。

 そして、もう一つは。


 ※※※※※※


 廉一郎が眠りに落ちたことを確認して、あぐりのぬいぐるみが動き出した。

 気が付けば、周囲には嫌な気配が充満していた。

 このマンションの一室は霊の通り道である霊道と霊道が重なる場所。

 つまり、廉一郎が見えないだけで大量の浮遊霊(ふゆうれい)が存在していた。

 普段なら害にならない。

 しかし、ほんの少しでも知性が残っている霊がいると、あることに気づき始める。

 霊にも精気は存在しており、他の霊を捕食(ほしょく)することで精気を奪い取れることに。

 マンションの一室に集まった霊はその知性がある霊に捕食され力をつける。

 やがて、力を持ち始めた霊は他の霊だけでは足りず、部屋の住人の精気を奪い取ろうとする。


「……ァ……アァ……」


 その霊は他の霊道を行き交う浮遊霊の一人だった。

 しかし、他の霊よりは知性を持っており、生きる執着(しゅうちゃく)も並外れていた。

 だからこそ、いち早く他の霊を食べられることに気づいてしまった。

 霊道を彷徨い続けて、やがて他の霊道よりも沢山の浮遊霊がいるマンションにたどり着いた。

 大量の精気が集まる場所。

 とんでもない力を持つ先住の霊がいるのだが、なぜか何もしてこない。

 少しずつ力をつけていき。

 やがて、現世にも干渉できるようになる。

 次に考えたのは更なる精気。霊よりも精気が多い人間を狙う。

 都合よく眠りこける人間に憑りつこうとして。


「駄目です。その人はご主人の家族だから」


 気が付けば、先住の霊がいた。

 いつもは子供の霊に抱かれている犬のぬいぐるみ。

 だが、誰よりも強くて――凶暴な霊だった。


「……ァァ……」


 本能が逃げるべきだと告げていたが。

『自分は他の霊を沢山食べている』という自信から立ち向かうことを選択した。

 ――ここで先住の霊がなぜ今まで何もしなかったのかを考えるだけの知性があれば。


「でも、今まで精気を集めてくれてありがとう」


 結末は違っていただろう。


 犬のぬいぐるみは闇を(まと)うと大きく膨らみ、やがて、人間よりも大きい黒犬となった。

 もしも、雄一郎がここで目覚めたのなら、あまりの恐ろしさに気絶してしまうだろう。

 あぐりのペット。そして、あぐりよりも先に死んでしまい深い未練が残ってしまった怨霊。

 あぐりのためなら全てを投げ出す忠犬。


「いただきます」


 犬は大きく口を開けて、一口で霊を捕食した。


 当初、あぐりの霊としての力は弱かった。

 それも当然だろう。恨みもなく死んでしまった子供では他の霊に比べても格段に劣る。

 あぐり自身、死んだ影響で現世への執着も薄かった。

 このままだとすぐにでも消えてしまうだろう。

 だからこそ、彼があぐりに精気を分け与えていた。

 普通の霊を食べるだけでは精気が薄い。

 だが、霊たちを食べて成長した悪霊の精気は普通の人間に匹敵するほど濃いものだった。

 それを捕食することであぐりたちは普通の悪霊よりも何倍も強い霊になってしまった。

 あぐりに精気を渡すことで、すやすやと眠っているあぐりの顔色が良くなっていく。

 それを見届けてから怨霊(おんりょう)は彼女の頬を舐めた。


「ぅぅん、ペロ……」


 生前の彼の名を呼ぶあぐりを優しい瞳で見守る。

 あぐりは何も知らない。

 でも、それでいい。

 今まで辛いことを経験してきたあぐりは幸せになるべきだ。

 それが自分の(つぐな)いだと信じて、彼は再び物言わぬ犬のぬいぐるみとなった。



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