43話
俺とあぐりは何故か互いに正座をして向き合っていた。
「あれはその夢だと思ったから言ったのであって。普段はそんなこと言わない……っていうか恥ずかしいし」
しどろもどろになりながら、あの台詞について説明するが。
「それで?」
「だから?」
すっかり落ち着きを取り戻したあぐりが首を傾げた。心なしかあぐりの視線が俺に向いていないような気がする。落ち着いたといってもまだ俺を直視できないようだ。
……俺自身も恥ずかしくてあまり見れないが。
「だから、あの言葉は忘れて欲しい」
いつもなら真剣な俺の頼みは聞いてくれるのだが。
「それは無理かと」
「それは駄目かと」
即答だった。ここまできっぱり断ったあぐりは見たことがない。
「ど、どうして?」
予想外の答えに戸惑いながら聞き返すと、あぐりがぬいぐるみとこそこそと相談を始めた。
「恰好よかったので」
「忘れることはできません」
「いや、そんなことはないだろ」
即座に否定すると、あぐりとぬいぐるみはこそこそと審議を始めた。『恰好悪かった?』『でも、胸がドキドキしますが?』『それが恰好いいのでは』などの声が聞こえてきて気恥ずかしい。
「いや、ほんとイケメンに申し訳ないから忘れて欲しい」
重ねて言うが、あぐりとぬいぐるみはちらりと視線を向けただけですぐに審議に戻った。
審議中。
「審議の結論が出ました」
「審議の結果にたどり着きました」
「……はい」
なんで罪を犯したような重い雰囲気なんだ。
「でけでけでけでけ」
「でけでけでけでけ」
口でドラムロールを口ずさみながらあぐりが俺の周りを回った。……早く結論を言ってほしい。
やがて、ドラムロールが終わり、俺の前でぴたりと止まった。
「やはりイケメンでした」
「やはり恰好よかったです」
無表情で両手を上げながらあぐりは発表した。
「いや、でも」
「なので」
「なので」
そこで言葉を切った。
「忘れることはできません」
ぬいぐるみで顔を隠しながらあぐりが呟いた。いつもは淡々と話すあぐりだが、今の言葉だけは俺がドキッとするくらいの熱が込められていた。
その熱にあてられて、俺は初恋の女子を見るようなぽーっとした視線をあぐりに送った。
まるで知らない女の子のような態度に年甲斐もなくときめいていた。
「あまり見ないでください」
「ご、ごめん」
互いに目をそらした。気まずい雰囲気の中、あぐりははにかんでもじもじした。
「……きゃー」
やがて、雰囲気に耐えられなくなったあぐりがすぅーっと消えていった。付き合い始めた初日のような態度に俺のドキドキが止まらなかった。
あぐりが初めて恥じらった日。ラブコメのような日。彼女が悪夢を一瞬忘れた日。そんな日のこと。
「面白い!」
という方は、ブックマーク・評価していただけると励みになります。




