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38話

 廉一郎と別れたエリサは電車の中でため息をついた。


「あーあ、面白い人だったのになぁ」


 この電車の中は酷く退屈だった。

 窓の外はいつも暗い川か墓場しか見えない。

 話し相手だって――。


「あなたたちしかいないものね」


 電車の中には黒い影が蠢いていた。

 廉一郎の傍でも最初から(うごめ)いていたが、廉一郎は霊力が弱くて見えなかったようだ。


「ァァ……」

「ァ……ァ……」


 何かを訴えるように呟く黒い影たち。

 それに対してエリサは母親のように微笑んだ。


「何か言いたいことでもあるの?」

「ァ……ァァァァ」

「ゥァァ……」

「うーん、全然聞こえないわ。もっと大きな声で話して頂戴」


 再度、エリサが促すと。


「……スケ……」

「タス……ケテ……」


 黒い影たちは救いを求めるようにエリサに群がった。それを見て、エリサはつまらなそうに睥睨(へいげい)した。


「そればっかり。ほんっとつまらない」


 逢魔が時魍魎電車に乗ったら地獄に連れていかれる。

 廉一郎はそれだけしか聞いていなかった。

 だが、話には続きがある。

 地獄に連れていかれたら二度と戻って来れないということ。

 だから、逢魔が時魍魎電車に乗ったら少女に会ってはいけない。

 彼女と話をしてしまったら逃げられないのだから。


「他に何か言えないなら――消しちゃうよ?」

「タス……ケテ……」


 エリサは無言で影を手で払った。それだけで霧散する影。あまりにも無慈悲な態度に他の影たちは恐れるように後ずさった。

 彼女は間違いなく――。


「最初は元気だったのに精気を吸い取っちゃうとすぐ元気がなくなるのね。やっぱりお兄さんの精気は吸い取らなくて正解だったわ」


 ――悪霊なのだ。


 『ふふふ』というさざ波のような笑い声が電車の中に響いた。


「早くまた会いたいわ」


 変わった人だった。明らかに霊であるエリサを人間として扱ってくれた。

 それどころか話まで聞いてくれた。

 まるで家族みたいに。


「今度はどんなお話をしましょう。趣味? 好きなもの? 死ぬときはどんな風に死にたいのかしら?」


 『ふふふ』と笑い声がこぼれてしまう。

 廉一郎のことを考えるだけで楽しくなってきた。

 だが、廉一郎のことで一つだけ気に入らないことがある。


「あの黒犬が邪魔」


 何人も人を食べた自分と互角の力を持っていた。

 この事実から考えると。


「あの黒犬も相当殺してるのに。なんでお兄さんの傍にいるの? 人を殺しても家族になれるのなら、あの黒犬じゃなくて私でもいいよね? そう思わない?」

「ァァァ……ァァァァ」

「ゥァ……」

「もう相槌くらい打ってくれてもいいじゃない。でも、いいわ。今の私はすごく気分がいいから」


 狂気に満ちた瞳でエリサは嗤った。

 電車は再び逢魔が時を走る。

 ここは未来永劫の逢魔が時。

 太陽が昇りきることはなく、沈みきることもない。

 ずっと赤黒い世界の中で少女は自分を捨てた世界を憎んでいた。




「面白い!」


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