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20話

「ただいま」

「ただいま」

「お邪魔しますね~」


 あぐりと吉田さんが入ってきた。嵐のような俺の内面とは裏腹にあぐりと吉田はのんびりとした雰囲気だった。

 ちらりとハレルヤに視線を向けると、無表情であぐりを見ていた。

 いやいや、どういう感情だよ。

 今すぐお祓いすべきだと考えているのだろうか。それとも。


「……初めて会ったかも?」

「……初めての出会いかも?」


 あぐりもハレルヤや早苗に気づいたようだ。読めないハレルヤとは違い、あぐりは明らかにいつもの警戒心がない。

 ハレルヤはいつ動くのか。一挙手一投足に気を配る。緊張感から冷や汗が背中から流れた。


「ど、どうも。先輩の後輩の……あ、いや、先輩というのは会社の後輩でして」

「いつもお兄ちゃんがお世話になっております」

「いつもお兄ちゃんがお世話しています」


 あぐりがぬいぐるみと見つめ合う。


「世話をしているのではなく、世話になっていますでは?」

「お兄ちゃんは先輩なのだからお世話しているのでは?」

「ぬ、ぬいぐるみと喧嘩してる。お、面白い特技ですね」


 今となっては早苗のあたふたしている姿に日常を感じて安心すら覚える。


「私は妹のあぐりです」

「私は家族のあぐりです」

「「どうぞよろしく」」


 あぐりとぬいぐるみが息を合わせて頭を下げた。その仕草に早苗は胸を押さえて、「かわいい」と呟きながらきゅんと萌えていた。


「お隣の吉田です。お話し中のところ邪魔してすみませんでした~」

「いえ、話ではなく除霊するところでした」

「除霊?」


 不思議そうな顔で早苗がこちらを見つめてきた。同時にあぐりも俺に向き直る。あぐりを除霊したいと思われたら心外だ。


「いや、俺が除霊したいわけじゃなくて」

「だから、遊びに行って欲しいと言ってたっぽい?」

「だから、出て行って欲しいと言ってたっぽい?」


 意図を把握したあぐりに俺は沈痛な面持ちで頷いた。


「あの部屋色々とありましたからね~」

「何かご存知なのですか?」

「あ、私もこの前引っ越してきたばかりなので。でも、除霊なんて危険じゃないですか?」

「ご安心ください。私はプロなので」


 普通なら除霊という言葉でドン引きするはずだが吉田さんはのんびりとしたものだった。手を合わせて草野球のホームランを見たかのように声を上げた。


「すごいですね~。あ、これクッキー焼いてきたのでよかったらどうぞ~」


 吉田さんが配るクッキーを食べながらもハレルヤを監視する。うぅ、緊張のあまり味がしない。


「これ美味しいですね」

「でしょ~。チョコを練りこんでいるんですよ」


 和気藹々としながらも吉田さんとハレルヤは話し込んでいた。……気づいていないのか。それともあぐりが動き出すのを待っているのか。

 わからないが、このまま二人とも接触せず大人しくしてくれれば。


「お姉さんも会社の後輩ですか?」

「お姉さんもお兄ちゃんの後輩ですか?」


 とてとてとあぐりが無造作にハレルヤに近づいた。

 予想外の事態に俺の顔がムンクの叫びのように歪んだ。


「あなた――」


 あぐりを見つめるハレルヤが口を開いた。

 ついに邂逅(かいこう)した二人。


「あ! ちょ、待っ――」


 慌てて間に入ろうとする。駄目だ! 間に合わない!

 必殺の間合い。


「ここに住んでいるんですね。聞きたいことがあるのですが」


 ……。


「え?」


 ぽかんと口を開けた俺に二人は顔を向けた。


「二階堂さん、どうかしましたか?」

「疑問符ですか?」

「クエスチョンマークですか?」


 あぐりとハレルヤに聞かれても、俺は呆然としていた。……ハレルヤはどういうつもりなんだ? だって、あぐりを見て無反応だなんて。

 何か理由があるのだろうか。

 だとしたら一体何が。

 可能性は二つだ。

 一つは素知らぬふりをしてあぐりを刺激しないようにしながら隙を見て除霊する。

 もう一つは――。

 いや、さすがに希望的観測すぎる。

 だが、もしも、予想通りならあぐりへの脅威は一つ減ることになる。


「……も、もしかすると金縛りにあってるのかも!」

「ただ考えているだけのように見えるけど~」

「とりあえず、除霊がてら二、三発殴って様子を見て見ましょうか?」

「お兄ちゃんを殴るのはやめてください」

「お兄ちゃんを殴るのはやめて欲しいです」


 尚も考え込む俺を見て、みんながひそひそと話をしていた。やがて、輪から出たハレルヤが近づいてきた。


「それなら、お兄さんは具合が悪いとか?」


 ハレルヤが俺の額に手を当てた。ひんやりとした感触に俺の意識が落ち着いてくるのを感じた。

 こうなったら、直接聞くしかない。


「熱はなさそうですね」

「ああ、もう大丈夫だ」


 俺の言葉を聞いて、あぐりが心配そうに近づいてきた。


「本当ですか?」

「休みますか?」


 いつもよりも早口で問いかけるあぐり。……あぐりに余計な心配をかけさせるわけにはいかない。俺はぎこちない笑みで返した。


「ありがとな。あぐり。……それよりもさ」


 ハレルヤに向き直る。真意を探るように瞳を見つめながら。


「除霊しないのか?」

「もちろんします」


「――それは誰を?」


 俺の言葉にハレルヤは一泊置いた。




「面白い!」



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