18話
「よし、これで準備万端だ」
翌日、俺は片付いた部屋を見て、そう独り言ちた。
あぐりには朝から出かけてもらった。
これでこの部屋には幽霊に関するものはなにもない。
例え、早苗や霊能力者が来たとしてもあぐりのことは何もわからないだろう。
――おそらくは。
自信がないのは伴天連ハレルヤという人物が『規格外』の霊能力者だからだ。
俺なりに彼女について少し調べてみた。
伴天連ハレルヤ。17歳。もちろん、本名じゃない。ハンドルネームみたいなものだろう。
心霊現象を解決した数は多くないが、難易度が高い案件を取り扱うことから有名になった。
でも、それだけなら有能な新人だ。
彼女が『規格外』なのは経歴がないからだ。
普通の霊能力者は神道や仏教などの宗教をベースにしている人物がほとんどらしい。
でも、彼女の場合は17歳まで普通の女子高生だったが、ある日、霊能力に目覚めて、有名な心霊現象を型にはまらない除霊方法で解決したらしい。
以来、一躍有名になり、今では日本で一番有名な女子高生霊能力ゆーちゅーばーらしい。
時間が無くて動画までは見れなかったが、コメントでは絶賛の嵐だった。
彼女ならばたとえ痕跡を消しても何かの方法であぐりのことがわかるかもしれない。
油断はできない。
と、決意を新たにしたことろで。
……いつ来るんだ?
よく考えれば、何時頃来るのか全然聞いてなかった。
出来れば来ないで欲しいんだが。
もしかすると、うちのことがわからないとか?
一瞬希望的観測が脳裏を横切ったが、すぐに考え直した。
早苗の話だとうちのマンションはオカルトマニアの間では有名らしいし、マンションまで来れば表札を出している以上、すぐに検討がつくだろう。
出来れば、気が変わってこないことを切に祈る。
――だが、『ピンポーン』と無情にもチャイムの音が響いた。
「……はぁ」
重いため息をつきながら、インターホンのボタンを押した。
「……はい」
「せ、先輩……ですか?」
画面には視線を逸らしながら髪の毛をいじる早苗と黒髪おかっぱの少女が佇んでいた。
彼女が伴天連ハレルヤか。変なお祓いする時の棒と巫女服はまさに霊能力者そのものだ。
だが、きちんとした佇まいと怜悧冷徹な表情。
なによりも人を見透かすような視線が、霊能力者という胡散臭さを消していた。やはりただものじゃない。
「約束、したので来ました」
「別に約束はしてないだろ」
「そ、そうでしたっけ?」
「なんかいつもより挙動不審じゃないか?」
視線は定まらず、言葉はどもりがち。まるで初めて出会った頃のような態度だ。
「え、あの……このマンションってものすごい霊気なので」
「霊気? そんなものが見えるのか?」
「うっすらとですけど。普通なら人間くらいの大きさの霊気があって、それが霊なんだなってわかるんですけど」
そこで怯えたように周囲を見渡す。
「ここは霊気が大きすぎて……まるで霊気の中に入っているみたいです」
『恐ろしい……恐ろしい……』と田舎で祟りを恐れる婆さんみたいに早苗は怯えだす。ここで暮らしている身としてはちょっと怖くなってくるからやめて欲しい。
「一体先輩の部屋はどんな魔界になっているんでしょうか」
まだ部屋に入れるなんてこと一言も言ってないんだけど。
「あの」
会話に割り込んできたのはハレルヤだった。凛とした涼やかな声に俺たちの動きが止まった。
心の中に静かに入り込んできた優しい音は確かなカリスマ性を伴っていた。
これが霊能力者か。
間近で感じた彼女の力を感じて、背筋に冷たい汗が流れた。
「ご都合が悪ければ、後日にいたしますが?」
中止ではなく、後日。ということは諦めるつもりはなさそうだ。
……俺がいない間、勝手に調べられても困る。
あぐりの痕跡がない今のほうが安心だ。
「いや、大丈夫です。今エントランスのオートロック外しますので」
「えっと、先輩の部屋は……」
「318号室ですね」
ハレルヤとの答えに早苗は目を輝かせた。まだ早苗にも教えていないのに。
噂になったマンションだ。当然調べればわかることだろう。だが。
「すごい! それも霊能力ですか?」
「……ふふ」
秘密だといわんばかりに早苗は自分の口元を人差し指で押さえて『しぃー』という仕草をした。
「それでは」
画面越しの俺に一瞥するとそのまま通信が切れた。
やはりただものじゃない。
今更ながらこの部屋に招いたことを後悔してしまった。
「面白い!」
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