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16話

「先輩、伴天連(ばてれん)ハレルヤって知ってますよね」

「いや? 誰それ」

「あの有名な女子高生霊能力者ですよ!」


 仕事が終わり、退社寸前特有の弛緩(しかん)した空気が漂う中、早苗が俺に詰め寄ってきた。


「女子高生ながらも他の霊能力者が投げ出した案件を片っ端から除霊してるんですよ。最近だとネットのチャンネルもめちゃくちゃ高評価です」

「へー、そうなのかー」


 あぐり以外の霊は興味ないんだけどなぁ。


「それでですね。チャンネル100万人突破記念で除霊無料なんですよ」

「へー、そうなのかー」

「それで先輩の名前で応募してみたら当選しました」

「へぇー、そうなの――はぁ!?」

「というわけで明日、先輩の部屋にお邪魔したいんですけど」

「いやいや、何勝手なこと言ってんだよ!」

「だって、先輩ってば霊は危険だって言っても聞いてくれないから。このままだと死んじゃうかもしれないじゃないですか」


 唇を尖らせて文句を言う早苗。俺のことを心配した行動だとは思うけど。


「だからってなぁ。せめて許可を取れよ。……とにかく断っておいてくれよ」

「えぇ~」

「前も言ったけど俺はこのままでもいいって――」

「おーい、二階堂ー。お前、この企画書の内容間違ってるぞ。明日部長に見せるんだから残業してでも直せよ」


 会話の途中で課長が割り込んできた。


「お、早苗君か。他の男性社員と話しているなんて珍しいな。さては付き合ってるのかぁ?」

「あ、いえ、まさか」


 視線をきょろきょろさせながら早苗は困ったように髪の毛を指に巻いていた。俺には慣れてきたため最近は見なかった仕草だが、相変わらず慣れていない相手には挙動不審だ。

 だが、課長はそんな早苗の態度を見て、にんまりと笑みを作った。恥ずかしがっていて可愛いとか思ってそうだな。

 課長は自分のことを『気が利いて小粋なジョークが出来るナイスミドル』と思っているふしがある。

 実際は『ゲスな想像力で勘違いして下品で笑えない冗談が好きな中年男性』だ。


「隠すな隠すな。で、ヤったのか?」

「は!? い、いえいえいえ!」

「どんな具合だったんだ? ん? 二階堂はちゃんと優しくしてくれたか?」


 ほんっとゲスだな。だから、女性社員からも嫌われるんだよ。涙目の早苗をさすがに放置できず、助け舟を出してやった。


「課長、企画書でわからないところがあるんですが」

「それくらい自分で考えろよ」

「でも、課長の権限でしかわからない箇所なんで」

「仕方ねぇな」


「ありがとうございます。先輩」


 そっと近づいてきた早苗が小声でお礼を言った。


「それはいいからさっきのことだけど」

「とにかく先輩のところに行くんで」

「おい、ちょっと!」


 それだけ言って立ち去ろうとする早苗を呼び止めたが。


「二階堂。先にこっちだ。俺も早く帰りたいんだからとっとと修正しろよ」

「いや、でも」


 課長に気を取られた隙に早苗は既にいなくなっていた。あいつ、どんどん遠慮がなくなっていってるんだけど。


「あの人の嫌味長いんだから間違ってたらどれだけ拘束されるかわかんねぇぞ」

「……わかりました」


 諦めた俺は仕方なく残業を始めた。霊能力者が来るなんて冗談じゃない。絶対にあぐりに会わせるわけにはいかない。

 会社に行けば会えるだろうと思って、早苗の連絡先を聞いておかなかったことが悔やまれる。




「面白い!」



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