16話 吸血少女と異世界二日目の朝
お待たせしてすみません
お詫びとも違いますが、今年中にもう1、2話投稿出来そうです
頑張ります
間空き過ぎて前回忘れちまったわwという方は是非前回からどうぞお願いします(ダイレクトな宣伝
それでは本編をどうぞ
16話 吸血少女と異世界二日目の朝
「ほんっっっとうに申し訳ありませんでした!!!」
「い、いえ!トレーネ様は悪く無いですよ!そ、その、吸血種の種族特徴なので仕方が無いと思いますっ!」
「え〜〜〜?私にはトレーネちゃんが単にえっちなだけに見えたけどな〜???」
「も、もうっ!シエラさんは茶化さないでくださいっ!」
「あははは!ごめ〜んってば〜〜」
「……本当にすみません」
おはようございます。
私はトレーネと申します。
異世界アイリッシュに転生して初めての夜を過ごし、清々しいというには少々騒がしくなってしまっている二日目の朝を迎えた今現在。私はベッドの上で自分で口にするのも何ですが見事な土下座を敢行しています。
……はい、ジャパニーズDOGEZAです。
何故このような事態になっているのかと言いますと時間は少し前に遡りまして——
私は朝日を感じて目を覚ましました。
ですが、直ぐに身体を起こすには至らず、目を閉じて寝転がったまま意識は覚醒している。ともすればこのまま二度寝をしていまいそう……そんな状態での目覚めでした。
と言いますのも、私は前世の頃から朝というものが非常に苦手なのです。
別段、機嫌が悪くなるという事は無いのですが、身体は重く倦怠感に悩まされ、頭の回転も鈍く思考は纏まらない……良い事など何一つ無いのでは?と常々思ってしまう程には苦手です。
それはこのヴァンパイアの身体に転生しても変わらず……いえ、寧ろ悪化してしまっているようにも感じます。
まぁ、創作物では夜の支配者とも言われるヴァンパイアが、朝日と共に起床して、日中は勤労に汗を流して日々の糧を得て、夜は一日の充足感を感じながら就寝する……なんて、そんな規則正しい、お手本のような健康三昧生活を過ごしているというのも笑い話ですからね。朝に弱いというのも仕方の無い事でしょう。
それならば、このまま本能に任せて二度寝をしても良いのか?と己の理性に問いかけますと、それはもうハッキリと駄目ですの一言が返ってくる訳です。
当然ですよね。今日は今日で色々と予定を考えていたのですから、二度寝をして全てを無に返す訳にはいきませんしね。
ともあれ、こうして心地よい微睡にいつまでも浸っている訳にもいかず、私は億劫な気持ちを抑えつけて重い瞼を開けました。まだまだ眠気が強い事もあり微妙に焦点が合っていない中、視界に飛び込んできたのは宿屋さんの天井……ではなく、もぞもぞと不規則に動く黄色い?謎の塊でした。
未だに思考が纏まらず、呆けたようにその黄色い?塊を何も考えずに眺めていると、朝日に当たってキラキラと光り、黄色ではなく金色だという事に気が付きます。しかし、だからと言って何が変わるという事もなく、相変わらず謎の金色の塊を半開きな眼で眺めるという、何をするでも無い不毛な時間を過ごしかけていたその時です。
不意に、石鹸の柔らかな香りが鼻を擽りました。
何故?と疑問を持つよりも、良い匂いに安心して再び瞼を閉じるよりも、一瞬だけ早く目の前の謎な金色の塊がオトハさん頭と狐耳であると認識しました。
そして、目の前のものを認識してからは、先ほどまでの眠気は目の前にある衝撃に吹き飛んでいったようで、急速に私の意識が覚醒していきます。
「………………え?」
何故、私とオトハさんは一人用のベッドで一緒に寝ているのか?
何故、私は丸くなるように寝ているオトハさんを抱き枕にしているのか?
そんな疑問を持つよりもずっと速く、私は素早く身体を起こして辺りを見渡しました。
すやすやと眠るオトハさんの首元は少しはだけて、首筋には小さな穴の様な傷と血の跡が残っています。
真っ白なベッドのシーツにはポタポタと数箇所に亘って血痕が存在しており、彼女の首筋の傷から汚れたのだろうと簡単に連想させます。
部屋の中にシエラさんの姿はなく、空きのベッドの一つがシーツが乱れている事から、既に起床しているのだろうと察します。
様々な情報が一気に脳内に傾れ込んできた事で断片的だった記憶が一斉に繋がり始めて、昨晩の出来事をハッキリと思い出しました。
「あっ!?!?」
……ええ、全て思い出しましたとも。
昨晩、本能に任せて吸血した事も、お腹がいっぱいになって直ぐに眠る子供の様に吸血後に寝落ちした事も、吸血時の衝動に流されてオトハさんにキスを——
と、昨晩の事を思い出し、羞恥心から唇を指でなぞっていたその時でした。
私が突然跳ね起きたり、声を上げて驚いたりとしたからでしょう。
寝ていた筈のオトハさんがもぞもぞと動き出し、私はビクリと身体を震わせます。
「…………んぅぅ?………………あ、トレーネさまぁ、おはようぉございますぅ」
「えぁっ!?は、はい……おはようございます。あの、その…………」
眠たいのか目を擦りながら身体を起こしたオトハさんは私の姿を視認しますと、にへらっと笑って微妙に間延びした口調で口を開きました。
その様子は非常に可愛らしいのですが、私は昨晩の出来事が余計に甦ってしまい、変な感じに言葉が詰まってしまいます。
「……???」
そんな様子の私を不思議に思ったのか首を傾げるオトハさんと——
「たっだいまー!二人共もうそろ起きないと——」
タイミング良く?悪く?部屋に戻ってきたシエラさんと——
「昨晩は大変失礼いたしましたっ!!!」
素早く体勢を整えて土下座を敢行する私——
まるで示し合わせたかのように重なったそれらは、一瞬の疑問と何とも言えない気まずさを生み出してしまいました。
『………………………………』
……はい、大惨事です。わざわざ言葉にするまでも無く、大惨事です。
更に付け加えるのであれば、大惨事と化したこの状況を素早く把握したシエラさんが昨晩の事を地殻どころかマントルまで掘り返す勢いで私を揶揄い始め、少し遅れて気が付いたオトハさんは懸命に私をフォローしようとしてくれるものの昨晩の事がフラッシュバックして微妙に言葉に困っており、私はただ頭を下げる事しか出来ない機械と成り果てているのです。
最早、大惨事を飛び越えて阿鼻叫喚地獄絵図なのです。
そして恐ろしい事に、このそっと見なかった事にしてしまいたい地獄絵図が数分は続き、冒頭という名の今現在に至っています。
……本当にどうすれば良いのでしょうかね?
そうして私が頭を下げたままでいますと、急に『ドンドンドン!』と扉を叩く音と、少女特有の甲高い声が室内に響いてきます。
当然と言って良いのか、私たちはビクリっと身体を硬直させて思わず扉の方に視線を向けました。
「おねぇぇえさんたちぃ!!!」
『——っ!?』
「あさだよぉぉぉ!!ご飯できてるってぇぇぇ!下でまってるねぇぇ!!!」
『…………』
声の主は言わずもがなエマちゃんでした。
そう言い残して去っていったエマちゃんはその余り余った元気で知らずの内にこの地獄絵図を吹き飛ばし、私たちの間に沈黙を齎しました。
まるで嵐の様ですね。
一方的に残された私たちは顔を見合わせて目を瞬かせます。
「…………そろそろ準備しよっか」
「そう……ですね、エマちゃんも待っている様ですし」
「で、ですね……」
『……………………』
「……ふふっ」
「……あはははは!」
「……ははははっ!」
一瞬の沈黙が私たちにある意味で心の余裕のような何かが与えたのでしょう。私たちは誰からという事もなく声を上げて笑い合いました。
そして、各々がベッドから立ち上がります。
「あ〜〜おかしい!あ、二人共ごめんね?流石に揶揄い過ぎちゃった」
「い、いえ、私からは返す言葉がありませんので……」
「私は気にして無いから大丈夫ですよトレーネ様!」
「すみません……」
「んーまぁ私が言うのもなんだけど、トレーネちゃんはあんま深く考えなくて良いと思うよ?テンション上がっちゃって、女の子同士でちゅーとかって割とあるし」
「えぇ……それは流石に…………」
「いやいやホントに、仲良い子とかだと結構あったよ?その場のノリとかでさ」
失礼ですが疑わしいと言いますか何と言いますか……ですがまぁこれはシエラさんなりのフォローなのでしょうかね?私がいつまでも謝ってばかりでは雰囲気も悪くなってしまうでしょうし、軽い雰囲気にして有耶無耶にしてしまうような感じの?
実際、テンションが上がって——と言って良いのか、吸血の衝撃が大き過ぎて私の理性が崩壊していましたしね。
……まぁ、オトハさんも気にしないと言って下さっていますし、お言葉に甘えるべきですか。
「お二人とも……すみません、ありがとうございます」
「大丈夫ですっ!」
「いやいや〜あ、何ならお姉さんともあっつぅ〜いキッスしちゃう?いつでもウェルカムだよ?」
「あの、流石に反省された後に一秒で矛盾されるのはやめてもらえませんか?」
『あはははははっ!』
シエラさんのボケはさて置きまして、オトハさんに視線を向けますと昨晩吸血した際に出来た傷跡が目に止まりました。
私は一言断ってから【光系魔法】の【ヒール】という回復魔法を無詠唱で使用します。
すると、オトハさんの傷跡は薄らとした光に包まれて、一瞬のうちに消えて治りました。
「あぁオトハさん、先に首筋の傷を治しておきますね」
「あ、ありがとうござ——わっ!凄いです、一瞬で……!」
「あと……そうですね。シャワーを浴びる時間も無さそうですから、ついでに魔法で綺麗にして服装だけ着替えましょうか……はい、もう大丈夫ですよ」
「あーこの感じ、エルビセ服飾店で使ってた魔法とおんなじ?確か何んだっけ……【リーベ】だっけ?」
「ええ、そうです。これからも重宝しそうな便利な魔法ですよ」
私がついでに使用した【光系魔法】の【リーベ】に費やされた魔力の余波を敏感に察知したらしいシエラさんが、何やら微妙な表情を浮かべて首を傾げていましたので、私は頷き返して肯定しました。
しかし、シエラさんの表情が晴れる事はなく、難しい顔のまま質問が続きます。
「前も変だなぁって思ったんだけど……この魔法って結構規模が大きいというか、魔力の消費エグいよね?」
「あ!私もかなり大きな魔力が動いた感じがしました」
「トレーネちゃんのステータスだから流石に依頼前に魔力の使い過ぎで〜なんて事にはならないと思うんだけど……えっと、ならないよね?」
「それは大丈夫です。感覚からして微々たる消費ですし、朝食までに全快すると思いますね」
「…………それはそれで大概にヤバいでしょ」
「ははは……」
シエラさんの物言いに、私は苦笑いを返す事しか出来ませんでした。
私だって大規模な儀式の禊用の魔法を普段使いしている事の異常性は正しく理解していますからね。シエラさんの呆れには理解出来ます。
……まぁ、自重する理由もありませんし、便利な魔法なのでこれからも重用していく訳ですがね。
そんな一幕もあった私たちですが、それからはテキパキと身支度を整えていきます。
ちなみに、これから冒険者ギルドで依頼を受ける事も考えて、お二人の服装は冒険者用のインナーとおやっさんのところで揃えた防具類になっています。
私としましては宿屋さんの中でそのような格好で良いのだろうか?と疑問もあったのですが、シエラさん曰く冒険者多く寝泊まりするような宿屋さんではごく普通の事のようです。
そうして、時間にして2〜30分ほどでしょうか?
粗方の準備が終わり、忘れ物などが無いかを確認している時でした。再び『ドンドンドンドン!』と扉を叩く音が聞こえてきてエマちゃんの声が響きます。
「おねぇぇぇさんたちぃぃ!まだぁぁぁ???」
……どうやら我慢出来ずに催促に来たようです。
私たちはエマちゃんの元気の良さに、思わずお互いに顔を合わせて苦笑いを溢しました。
「朝から元気だねぇ」
「可愛らしいのですが……エマちゃん、後でエンリさんに怒られそうですね」
「あははは……」
「おねぇぇぇさんたちぃぃぃ!ねてるのぉぉ???」
私たちは扉をそっと開けてエマちゃんを迎え入れました。
ようやく異世界生活2日目という…進行遅くない?
……ま、まぁ、魔法の言葉『あれから〜日後』がありますからね
きっとこれから無限加速的に日数が飛ぶ事だってありますよ
それだとタイムトラベルしてますがねw
評価pt、ブクマ、そもそもの閲覧、本当にありがとうございます
私のモチベーションの源です
もしまだブクマしてないよ、評価pt入れてないよ、という方がいらっしゃれば下からお願いします
私が小躍りして喜びます
亀より遅い更新ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです




