15話 吸血少女と初めての味
連日投稿です!
私が連日投稿……明日は所々により快晴、または槍が降る事でしょう
本話の最後にイラストがあります
15話 吸血少女と初めての味
「…………」
「…………?」
「……………………っ」
「……………………!」
「………………………………っ!」
「………………………………っ!?」
「……いや二人とも何やってんのさ」
私とオトハさんがベッドの上で向かい合って座り、無言でお互いに何かを牽制でもするように探り合っていると、思わず……といった様子でシエラさんが大きなため息を吐きました。
まぁ、シエラさんのその反応は分かりますよ?
先程まで何だかんだと打ち解けてお話も弾んでいた筈が、何故か急に間を見計らって無言のお見合いを始めた訳ですからね。
ですが、これには山より高く谷より深い理由があると言いますか、私にも言い分という物があるのですよ。
お話は一時間弱ほど前に遡りまして————
匂いフェチの変態という大変不名誉で謂れの無い疑いを回避してから、私たちは順番にお風呂に入りました。
私が【光系魔法】の【リーベ】を使って綺麗にしても良かった——と言いますかその方が絶対に綺麗になるのですが、まぁ私もシエラさんも元日本人ですし、湯船に浸かりたいと思ってしまうのも仕方が無いというものでしょう。オトハさんの里でもシャワーよりも湯船に浸かる方が多数派だったそうですから尚更ですね。
そして、私が入浴中にお二人の間で話し合いという名のじゃんけんが行われ、今回の吸血担当がオトハさんに決まったそうなのです。
ここまでは良かったのですよ。ここまでは。
問題はどのようにして吸血を行うのか?という事でした。
私のイメージとしましては指先をナイフなどで少し切ってそこから吸い取るつもりでしたが、お二人は創作物の吸血鬼のように首筋にカプリと噛み付く前提でいたようなのです。
想像してみて下さい。
いざ吸血を始めようとナイフをスキルの【アイテムボックス】から取り出した私と、パジャマの首元を少しはだけさせて緊張したように目を瞑るオトハさんを。
……えぇ、そっとナイフを【アイテムボックス】に戻しましたとも。
そして、オトハさんも私たちの意図が微妙にズレている事に気が付いて目を開けましたとも。
当然、目が合って何とも言えない微妙な雰囲気になりましたとも。
それを今に至るまで引き摺っていますとも。
——ね?仕方がありませんよね?
ちなみに、シエラさんは今回は吸血担当ではありませんが、面白そうなので吸血の様子をじッッッくりと眺めるから!と宣言をした愉快犯担当です。
実際に、私とオトハさんが謎のお見合いを始めるまではニヤニヤと笑みを浮かべて、楽しそうに私たちの様子を見ていましたからね。
……流石に絵面が最悪すぎませんか?
ともあれ、このままの雰囲気のままでいる訳にもいかず、私は一度咳払いをしてから仕切り直しました。
「こほん……っ!では始めましょうか」
「は、はいっ!」
「えーっと、これは指を少し切って血液を舐めた方が良いのですかね?それとも噛み付いた方が良いのですかね……?」
「あ、ど、どうしますか……?」
「いやいや、二人とも気付いて無いかもだけど、指をペロペロ舐めてる絵面はかな〜りえっちだからね?」
「…………素直に噛み付く事にします」
「あ、はい、分かりました」
「まぁ、首筋ペロペロもえっちではあるんだけどさ」
「あの、一体どうしろと言うのですか……」
「あはははははっ!」
楽しそうに笑う愉快犯担当の方は置いておきまして、私は改めてオトハさんに向き直りました。
そして今度こそ、意を決して吸血へと踏み切るべく、彼女の両肩に手を置きます。
……お話を掻き乱す愉快犯担当に構っていられないのですよ。
「オトハさん、で、では……失礼しますね」
「は、はいっ!」
謎の緊張感から逃げるようにオトハさんの首筋へと口を近づけますと、ふわりと石鹸の良い香りが鼻をくすぐってきました。
この宿の物なので当然私も同じ物を使用している筈ですが、妙にドキドキすると言いますか、変に動揺してしまっていますね。
これは吸血という新しい経験故のものなのか、それとも女性の首筋に噛み付くという何処か背徳感を想起させる行い故なのか…………。
いえいえ、これではシエラさんと全く同じではありませんか。彼女の事を呆れていられませんよ……。
私は頭の中をグルグルと巡りかけていた煩悩のような何かを振り切るように、一息に八重歯をオトハさんの首筋に当てがいそのまま突き立てました。
「——んんっ!」
すると八重歯は少しの抵抗も無く彼女の皮膚を破り、血が滲み出てきて豊満な鉄っぽい匂いと共にじわじわと広がっていきます。
そして、滲み出た血液が八重歯に触れた瞬間でした。
私の八重歯は——いえ、私の牙はジンジンと熱く火照りだし、その熱が全身を駆け巡ります。
「はぁ…………はぁ……はぁ!」
私の息はだんだんと荒くなり、全身がオトハさんの血液を強く求めているのだと——強く渇望しているのだと——強く飢えているのだと——理屈も理由も無く、本能で理解します。
私は突き立てた牙をゆっくりと傷口から離し、今にも滴り溢れてしまいそうな真紅の雫へと舌を這わせました。
——甘い
それは今までに味わってきたどんな物よりも甘美でした。
私を幸福感の波へと引き込み、全身を巡る熱は更にうねりを挙げて、快楽にも全能感にも似た暴走となって私を痺れさせます。
オトハさんの血を味わう度に、私の身体はビクリと跳ね上がりますがもう止まりません……止める事が出来ません。その刺激すら、快楽すらも欲しているのでしょう。
欲しくて……欲しくて……仕方が無いのです。
「んんっ……っ!はぁ……はぁ……んぁっ!はぁ…………っ!」
私は舌で傷口を嬲るように何度も何度も舌を這わせ、唇で吸い付き、牙を立て、ぴちゃぴちゃと音を立てて、本能の赴くままにオトハさんの血液を求めます。
もう声を我慢する事も難しいのでしょう。
その音は漏れ出るオトハさんの乱れた息遣いも相俟って、どこか妖艶な響きとなって私の耳を穿ちます。
——もう良いのではないか?
——今日はただのお試しであって簡単に済ませるはずではなかったのか?
——これ以上はオトハさんの負担になってしまうのではないか?
様々な考えが頭を過ぎります。
ですが、それら全てを本能が許さないのです。
——まだ足りない……
——もっと血を求めろ
——もっともっと力を求めろ
——もっともっともっとオトハさんを求めろ
まるで悪魔のように囁き、私を惑わし、魅了するのです。
……いえ、きっと私を惑わし、魅了しているのはオトハさんなのでしょう。彼女の仕草、息遣い、匂い、その全てが私を虜にしているのです。
「はぁ……はぁ…………はぁっ!」
荒くなる一方な呼吸。
正直なお話、私はこの吸血という行為を少し舐めていたと言いますか、甘く見ていたのでしょう。少なくとも興味本位で軽率に行って良い事では無かった、その事を今になって痛感させられています。
人間が生きる為に食事を摂るように、人間が自身の体調を整える為に睡眠を必要とするように、人間が子孫を残す為に行為に及ぶように……人間という生物の根幹を成す三大欲求に並ぶ行為であるという事をもっと重く受け止める必要があったのです。
自分自身では止められないのですよ。
私という吸血種が存在する為に必要不可欠な欲……それが当然であると私を突き動かすのです。
もっとオトハさんが欲しい、離したくない、そんな想いからか、私は無意識の内に彼女の背中に手を回していました。
「はぁ……はぁ……と、トレーネさま……大丈夫、ですよ」
オトハさんは私の耳元でそう囁くと、私の身体に腕を回して強く抱き返してくれました。
……そんな事をされてはもう我慢なんて出来ませんよ。
「良い、のですか……?」
「……はい」
私の情けない問いに、オトハさんは小さいながらもハッキリと力の籠った声で答えます。
私は首筋から口を離して、オトハさんを真正面から見つめました。彼女も私と同じように目を逸らしたりはしません。
交錯する視線。
一体、どのくらいの時間を見つめ合っていたのでしょうか。
実際には数秒にも満たないごく短い時間である事は間違い無いのですが、私には何時間にも感じて時間は歪み、空想の世界に入り込んだかのような錯覚を覚えます。
しかし、そんな悠久にも感じるゆったりとした時間とは真逆に、私の心臓はドクドクと煩いくらいに早鐘を打って、今のこの時間は全て現実なのだと同時に警鐘も鳴らします。
そんな現実と空想の間を彷徨い、逡巡していると、オトハさんはゆっくりと目を閉じました。
それが何を意味するのかなど、考えるのも、言葉にするのも、全て野暮というものでしょう。
「…………んっ」
「……んんっ!」
私は目を閉じて待つオトハさんの唇に、自身の唇をゆっくりと重ねました。
私のファーストキスは、とてもとても甘い血液の味でした。
以下、異世界生活初日終了記念のおまけイラスト
普段のトレーネ
頑張って笑うトレーネ
オトハはいつもこんな感じ
満面の笑顔なオトハ
ニヤつくシエラ
謎に清楚感のあるシエラ
以上、異世界転生1日目終了のイラストでした
……まだ、1日目が終わっただけなのか
評価pt、ブクマ、そもそもの閲覧、本当にありがとうございます
私のモチベーションの源です
もしまだブクマしてないよ、評価pt入れてないよ、という方がいらっしゃれば下からお願いします
私が小躍りして喜びます
亀より遅い更新ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです