12話 吸血少女とマニュアル求む『友達の作り方』
お久しぶりで申し訳ないです
社畜してました…(白目
オマケにこの回は難産でした
物凄く難産でした……
※注意※
他の話は修正済みと思いますが、国の名前、街の名前を変更しています
それどこの国よ?と、ならないよう確認下さい
ユーラシア王国→メレフナホン王国
エイジア→アヴァンテル
今までが適当ネーミング過ぎました
一応、きちんと意味付けしてあります
12話 吸血少女とマニュアル求む『友達の作り方』
楽しく夕食を食べ終えた私たちは食休みにエマちゃんとお話をして、お店が少し落ち着きを見せた頃合いに割り当てて貰った部屋へと向かいました。
と言いますか、エマちゃんがはしゃぎ疲れたのか、うつらうつらと船を漕ぎ始めたので、エンリさん……エマちゃんのお母さんに後を任せた訳です。
子供盛りとでも言いましょうかね?非常に微笑ましい光景でした。
しかしまぁ……食べ終えた今、思い返してもあの料理は美味しかったですね。
化学調味料がごく少ないこの世界で、日本の食文化に匹敵する料理を出されるとは、全く考えていませんでしたから驚きました。
お勧めされる理由も分かります。
ちなみに、私たちは冒険者ギルドで『南国鳥の囀り亭』をお勧めされた訳ですが、これは誰でも同じように勧められている訳では無いそうです。
何でも、冒険者ギルドでは各冒険者に寝所の割り当てがスムーズに出来るよう、宿屋さんとの提携運営をしているとか……。
大雑把には、宿屋さん側からどういう冒険者を客として斡旋して欲しいのか要望を出し、ギルド側から該当しそうな冒険者を紹介するようです。
こうする事で、宿屋さん側はある程度狙った客層を獲得出来るので客層の乖離によるトラブル減少、お店の利益確保が見込めますし、冒険者ギルド側は宿泊費を割安にして貰う事で、低ランク冒険者の受け入れを容易にする事が可能になるのです。
俗に言う、Win-Winな関係ですね。
それと、これは後でエンリさんから聞いた事ですが、『南国鳥の囀り亭』も例に漏れず冒険者ギルドの顧客斡旋に登録しているそうです。
斡旋条件は単純に『エマちゃんを怯えさせる事なく、ある程度仲良く出来る事』だそうです。
まぁ、冒険者には腕っ節が自慢の荒くれ者が多いですし、エマちゃんを最優先に考えた斡旋となりますと、他には考え難いですよね。
また、お店の入り口にドアの類が無い事による防犯への影響ですが、こうして冒険者が良く利用するという事自体が十全な対策になっているそうです。
と言いますのも、確かに冒険者は荒くれ者が多いのは多いです。それは揺るぎようの無い事実です。
ですが、それはあくまでも冒険者界隈の中であって、それ以外の依頼者になり得る戦闘技術を持たない一般の方々に対しては律儀と言いますか……信用を第一に行動をする冒険者が九割以上を占めるのも、また事実なのです。
何でも、それが冒険者界隈での暗黙の了解だそうですよ。
……まぁそれでも、問題を起こす人は居るようですけどね。
そういう方たちは冒険者ギルドが真っ向から制裁するようですし、本当に極々稀との事です。
あ、またお話が脱線しますが、私たちに絡んできた悪漢冒険者たちは、私たちが既に冒険者登録を済ませた後に問題を起こしている為、黒に限りなく近いグレーという事で制裁の対象外らしいです。
……本当に、規則の穴を突いた嫌な人たちですね。
ともあれ、そうして部屋に入った私たちは外套や先程購入した防具などを脱いで、その下に着ていたブラウスシャツやインナーだけの楽な格好になりました。
そして、各々使用するベッドを確認したり、備え付けのバスユニットを確認したりします。
……パッと部屋を見て回った感じとしましては、古民家宿とビジネスホテルを足して割ったような部屋ですね。
科学技術が発展していない代わりに魔法技術が発展していまして、仕組みこそまるで違いますが、蛇口を捻ると水やお湯が普通に出てきますし、上下水道は当たり前に整備されています。
ゼウス様の仰っていた通り、文明レベルとしては現代の地球とそう大差無いのではないでしょうか?
……まぁ、流石に地球の先進国レベルかと言われますと、微妙に劣っていますけどね。
最低限に高レベルな文明生活が可能、という意味では同等程度はあるでしょうが……例えば、この世界にはキャッシュレスなんて言葉はありませんし、細部は所々……と言った感じなのです。
そうして、粗方部屋の確認が終わりますと、シエラさんは意を決して……といった表情を浮かべて、私に向き直ります。
そして、今までとは違う口調で口を開きました。
「ねぇ……トレーネさん、もういいですよね?そろそろ、トレーネさんが何者なのか説明して貰えますか?」
「————っ!」
「そうですね……個室に移動しましたし、丁度良いタイミングですかね。長話になるでしょうし、先ずはベッドに座られてはどうですか?」
お二人とも随分お待たせしてしまった所為か、色々と気になっているのでしょう。
私の言葉に前のめりに頷いて、ベッドに腰掛けます。
さて……とは言ったものの、どこからどう説明していくと分かり易いのでしょうか……。
……やはり、先ずはオトハさんに、私とシエラさんが異世界からの転生者である事を説明した方が色々と混乱を生まずに済みますかね?
果たして、その前提を理解していただけるかどうか……。
私は一度咳払いをしてから、オトハさんへ視線を向けて口火を切りました。
「……えーっと、先ずはオトハさんに、私とシエラさんが同郷である事の説明と言いますか、私の身の上話の前提からお話しさせてもらいますね」
「っえ——!?わ、私にですか!?」
「ええ。そうしなければ、色々と説明が難しい部分があると言いますか、何と言いますか……」
「あ〜〜、なるほど、確かにそうですね。……というか、やっぱりそういう事だったんですか?」
「……まぁ、シエラさんは大凡の考えは付きますよね」
寧ろ察しが付くように、情報を匂わせていましたしね。
ご自身の境遇と照らし合わせて考えれば、自ずと答えに辿り着く簡単なお話でしたし……。
少しシエラさんに意識を取られましたが、私が再びオトハさんへ目を向けますと、彼女は両手で拳をグッと握って気合いを入れていました。
「えっと……ひ、必要な事なんですよね?分かりました、が、頑張って覚えます!」
「そう緊張されなくとも、そこまで難しいお話では無いと思いm——あぁ、いえ、それはオトハさんの知識次第ですか。……えぇっと早速ですが、オトハさんは勇者召喚の儀式をご存知でしょうか?」
私がそう首を傾げますと、オトハさんは戸惑いながらも頷いて肯定してくれます。
まぁ、突然のお話ですよね。
いきなり何なんだ?と訝しげに顔を顰められなかっただけ、オトハさんの優しさが伝わります。
「え……?あ、はい。あの……ま、魔王を倒すために、勇者様が異世界から召喚されるってやつですよね?御伽噺では何百年も前にあったっていうあの……」
「そうですね、その勇者召喚で間違いありません。それと、勇者の召喚元の世界——異世界の概念は分かりますか?」
「……???えっと、勇者様が元々住んでいた世界の事ですよね?それ以外に何かあるんですか……?」
「いえ、その認識で大丈夫ですよ」
「どうしてそんな事を……?あ——っ!もしかして——!?」
「ん?……あぁいえ、別に私たちが勇者であるとか、そういったお話ではありません」
「あ……そ、そうなんですか……」
オトハさんは閃いたとばかりに耳や尻尾を逆立てていましたが、その考えが違った事が分かると今度はしょぼんと落ち込ませました。
どうやら、オトハさんは感情の起伏が耳や尻尾に良く現れるようです。
……と言いますか、その耳と尻尾の動きは可愛い過ぎませんか?獣人という事も相まって、小動物的な可愛さが際立っていますよ。
何度でも言いますが、あのもふもふを是非とも触らせていただきたいものです。
この欲望はオトハさんの耳と尻尾が動く度に湧き立ち、収まる事は無いのでしょうね。
そしてその度に、何度でもお話は脱線していく訳です。…………はい、すみません。
私はそんな様子のオトハさんに思わず笑みを浮かべて、お話の続きを口にします。
「ですが、異世界の存在を理解されているのであればお話が早いですね。私とシエラさんが同郷だというのは、私たちが元はその異世界の出身だったという共通点を指しているのですよ」
「ぅえ……?い、異世界から来たのに勇者様じゃないんですか?」
「はい、繰り返しますが違いますよ。と言いますか、シエラさんが勇者であれば、幾ら特例措置をとったとしても、国が奴隷措置にする事は無いと思いますよ?流石に外聞が悪過ぎますから」
「あ、確かに……」
「では、何故この世界に居るのか?という説明ですが、それは私たちが転生者だからなのです」
「転生者……ですか?」
あまり聞き慣れない言葉だったのでしょう。
オトハさんは首を傾げて、疑問符を頭に浮かべています。
「要は、私たちは異世界で暮らしているうちに死んでしまったので、今のこの姿に生まれ変わった……という事です。オトハさんに例えるなら……そうですね、狐人族からヒューマンへ生まれ変わるような感じでしょうか?」
「し、死んで……生まれ変わり…………ですか。その、ご主人様も、シエラさんも大丈夫なんですか?」
「……?すみません、何がでしょう?」
「え……?だ、だって、一回死んじゃったんですよね?何か悪い影響とかあるんじゃないんですか……?」
「あぁ……なるほど、そういう事ですか」
オトハさんの言葉に少し納得したものの、頭を振ってそれを否定します。
「死んでしまったというのは前世……前の身体での出来事なので、今のこの身体には関係はありませんよ。そんな事もありましたね、という思い出のようなものですね。……まぁ、あまり面白い思い出になりそうにはありませんが。シエラさんはどうですか?」
「あ〜〜、確かにそんな感じですね。だから、オトハさんも心配はしなくても大丈夫だよ」
「わ、分かりました……ちょっと、安心しました」
「心配して下さってありがとうございます。しかし……私が言うのも何ですが、オトハさんは良く信じてくれましたね?元々、異世界についてご存知だったとはいえ、かなり突拍子もない事を口にしていると思いますよ……?」
「それは、その……確かにビックリしましたし、信じきれない気持ちもちょっとありますけど……でも、わざわざご主人様とシエラさんが一緒に嘘を吐く理由も無いですから」
「……まぁ、確かに身の上話をするというのに、嘘を吐く必要はありませんね」
私はオトハさんの言葉に思わず納得して頷いてしまいました。
何と言いますか、随分と合理的な判断ですね……少し意外でした。
私が日本で、出会って数時間の方に『ワターシ異世界から転生シマーシタ!』なんて言われようものなら、そっと通報するか、病院の紹介を考えるかの二択しか思い浮かばなかったと思いますし……。
これは御伽噺として、異世界の存在が周知されている結果ですかね?
私の予想とは裏腹にすんなりと受け入れて貰えて少し拍子抜けではありますが、細々とした説明に時間を取られなくて済みましたから、オトハさんの知識量に有り難く甘えてしまいましょう。
私は一度咳払いをして気持ちを切り替えてから、本題を切り出します。
「では今のお話を前提としまして、前世の転生にまつわる出来事と、今世に於ける目的について、順にお話ししていきますが——」
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吸血少女説明中
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「——とまぁ、大凡このような感じでしょうか?基本的には冒険者活動をしつつ、あまり目立たないように行動していく方針ですね」
そうして、私はゼウス様と相談しながら決めた『ぱーふぇくとぷらん』なる行動計画や、あの謎の空間でお話しした事などを、必要な部分だけを掻い摘んでお二人に説明しました。
事前に転生という概念についてお話をしていた事もあり、シエラさんは勿論、オトハさんもお話が理解出来ないという事は無かったと思います。
思うのですが…………
「…………」
「…………」
「あ、あの……?シエラさん?オトハさん?」
私は恐る恐るお二人に尋ねます。
お二人とも始めのうちは頷きながら普通にお話を聞いて下さっていたのです。
しかし、お話が進みに連れて無言になっていき、最終的にシエラさんは何故か表情を引き攣らせて苦笑い?を浮かべ、オトハさんはポカンと口を開けて呆けてしまう始末に——
「は、はは……ははっ……はははっ…………はぁ」
——訂正。
シエラさんには表情を引き攣らせたまま、奇怪な笑い方で笑われた挙句、最後には溜息まで吐かれてしまいました。
それは普通に傷つくのですが……。
と言いますか、お二人のこの反応はお話が分からなかった、という事なのですかね?
そこまで難しいお話は無かったとは思うのですが……それは私が当事者だからそう思うのであって、やはりそうでない方には難しい内容なのでしょうか?
ですが、シエラさんは私と同じ転生者の筈ですし、オトハさんも先ほどの転生云々のお話はしっかりと理解されていましたし……もしかして、私の説明が下手過ぎましたかね?
……その可能性は非常に高そうですね。
私はどうにも頭の中で考える速さと、それを口にする速さが一致しないようでして、お話ししている内に混乱してしまい、説明を所々省いてしまう悪癖があるのですよ。
前世の入院時に、入院患者仲間だった小学三年生の愛佳ちゃんに算数を教えていた事があったのですが、よく『お姉ちゃん何言ってるか分かんないよ』と言われていましたからね……。
なんとも情け無いお話です。
そんな一年程前の出来事を思い返して、私が思わず眉を寄せて顔を顰めている事に、シエラさんは気が付いたのでしょう。
何処かバツの悪そうに、言葉を吃らせながら口を開きました。
「あ、あ〜〜いや、その……トレーネさん、違うんですよ」
「何がでしょう?私はまだ、何も口にしていませんよ……?」
「いやぁ、なんと言えば良いのか……こう、圧が凄かったので……私が失礼な反応をしちゃったので、怒らせてしまったのかなぁと?」
「別に怒っては全くいませんよ?昔の事を思い出して、自分の情け無さに嫌気が差しただけですし……。あぁただ、その反応は少し傷つくなとは思いましたが」
「あ、はい、ですよね……すみません」
「いえ、もう気にしていませんし大丈夫ですよ。それよりも、もしかして何か分からないところなどがあったのでしょうか?私の説明が下手でしたか……?」
私がそう首を傾げますと、シエラさんは緩やかに首を振ってそれを否定します。
「いえ、そんな事は無いですよ。こう言うのもなんですけど、話自体は結構単純でしたし?」
「ほっ、それは良かったです。あんな反応だったのでてっきり——」
「ただ…………」
「え?ただ……?ただ、何でしょう?」
不穏?な言葉が聞こえて、私は思わずそれを復唱して尋ねました。
すると、シエラさんは少し躊躇いがちに続きを口にします。
「ただ——トレーネさんのそのステータスはマジでヤバい事になってるなぁ……と。何て言えば良いんですかね?こう……想像の斜め上を錐揉み回転しながらマッハでぶっ飛んでいったというか、私の考えが綿飴を煮溶かしたよりも甘かったというか、ブルータスお前もか〜い!というか、マジでヤバくてマジパネェで候というか……?」
「シエラさんのその言葉が『まじでやばくてまじぱねぇ』事になっていますよ……」
例えがまるで例えになっていませんからね?
錐揉み回転しながらマッハで飛んでいったなんて、一体どんな状態なのですか?想像するに、絶対に空中分解してバラバラになっていますよね?それ。
それに、綿飴を煮溶かした……って、それはただの砂糖水なのではありませんか……?糖尿病になりますよ……。
その上、言うに事を欠いてカエサルの今際の言葉ですからね。果たして、そんなに楽しそうなツッコミ口調の最後だったのでしょうか?裏切られたというより、最早漫才では……?
本当、シエラさんのお話の方が『まじでやばくてまじぱねぇ』過ぎて、ツッコミが追いつきませんよ……。
あと、候はどこから出て来たのでしょうかね?迷子でしょうか?
そんな呆れを多分に含んだ私の溜息を聞いても尚、シエラさんのお話は止まる事はありませんでした。
「いや、でもまぁ、トレーネさんの前世って、あの月峰涙さんだったんですよね?あの……?」
「私のツッコミは無視なんですね。まぁ、お話が進みませんし、別に構いませんが……えぇっと、私の前世の名前についてでしたか。……すみません、シエラさんの仰るあのがどの月峰涙さんを指しているのか分かり兼ねますが、私も前世ではそう名乗っていましたよ?」
「あっとぉぉ……例えば、前世で『どこでもトビラ』とか作られたり?」
「いえ、私は設計図を考えただけですので、開発には一切関わっていませんね」
「AIの人権?とかを確立させたりとかは?」
「AIちゃんの事ですかね?それも私は関係ありませんよ。AIの人権云々に関してはAIちゃんが頑張っただけですし……あぁ、私がAIちゃんの産みの親という意味なら間違いありませんよ」
「他には……あ、なんかノーベル賞とか受賞されてましたっけ?なんたら理論っていうので」
「『クロノス粒子制御下に於ける実虚数推移の完全整合性理論』と『クロノス粒子循環下に於けるトムソンの原理を否定としたエントロピーの可逆性理論』ですか?……あれらは私の受賞になっているようですが、果たしてそれで本当に良いのですかね?私はただ、SF情報掲示板に思考実験を纏めた論文をアップロードしただけですよ?」
「なるほど、なるほど……そういう事ですか。それなら人外ステータスも確かに——」
「……???」
そんな次から次へと唐突に始まった質問は、私には意味の分からないものでしたが、どうやらシエラさんが納得の出来るだけの答えを得られたようです。
私の返答を聞く度に頷かれていましたし、ブツブツと何やら考えを纏めるように呟かれていまいしたからね。
そして最後には深呼吸までして、それはそれは晴れやかな笑みを浮かべていました。
そのままサムズアップもしてしまいそうな雰囲気です。
「すぅぅ………ふぅぅぅ……………うん、はい、私の考える月峰涙さんと完全に一致してます。ええ、本当にどうもありがとうございました」
「……???え、えぇっと、どういたしまして?」
お礼?を言われたので思わずお返事をしましたが……一体なんだったのでしょうか?先程の質問の意図然り、何故お礼?を言われたのか、さっぱり分かりません。
本当、私の前世などを確認して何になったのでしょうかね……???
私は何が何だか分からずに混乱していますが、シエラさんからしますと先程の会話でお話は既に終わっているのでしょう。
彼女は困惑する私を他所に、オトハさんへちらりと視線を向けて三度口を開きます。
「それで……私としましてはトレーネさんの話には納得出来たというか、納得させられたって感じで、疑問とかは特に無いんですけど……オトハさんはどう?」
「…………ぅぇ?えっ!は、はい!?」
「いや、トレーネさんの話で分からなかったところとか無かった?って」
「それは私がお聞きする事のように思いますが……まぁ、別にどちらでも良い事ですか。……オトハさん」
「な、何ですか、ご主人様!?」
驚いて耳と尻尾を逆立てるオトハさんに、私は思わず頬を緩ませながら続きを口にします。
「オトハさんを蚊帳の外にする事になってすみませんでした。オトハさんも、何か分からないところなどはありませんでしたか?」
「えっ、あっ、い、いえっ!そんな!私は全然気にして無いですよ!ご主人様とシエラさんが同郷なのは聞きましたし、質問とかが沢山になるのは当然だと思います!」
「そうですか?気を遣っていただいて、ありがとうございます。——それで、何か分からないところはありませんか?」
「それも大丈夫……だと思います。ご主人様はご主人様ですし……?」
「あの……何故、疑問系なのでしょう?」
「す、すみません。ご主人様が凄過ぎて、何ていうか……実感が湧かないんです」
「は、はぁ……?」
「で、でも!ご主人様が凄い事は分かってます!」
「??????」
微笑ましく笑みを浮かべていられた様子から一転、私はオトハさんのお話に、今日何度目となるか分からない疑問符を頭に浮かべて首を傾げます。
……オトハさんは何故に、ゴマ擦りよろしく私を持ち上げられているのでしょうかね?
悪い気はしませんが、そんなに煽てられても碌な物が出ませんよ?
強いて言えばそうですね……食費と、宿泊費と、装備の調整経費と、その他雑費と、お小遣いと、オマケの0円スマイルくらいでしょうか?
…………あれ?意外と出ますね。
いえまぁ真面目なお話、それは契約上、お二人が依頼報酬を自力で入手するまでは、私が最低限出さなければならないものばかりなのですけども……。
と言いますか、私から出るもの全てがお金しかありませんね。私は財布か何かですか?
……………………自分で言っておいてなんですが、非常に嫌な響きです。
忘れましょう。
私は頭に過った嫌な考えを振り払うように大きく咳払いをして、お二人に向き直ります。
「ま、まぁ、お二人とも分からなかったところなどが無くて良かったです。それと繰り返しになりますが、なるべく目立たないように行動していきたいので、お二人も協力をお願いします。……まぁ、既に手遅れな部分もありますけどね」
「ギルドでは派手に暴れましからね〜。ただまぁ、あれだけ釘を刺しておけば変に絡んでくる奴も居ないと思いますし、後は大人しくしておけば大丈夫じゃないですかね?……街の中は分かりませんけど」
「私もそう思いますっ!」
「そう言っていただけますと助かります。街の中では……そうですね、基本的にフードを被っていると良いでしょうか?あ、いえ、寧ろその方が目立ちま——」
「あ、それは絶対に無いです。ご主人様はもう少し、ご自身の容姿の良さを自覚するべきだと思います」
「私もフードとかは被られた方がいいと思います……」
「そ、そんなに食い気味に否定されなくても……と言いますか、私も今世の容姿が非常に整っている事は重々承知していますよ?」
何せ手鏡を見て、思わず自分の顔に見惚れてしまった程ですしね。
……まぁ、お二人の仰りたい事は私が想像している以上に、と言う事なのでしょう。
こう聞きますと随分なナルシストに聞こえてしまいますが……気を付けておいて損はありませんからね。
お二人の言う通りに、街中では出来るだけフードを被る事にしましょうか。
……ふむ。これで大方の説明と言いますか、基本的な行動方針の確認はこれで終わりましたかね?他に説明の必要な無さそうですし……。
では……そろそろ、本題を切り出しますか。
「まぁ、街中では不自然にならない様にフードを被るとしまして……それではお二人共、これから本題に入ってもよろしいですか?」
「……え?本題??……あの、トレーネさん。今までのが本題じゃなかったんですか?」
「……!……!……!」
「いいえ、違いますよ?先程のはあくまでも私の身の上話という、前置きです」
「あれが前置き……?え、本題ってどんだけヤバイ話になるんですか……」
「ちょ、ちょっと怖くなってきました…………」
私は信じられないと呆然とするお二人に対して佇まいを直し、しっかりと一拍の間を取って場の雰囲気を整えました。
そして、お二人としっかり目を合わせて、口火を切ります。
「——これからは敬語はやめてお話ししませんか?是非とも、私とお友達になって下さい」
「……は?」
「え……?」
「……」
『…………え?』
「…………」
「…………」
「…………」
それはそれは微妙な、なんとも言えない気不味い雰囲気が、部屋の中を満たします。
時間にして一秒でしょうか?はたまた一分でしょうか?それとも気不味さのあまり一時間を一瞬の出来事だと錯覚しているだけなのでしょうか?
私たち三人の間に沈黙が訪れます。
…………えぇっと?お二人のこの反応は一体どういう意味なのでしょう?
これは本題の意図——『何故、私がお二人とお友達になりたいと思っているのか』が分からずに困惑されているだけ……という事で良いのですよね?
決して……決して『えぇ〜?何で今会ったばかりの他人の貴方と友達にならないといけないんですか?嫌なんですけど』という無言の意思表示ではありませんよね?大丈夫ですよね?信じていますよ?
しかし、そんな私の泣き言の様な、お願いの様な、命乞いの様な心の叫びがお二人に聞こえている筈も無く、沈黙は続きます。
「…………」
「…………」
「…………」
誰一人として視線を逸らさないまま、口を開かないまま更に数秒が経ち、今日は枕をグシャグシャに濡らして寝ましょう……。
そう、私が覚悟を決めたその時でした。
一目見て戸惑っていると分かる程に首を傾げて、声を詰まらせながらも、それでもシエラさんは沈黙を破って口を開きました。
「えっと……いや、あの……その、トレーネさん?」
「は、はい!」
待ちに待ったその問い掛けに、変に声が裏返ってしまいましたが些細な事でしょう。
視線でシエラさんに続きを促します。
「あの、本題って、もしかして、それ……?——あ、ですか?」
「ええ、勿論です」
戸惑いながら告げられたその言葉を、私は大いに頷いて肯定しました。
しかし、お二人はそれが信じられないのか、はたまた言葉の裏があるのでは無いか?と変に勘ぐっているのか、首を傾げてばかりいます。
「えっと……も、もっと凄い、ご主人様の目的とか、そういうのじゃないんですか?」
「目的は先程お話しした通りですよ。……いえ、お友達作りも私にとっては重要な事ですし、この世界で生きる目的の一つと言っても過言ではありませんか」
「……あんなに勿体ぶったのに?」
「断られたらと思いますと、とても怖いですし、非常に勇気のいる言葉じゃないですか」
「さっきまで、結構シリアスしてたと思うんですけど?」
「……?今だって私はとても真剣ですよ?」
『…………あっ』
微妙にお話が噛み合わずに私も首を傾げましたが、逆にお二人は何かに気が付いたかの様に、同時にポツリと声を漏らしました。
「月峰さんって天才だけどちょっとポンコツだったんだ……」
「ご主人様って綺麗で凄い人だけどちょっと残念な人なんだ……」
「……???すみません、お二人とも何か仰いましたか?上手く聞き取れなかったのですが……?」
「いえ、何でもありません。気にしないで下さい」
「いえ、何でもないです。大丈夫です」
「は、はぁ…………???」
何か分かった様に頷き合うお二人に、私は首を傾げて曖昧なお返事を返す事しか出来ませんでした。
……お友達作りとは、こうも難しいものなのですね。お話を切り出しただけでも、既に心が折れてしまいそうですよ……。
世の中の方達は一体どのようにしてお友達を作られているのでしょうか?その方法を是非ともマニュアルとして世に広めてはいただけないものですかね?
中途半端なところで切れてすみません
ただこれ以上長くなると、マジでやばくてマジパネェ状態になるので一区切りです
評価pt、ブクマ、そもそもの閲覧、本当にありがとうございます
私のモチベーションの源です
もしまだブクマしてないよ、評価pt入れてないよ、という方がいらっしゃれば下からお願いします
私が小躍りして喜びます
亀より遅い更新ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです