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9話 吸血少女と頑固……?な、おっさん鍛治師

お待たせしましたm(_ _)m


今までは『殆ど書き下ろし』とは言え、改稿の域に収まっていましたが、今話は完全に『新規書き下ろし』になってしまいましたw

 9話 吸血少女と頑固……?な、おっさん鍛治師



 冒険者ギルドをそそくさと逃げ出た私たちは現在、シエラさんの案内で武具屋さんへと向かっています。

 装備を整える為ですね。


 ですが、一言に武具屋さんと言いましても、流石に『冒険者の街』と呼ばれるだけあって、非常に沢山の武具屋さんが並んでいます。

 冒険者ギルドの直ぐ側にも大きなお店がありましたし、それ以外にもかなりの数のお店が競合しているようです。

 ……まぁ、需要量が需要量なので、当然と言えばそうなのですがね。


 そして、私たちが向かっている武具屋さんは大通りにある大きなお店……ではなく、シエラさんが前にお世話になっていたという、小道へと逸れた場所にあるこじんまりとした個人店です。

 それが何故かと言いますと、シエラさん曰く——



『大手が悪い訳ではありませんが、あくまでも量販店なので品質はある程度で一定ですし、オーダーメイドもできません。それに個々人に合わせた調整も出来ないので、長期的に見ると個人店の方が良かったりします』



 ——との事だったのです。

 急ぎで揃えなければいけませんので、いきなりオーダーメイドをお願いは出来ませんが、この先も冒険者家業をしていく事を考えますと、お願いする事は十分にあり得るでしょう。

 何より、細かな調整が出来ない装備に命を預けるとなりますと、正直かなりの不安が残りますし、シエラさんがお世話になっていたのであれば、そこにお願いするのが結局一番手っ取り早いという結論に至った訳です。


 まぁその分、個人店の方が気持ちだけお高い事が多いようですけどね。

 ……私にはゼウス様が下さった軍資金(おこづかい)があるので、関係はありませんが。



 ちなみに、こういった小さな個人店は腕の良い頑固者な職人が店主であるイメージを持つ方が多いように、私たちが向かっているお店も当にそのような方らしいです。

 シエラさんもギルド職員さんの勧めで来たものの、最初はコミュニケーションに苦労したとか……。


 ……何故かは分かりませんが、きちんと装備を見繕って貰えるのか心配になってきました。

 私のコミュニケーション能力はとても高い筈なので、何も問題は無い筈なのですが……。


 ええ、そうですね、高い筈なので問題は…………すみません、下らない事を言いました。無かった事にして下さい。




 ともあれ、そういった経緯で私たちは入り組んだ小道をシエラさんを先導にして歩いている訳ですが、私の頭の中は先ほど冒険者ギルド内で起こってしまった出来事についてで、一杯一杯でした。



 あの騒動の原因の半分はお二人の容姿が良いからでしょうが、もう半分は私が装備について失念していたからでしょうし、もしかすると回避出来ていた事かもしれませんよね……。

 それに、一応は私がお二人の雇用主なので今回は私が男性たちに応対しましたが、アレではお二人は完全に巻き添えになっただけでしたし…………。

 他に、上手くあの場を切り抜ける方法があったかどうか………………。


 ……まぁ、お二人の容姿の良さを考えると、仮に手を尽くしていたとしても全て無駄になっていた可能性も大いにありそうですけどね。

 しかし先ずは——


 私はシエラさんの後ろ姿を見ながら、一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けます。

 そして、一種のけじめをつけるべく、お二人を呼び止めました。


 お二人も私の雰囲気を悟ってか、歩みを止めて、私と相対します。



「……あの、お二人とも」


「……え?」

「えっあ、はい……?」


「先ほどは、すみませんでした」


「あの……すみません、何のことでしょうか?」


「ギルドでの騒動についてです。……あのナンパ騒動の原因の一端は、私が装備について失念していたからですし、その事でお二人にも迷惑をかけてしまいましたから……その謝罪をさせて欲しいと思いまして」


「あ、あー、そういう事でしたか」

「……???」



 オトハさんが不思議そうに首を傾げる中、シエラさんは私の言いたい事が伝わったのか、微妙な表情をしながら頷きました。

 しかし、返ってきた言葉は私の謝罪を肯定するものではありません。



「あの……ご主人様、装備の事が頭から抜けていたのは私もですし、寧ろ本来なら私が指摘をしなければなりませんでした。……私の不手際でご主人様にご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」


「も、申し訳ありませんでしたっ」


「え、えぇと……お二人が謝られる事では無いのですが……私の謝罪ですし……」


「それを言うのであれば、私たちも同じだと言いたいのです。あの騒動でご主人様に非はありませんでしたから」


「わ、私もそう思いますっ」


「しかし、私の応対が悪かった所為で、お二人にも迷惑を掛けたしまったのですよ?」


「……そこが見解の相違なのではありませんか?」


「はい……?」


「私たちは迷惑を掛けられた……などとは思っていませんし、ご主人様のあの対応はベストな物だったと思っているという事です」


「そう……ですか…………?」


「はい」

「……!……!」



 シエラさんの言葉を確かめるようにオトハさんへ視線を向けますと、彼女は無言で首を激しく縦に振って肯定していました。

 そんな、何とも言えないようなやりとりから、更に駄目押しをするようにシエラさんは続きを口にします。



「何回でも言いますけど、あの騒動は誰がどう見ても男たちが悪かったですし、冒険者として舐められないようにするなら、あの対応が満点なんです。寧ろ、あの騒動のお陰で今後は変なのが絡んでくる心配も少ないと思いますよ?」


「そうなのでしょうか……」


「はい、そう思います。……ご主人様が私たちに気を配って下さっている事は分かっていますから、気になさらないで下さい」


「わ、私もっ!そうっ思いますっ!」


「…………」



 私はお二人の剣幕に若干戸惑いつつも、先ほどのシエラさんの言葉を反芻させます。


 …………若干、シエラさんに言いくるめられている気がしないでもありませんが、お二人にここまで固辞されては謝罪も何もあったものではありませんね。

 これ以上の問答は私の我儘に過ぎないでしょうし……仕方がありません。


 私は若干モヤッとしたままの気持ちをグッと飲み込んで、お二人に頷き返します。



「分かりました。それでは、この件に関してこれ以上の深掘りは止めましょう。お二人もそれで良いですか……?」


「は、はいっ」


「勿論です。——と言いますか、私としましてはご主人様の実力が底知れないと言いますか……若干どころでは無く恐怖も感じると言いますか……。一体、どんな魔力をされてるんです……?」


「たっ、確かに……凄く、す、凄くっ気になりますっ!」


「…………まぁ、その事についても後でお話ししますよ。必要な事でしょうし」


「……分かりました」

「わ、分かりっました!」


「ですが、先ずは必要な用事を全て済ませてしまいましょう。武具屋さんまで、まだまだ時間は掛かりそうですか?」


「いえ、もう十分ほどで——」



 ——と、他にも好きな物だったり、趣味だったりと、色々なお話を二転三転もしながら歩みを再開します。


 そしてシエラさんの言葉通り、十分と少しほどで目的の場所へと辿り着きました。



「ここが……『ドブロク鍛冶』ですか」



 辿り着いたお店はシエラさんの言っていた通り、小さな個人店でして、お世辞にも大繁盛しているとは言えないような状態です。


 ……と言いますか、ここへ来るまでにかなり入り組んだ小道を歩いて来ましたし、お店の外観も長年やっていますとばかりに汚れていますからね。

 残念な事に大繁盛の要素が一つもありません。

 強いて一つ、何か良い要素があるとするならば……ギリギリ不潔では無い、という見た目でしょうか?

 私が言うのも何ですが、酷い感想ですね。


 私が看板を見上げて呟いた事を聞き逃す事なく、シエラさんは頷いて肯定しました。



「はい、ここです。……オンボロで見た目は悪い店ですが、店主の腕は確かなので」


「あぁ、いえ、別にシエラさんのお勧めを疑った訳ではありませんよ。少し驚いてしまっただけです。……行きましょうか」


「分かりました。先ずは私が話を付けますが、それで良いですか?」


「ええ、勿論です。お願いします、シエラさん」


「分かりました」



 シエラさんは何だかお酒臭そうな名前のお店の扉をギィっという音を立てながら開けると、ズカズカと遠慮なく足を踏み入れていきます。

 それに続くように、私とオトハさんも中へと入りましたが——



「……誰も居ませんね」


「そ、そうですね……」



 私が思わずそう溢した言葉に、オトハさんが反応しました。


 お店の中の様子ですが、外観とは裏腹にかなり綺麗に清掃されていて、パッと見た感じではホコリなどは見受けられません。

 さらに、壁一面にはおそらく店主さんが作られたのであろう、武器や防具が所狭しに展示されています。

 これもパッと見た感想になるのですが、切れ味の良さそうな剣や、作りの丁寧な防具が多いので、ここの店主さんは腕が良いのだろうと想像させてくれますね。


 そして何よりも真っ先に出てくるであろう感想ですが……やはり狭いです。

 お店の外観を見た時から小さなお店な事は分かっていましたが、入り口を開けたら直ぐ目の前にカウンターが、更に工房へと続いているのであろう奥への通路があるだけなのですから、こういった感想になるのも仕方がないと言うものでしょう。


 ……まぁ、そのカウンターも今は無人なのですがね。

 万引きなどが現れた場合、どう対処されるおつもりなのでしょうか……?



 そんな私やオトハさんの若干の戸惑いも気にしないまま、シエラさんは息を吸い込んで、大声を張り上げます。



「おやっさーん!」


「…………」


「おーい!奥に居るんでしょー!早く出て来てー!」


「………………だぁぁあ!じゃかぁしぃ!聞こえとるわボケェッ!」



 シエラさんの大声に負けず劣らずの怒声を濁声だみごえで上げながら、一人の男性が奥の通路から出て来ました。

 そして、シエラさんを睨め付けるように見ると、嬉しそうに片頬を上げて口を開きます。



「おぉぉぉん?随分、久しい客じゃねぇか?なぁ?シエラよぉ……?」


「いやいやいや、おやっさんだって知ってるでしょ?私、ずっと奴隷商に居たんだってば」



 その男性は成人男性にしてはかなり身長が低いものの、筋骨隆々と言う言葉がぴったりの肉体をしており、トレードマークと言えるようなモジャモジャの髭を生やしていました。

 そう、ドワーフ・・・・です。



「ガッはっはっはっはっは!んなもん知っとるわ!ここいらじゃ、かなり話が回ったけぇのぉ!それよか、意外に元気そうじゃねぇか」


「まぁ、奴隷商での待遇が悪いとかは無かったからね。ちょっと質素かな?って感じなだけで、割と普通な生活だったし」


「そらぁお前、デジラ商会んとこで特例措置を受けたんじゃろ?だったら、んな事にゃぁならんわ。お国に処罰されるじゃろうが」


「それはそうなんだろうけど……やっぱ、急に奴隷措置だって言われると不安もある訳で——」


「……」

「……」



 お久しぶりに再会されたのですから、当然とも言えますが、お二人のお話は中々に広がって収拾が付かず、私とオトハさんは完全に置いてけぼりの状態になってしまいました。


 と言いますか、お二人は随分と仲良く打ち解けているように見えるのですが……?

 シエラさんは最初、コミュニケーションに苦労されたと言っていましたが、本当なのでしょうかね?全くそうには見えませんよ?

 それとも、私のイメージする『コミュニケーションが難しい』と、シエラさんの言う『コミュニケーションが難しい』の度合いが違い過ぎるとでも言うのでしょうか?


 ……何でしょう、何故だか物凄く虚しい気持ちになってきました。



 そうして暫くの間、お二人の会話が弾んでいたかと思うと、ふと思い出したかのように、ドワーフの男性がこちらを見やりました。



「——んで、そっちの嬢ちゃんがお前の雇い主って訳か。……んぁ?どっちの嬢ちゃんが——いや、銀髪の別嬪べっぴんの方か」


「そうだよ、お名前はトレーネ様。さっきお会いしたばっかりだけど、とても優しいご主人様なんだよ。そして……遅れまして申し訳ありません。ご主人様、こちらがここの店主である鍛治師のドブロクです。口悪いですが、腕は確かです」


「じゃかぁしぃわ!一言余計じゃ!」


「えー?でも、嘘は吐けないし?」


「んなもん、聞きゃあ分かるんじゃけぇ、言わんでもええじゃろうが!」


「いや、それはそれでどうなのさ……」



 このお二人はコントか何かをされているのでしょうかね?これでは中々お話が進みませんよ……。

 ……仕方がありません。多少強引にでもお話を修正しますか。


 私はお二人の会話を切るような形で挨拶をします。



「いえ、気にしていないので大丈夫ですよ。……初めまして、ドブロクさん。ご紹介に預かりました、トレーネと申します。そして、こちらはオトハさんです」


「お、オトハですっ!よろしくお願いします、ドブログさんっ」


「お、おぅ、俺ぁドブロクだが…………」


「……?何でしょう?」



 ドブロクさんが居心地が悪そうに言葉を切ったので、私は思わず首を傾げて続きを促しました。

 ドブロクさんは眉間に思いっきり皺を寄せていますね。



「その、ドブロクってぇのは勘弁してくれぇや……。背中が痒ぅなってかなわん」


「ふむ……分かりました。では、シエラさんに倣って、私もおやっさんと呼ばせてもらいますね」


「わ、私もっ、良いですか!?」


「そうしてくれぃ。……それとお前さんら、その口調もどうにかならんのか?堅苦しい」


「それは……すみません。私の口調これは性分でして……以前に友人にも似たような事を言われたのですが、結局直せなかったのですよ」


「私は……頑張って直してみますっ!」


「…………まぁ、ええか」



 ドブロクさんは眉間を揉み解しながら、何かを諦めたようにそう呟くと、一度大きく息を吐いて本題を切り出しました。



「——で、ここに来たってぇ事は、装備を整えに来たんじゃろう?」


「ええ、その通りです。金額は問いませんので、防具から武器、その他に必要な道具があれば一式お願いします。ただ、即日で欲しいのでオーダーメイドではなく、出来合いの物を調整する形でお願いします」


「おう!わぁった!全員分でええんか?」


「いえ、私の物は必要ありません。お二人の物を見繕っていただけますか?」


「え?」

「えっ?」


「ぉん……?そりゃぁええが……トレーネ、お前さんも装備が無ぇんじゃねぇのか?それとも、お前さんは冒険者はやらんのか?」



 そんなドブロクさんの疑問に答えるべく、私はスキルの【アイテムボックス】から、使い易そうな片手直剣を鞘ごと一本出して手渡して見せます。



「いえ、私も冒険者稼業はする予定ですよ。単に私は装備が既に整っているというだけです。……どうぞ、抜いて確認して下さい」


「————っ!こりゃあ、とんでもねぇ業物じゃねぇか!そりゃあ、新調する必要も無ぇな……使った様子も無ぇしな。刀匠は?」


「いえ、貰い物なので私も誰方どなたが打たれた物かは分かりません」


「かぁ〜〜〜っ!そりゃあ残念じゃなぁ!こんだけの業物を打てる鍛治師がったら、是非とも知りたいんじゃけどな……」


「すみません」


「ぉん……?ええわ、ええわ!知らんのやったらしゃあない」


「そう仰っていただけると助かります」


「ほいじゃ、防具の方も持っとんか?」


「ええ、分かり難いかもしれませんが、今着ている服の全てが『耐衝撃』『耐刃』などの、防具としての効果が付与されています。なので、これが防具代わりになりますね。……おやっさんは【鑑定】スキルは持っていますか?持っていたら、確認してみても大丈夫ですよ」


「ぉん?ほいじゃ見させてもらうが————っ!?かぁ〜〜っ!ホンマじゃ!そいつも凄ぇなぁ!!」


「あ、見えましたか」



 実際のところ、ゼウス様から頂いたこの服は【付与】のレベルが高過ぎて、【鑑定】スキルが10レベルでないと全ては確認が出来なかったりします。

 まぁ、ドブロクさんの反応を見るに、ある程度の確認は出来たようですね。



「服に付与を施すこたぁ多いが、防具代わりになるレベルなんざあり得ねぇぞ!?普通なら、付与した魔法使いのローブも、中にハーフプレートぐれぇは着るけぇなぁ」


「そ、そうですか……」


「肌触りは普通の——いや、かなり上等な服じゃろうが、服には違い無いのぉ……」


「あの……」


「これが量産出来るんなら、一種の防具革命かなんかじゃろうに……」


「いえ、その…………」


「はぁ……凄ぇのぉ……」


「………………」



 ドブロクさんはそういって感嘆の声を上げると、仕切りに私の外套や服を見たり、触ったり、観察し始めました。

 ええ、そうです。

 今、私が着ている・・・・服を・・、です。


 ……何でしょうね、この感じ。

 ドブロクさんはこの服に興味があるだけで、悪意や下心がある訳でも、ましてや私に興味がある訳でも無い事は重々承知していますが、それでも良い気はしませんね。

 何と言いますか、セクハラを受けているような気分です。


 …………まぁ、前世にそんな経験は皆無なので、想像でしかないのですがね。



 そんな風にどう対応して良いのか分からずにいる私を見兼ねたのか、シエラさんが助け舟を出してくれます。



「おやっさん!ストップ、ストップ!ご主人様が困ってるから!やってる事が完全にセクハラだから!」


「ぁん……?……おぉ、悪ぃ悪ぃ。つい熱中してもぉたわ。悪かったな、トレーネ。ほれ、コイツも返すけぇ」


「いえ……これから気を付けていただければ、大丈夫ですよ」


「おう、悪りぃの」


「…………ご主人様が心の広い方だったから良かったものの、普通ならビンタの一つや二つ貰って当然の事だからね?おやっさん、分かってる?」


「おう、大丈夫じゃけぇ!」



 ドブロクさんはシエラさんの念押しに気持ち良く頷かれていますが……本当に理解されているかは分かりませんね。

 私が言うのも何ですが、あの表情は同じ事を繰り返す表情だと思います。


 シエラさんも私と同じ事を思っているのか、胡乱げにドブロクさんへ視線を向けています。



「本当かなぁ……て言うか、ラムさんは?居たら止めてくれたのに……」


「かぁちゃんなら依頼で出とるぞ。二、三ヶ月はぇってんな」


「あ、そうなんだ……」



 ちなみに、この『ラムさん』と呼ばれた方はドブロクさんの奥さんだそうです。

 先ほど依頼を受けているとドブロクさんが仰っていたように、冒険者稼業をされているようでして、上級冒険者と呼ばれる中でも上澄みにあたるAランク・・・・との事です。

 二、三ヶ月も掛かる長期依頼も納得ですね。


 また、ドブロクさんの家庭内政権が亭主関白なのか、カカァ天下なのか、という大問題ですが……これはドブロクさんの名誉の為にも黙っておきましょう。

 強いて何か話すのであれば、ドワーフの家庭は一般的には・・・・・一般的には・・・・・、奥さんが最強生物であるようです。

 ええ、そうです。あくまでも、一般的な家庭のお話ですよ……?



 ともあれ、シエラさんのお陰で何とかお話を修正する事が出来ました。

 私が返して貰った直剣を【アイテムボックス】に仕舞うと、お二人の装備についてようやくお話しが始まります。



「……オぉぉぉっほん。ほいじゃぁ、今回はシエラとオトハの装備を揃えるっちゅう事じゃが、シエラは前と似たようなんでも良えとして……問題はオトハじゃな」


「わ、私ですかっ?」


「お前さん、どう見ても狐人族じゃろうが?そしたら、近接戦闘よか魔法のが使い勝手が良えじゃろ」


「は、はい。確かに魔法の方が自信があります……」


「じゃけぇ、普通なら長杖か短杖あたりを勧めるが……お前さんは見たところ近接戦闘も出来そうじゃけぇのぉ。やった事が殆ど無いにしても、杖じゃ無い方がええじゃろ」


「……?すみません、見ただけでそこまで分かるものなのですか?」



 ドブロクさんが断定する様にそう言うので、疑問に思って私がそう尋ねますと、彼は苦笑いを浮かべながらも答えてくれました。



「五十年も金槌打ちよるけぇの、そんくらい分からぁ」


「失礼しました。腕を疑っているなど、そういう事ではないのですが、一目見て全てが分かってしまう事が不思議でして……」


「そんくらいわぁっとるけぇ、気にせんでええわ」



 ドブロクさんはひらひらと私に手を振ると、オトハさんに向き直りました。

 そして、頭から足の爪先までを検分するように眺めて、モジャモジャの顎髭を撫でながら再度口を開きます。



「むぅ……俺の見立てなら、お前さんは大振りのダガー辺りが良えじゃろ。ただ、普通のダガーじゃのぉて、マジックダガーの方じゃ」


「マ、マジックダガーですかっ……?」


「ぉん……?聞いた事無かったか?普通のダガーは単に刃金はがねを打ちこさえるが、マジックダガーは鋼にミスリル銀と属性鉱を打ち混ぜて、刃金を打つんじゃ。じゃけぇ、普通のダガーとちごぉて魔法の補助も出来るっちゅう事じゃな」


「へ、へぇ……そういう物があるんですねっ……凄いです」


「ま、その分、値段はぶち上がるがの」


「——っえぇ!?」


「そんで、どぉするんじゃ?金出すんはトレーネなんじゃろ?」



 ドブロクさんはそう言って、私に視線を向けて来ました。


 ……オトハさんは金額が跳ね上がると聞いて、驚いて固まってしまっていますが、まぁ、私の答えは初めから決まっています。

 そもそも、最初に金額は問わないと言っていますしね。


 私はドブロクさんに頷き返して、口を開きます。



「ええ。繰り返しますが、金額は問わないのでお二人に合う、最も良い装備をお願いします。お二人のご要望が優先にはなりますが、おやっさんに一任します」


「かぁぁぁ〜〜〜っ!気前のええ奴じゃなぁ!豪気なんは好きじゃあ!……おっしゃ!俺に全部任せぇ!完璧に拵えたらぁ!」


「……オトハさん、近接での戦闘も熟してもらうようになりそうですが、大丈夫でしょうか?」


「だ、大丈夫ですっ!」


「分かりました。では、おやっさん、お願いしますね」


「おぉう!ほいじゃぁ、オトハとシエラは工房にぃ!大まかに採寸するけぇ!——いや、トレーネ、お前さん来ぃ!ここで待っとっても暇じゃろうが」


「あれ?良いのですか……?普通は工房に立ち入られたくは無いものなのでは……?」


「俺がええ!言うたらええんじゃ!ほら——あ、ちょい待っとれぇ!」



 ドブロクさんは言うが早いか奥へと走って行き、立て看板のような木板を引っ提げて戻ってきました。

 その木板には『本日の営業終了!』と、チョークのような何かで殴り書きされており、工房の手近な所にあった端材に急いで書き記したのであろう事を容易に想像させます。


 そして、ドブロクさんはそれをそのまま店の前に置いたかと思うと、そのまま扉を閉じて鍵までかけてしまいました。

 どうやら、今日は私たちが最後のお客さんのようです。



「おっしゃ!これでええじゃろ!おぃ!行くぞぉい!」



 私はズカズカと、どこか軽そうに見える足取りで奥の工房へ歩くドブロクさんの勢いに押され、半ば放心しながら後を着いていきます。

 すると、いつの間にか隣にやってきたシエラさんが耳元で一言、囁きました。



「……ご主人様、初対面なのに、おやっさんに随分気に入られましたね。かなり気難しい人の筈なんですけど……流石です」


「流石です……っ!」


「そ、そうですか……」



 随分と小さな声だったにも関わらず、流石は獣人と言うべきか、オトハさんにも聞こえていたらしく、シエラさんに同調するようにキラキラとした視線を向けて頷いていました。


 ……いえいえいえ、少し待ってください。

 正直なお話、今までの会話のどこに気に入って貰える要素がありましたかね?私にはさっぱり分からないのですが……?

 偏屈な方と言っても、程がありませんか?


 と言いますか、お二人ともそんな憧憬の目を向けられても困りますよ。私にどう反応しろというのですか……。

 この私のコミュニケーション能力を以ってすれば当然……とばかりに、ドヤ顔をすれば良いのでしょうかね?

 私の面はそこまであからさまな嘘を吐けるほど厚くありませんよ…………。


 ……まぁ、当初に抱いていた『装備を見繕ってもらえないのでは?』という心配は、必要もなく吹き飛んでくれましたけどね。

 有難い……?事です。



「おぉぉい!はよぉ、来んかぁい!」


「今行くってー!……行きましょう、待たせると機嫌を損ねちゃいますので」


「え、えぇ」



 私はどこか釈然としないまま、気に入られた事は偶然だと言えぬまま、シエラさんに連れられていきました。


 …………えぇ?


トレーネは何故気に入られたのか不思議に思っていますが、腕に自信のある職人に対して


その道の最高峰の物を見せる。

依頼に於いて金額の上限は無い。

見立てから調整まで全て任せる。


と『貴方ならこれくらいは出来ますよね?何たって腕の良い職人ですもんね?』と暗に期待を寄せている様に思わせたのですから、気合も入って当然でしょう。

……まぁ、本人に自覚は無いようですが。




それと、作品とは関係無いですが、これを書いておかないと求めていないと思われるそうなので……


もう少し下の方にあるブクマ、評価を頂けると、励みになりとても嬉しいです

是非、お願いします



変更点1※異世界の国の名前

今更ですが適当すぎんか?と思ったので……

ユーラシア王国→メレフナホン王国


変更点2※異世界の街の名前

同じく適当すぎんか?案件です……

エイジア→アヴァンテル

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