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530部隊よ這い上がれ! 僕らは戦う清掃員  作者: またきち+
550階 闇の世界
3/22

モンスター



「人間でないなら、僕は何ですか。部下でしょ!部下は人間でしょ。そうだよな、530部隊諸君!――コールの準備は良いか!」


 誠が拳を挙げると大きな歓声に包まれた。暗く狭いので、天井や壁がビリビリを振動している。サイは驚いて目を覚ました。


「何だ? いつのまに、こんなに人がいたのか!?」


 誠は胸に手をあて、大声で叫ぶ。

「我々は誇り高く!」

 部下たちが「清く!」と唱和する。


 誠は貫くように指を掲げる。

「不正を許さず!」

 部下たちが「正しく!」と唱和する。


 誠が華麗に舞った。

「美学を貫く!」

 部下たちが「美しく!」と唱和する。


 さらに誠は続ける。

「用意はいいか! シュプレヒコール! せーの!!」



『――黙ってろ、クズども』


 隊長の言葉は重く、支配力に満ちていた。一瞬で静寂が訪れた。今まで誰もいなかったように存在すら感じられない。


 誠の姿も消え、隊長とサイの二人だけだ。

「あれ? みんなは? 今そこにたくさん人がいたよね!?」

 サイの声は響き、それは静寂の闇に溶けていった。


「ここに人はいられない。俺以外は無理だ」


 では今までの人たちはどこへ消えてしまったのか。現れたのも唐突で、去るのも早い。賑やかで楽しい救出劇は幕を閉じ、再び暗闇と孤独が襲ってくる。


 訳が分からない=恐ろしい。

 いくら魔法が使えるとしてもだ!


 ありえない。

 ありえないぞ。人が消えるなんて


 魔法なんて電気と同じじゃないか。単なる動力源であって、人間が消えるなんてありえない。学校ではそう習った!(あんまり行ってないけど)


「そうか! 隊長さんはマジシャンなんですね!」

 隊長は無言で腰の鞭を手に取った。ヒュンと空気を裂く音がして、サイに絡みつく。


「間違っても俺に触れるなよ?」


 殺気を受けただけで、もう殺された気がする。大人しくそのまま引っ張られ移動する。罪人のような扱いで歩みはどんどん加速していく。


「ちょっと、痛いっ。引っ張りすぎ!」

 サイが鞭を外そうとすると、隊長が怒った。


「死にたくなければ外すな。また迷いたいのか!」


 サイは地鳴りのような音に寒気がした。


 ゴゴゴ! グギャア!


 洞穴を振動させるような大きな何かが、こちらに向かってくる。


「何か……いますね?」


 隊長の顔は防塵マスクとゴーグル。さらに帽子で表情は分からないが、多少緊張している。

「上だ。狭い道だが、仕方がない」


 隊長は防塵マスクを捨て、鞭を口に咥えると、壁を登りだした。サイは隊長に引っ張られるまま、洞穴を縦によじ登った。


「隊長さん、痛いです。もう少しペースを」


 期待もしてないが、返事もない。本当に急いでいるらしく、少々の汚れすら黙認している。上から岩やゴミがサイの頭めがけて落ちてくるし、目にゴミが入って視界も悪い。腹も減っていて体力もない。


「はぁ……ブホッ! はぁ…待って。待ってください」


 手足が追いつかなくなってきた。


「あっ!」

 足を踏み外した。一気に落ちていく。


「わぁあああ!」

 鞭がピンと張り、隊長の口から外れた。


 万事休す。


 素早くもう一本の鞭を取り出し、落ちる鞭を絡ませる。ピンと張った二本の鞭のおかげで命拾いした。縦穴にぶら下がったような状態で、四苦八苦していると、徐々に高度が下がる。


ズルっ! ズルズル……


結び目が緩く、長くもちそうにない。


「体制を立て直せ!」


 サイは足元がぞわぞわと気持ち悪くなった。先ほどまでいた横穴から、何かがこちらを見あげている。


グギャア!


狂気の瞳だ。唸なり声と、涎の滴る音がする。


「ひ!」


 鋭い爪が足を掠った。細い洞窟に手を突っ込んで引きずりおろそうというのか。


 隊長は身動きが取れない。悪くすると二人とも落ちてしまう。


「――這い上がれ! 自分の力で登ってこい!」


 サイは頷くと、必死に壁をよじ登って、上を目指した。



    ※    ※    ※ 



 洞穴から出て、外の空気を吸えた時、生きていることを実感した。依然周囲はゴミが積み重なっており、匂いがキツすぎて、気分が悪くなって全部吐いたけど。


それでも綺麗な夜空が見える。


「は~。助かった! それに何か分からないけど、怖かったなぁ」

「穴モグラだ。下の階ではボスだ」


 隊長は汚れた防護服を脱いだ。しかし、その下も防護服だった。まさかの重ね着だ。ゴーグルと防塵マスクで変わらず表情が見えないが、話しかけられたので、おそらくご機嫌だ。


 サイは隊長が捨てた防護服を戴くことにして、全裸ではなくなったが、シースルーなのが余計に変態っぽくみえる。


「ここは上層の駐留軍や富裕市民どものゴミが辿り着く場所だ。上をみてみろ」


 しばらくすると、落下物の落ちる音がする。それも何回もだ。


「星の瞬きではないぞ。ゴミだ。天国にいきたくなければ落下物に気をつけろ」

「え?」


「ここは地下550階。軍や富裕層のゴミの集まりだ。ゴミを捨てる人間が高価だと、ゴミも高価でな、高レベル魔法石ゴミが多い。


 魔法を使用した後の石にも多少の魔力が残っているし、たまに新品も落ちてくる。そんなものが溜まりにたまって、地下10階分の厚みがある。貴様がいたのはそのゴミの土壌に棲む穴モグラ系モンスターの作った洞穴だ」


 サイの顔が青くなっていく。

「オレは350階も下に落とされたのか」


「捨てられたのだ」

 隊長の言葉にサイは固まった。


「――捨てられた?」

「そうだ。2年前にな」


「?」


「貴様! さては低能だな!」

 サイは猛烈に腹が立つが、学校を中退しているだけに反論できない。

「冗談だろ。オレはちょっと前。多分三日か、それぐらい前に……捨てられただよ……」


 認めるのは悔しい。けれど隊長の機嫌を損ねたら、愛想を尽かされそうな気がして逆らえない。今はこの隊長についていくしか、生きる道はないのだ。


「タイムスリップか?」

「記憶が無いから分かりません」


「分からないで済ませるから愚かなのだ! 愚図と阿呆は解決をしようとせずに、すぐに分かりませんとごまかす! 私はそういう適当なことが大嫌いだ」


「すみません」

「すみませんも嫌いだ! 謝れば何とかなる? ならんだろう。そういう尻ぬぐいをするのは、結局真面目なヤツと相場が決まっている」


「じゃあ、オレはどうすればいいんですか?」


「そんなことは他人に聞かず、自分で考えて答えを出せ。

 とにかく、洞穴の中は魔法石の放射能レベルが高く、三日であろうが二年であろうが、普通は生きられん。才能豊かなエリートを除けばたいてい死ぬ」


「あの誠っていう部下は?」

 隊長はポケットから使用済の魔法石を見せた。光を失って、石ころになっている。


「一人で洞窟にいては、孤独でつまらないだろう?」


「あら、もしかして隊長さんじゃない。じゃ530部隊は?」


「……。」

 隊長は黙って歩き出した。


「え? なんでそこは無視なの!? 一番大事なとこじゃない? ――っていうか、隊長じゃなかったら、何て呼べばいいの? 命の恩人の名前ぐらい聞かせてよ!」


「西尾だ」




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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは、初めまして。活動報告から参りました。 一話の最後、持っているもので捨てられるもの──の下りがカッコよくて、550階拝読させていただきました。 テンション高い感じがいいですね。…
2019/11/17 23:59 退会済み
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