ゴミ部隊
少年は不思議そうに首を傾げた。
「サイ、何で泣いているの?
僕は名前聞いただけ。遺失物届が出てないか、確認したかったの。別に助けるわけじゃない。えっと特徴を入力して……身長は170、やせ型。髪と瞳が緑色……レアだねぇ」
――いしつぶつとどけ?? ここは御忘れ物コーナーかよ!
「隊長はリサイクルしないと言ってるし、届も出てないね。ま、要らなくて捨てたんだから、出すはずないけど! ザーンネン!」
「じ……人命救助は? お前、それ軍服だろ? 軍は民間人を守ってくれるんだろ!」
暗闇の中から隊長の声がする。
「誠、もう行くぞ」
サイは誠と呼ばれた少年に縋りついた。誠は少年らしからぬ怪力でそのまま歩き出す。
「諦めなよ。ここにあるのはゴミとモンスターだけ。君はどうみてもゴミだ。モンスターだったらまだ救いようがあったのに、つくづく運がないね」
誠は隊長に認証印をもらうために画面を見せた。
「緑色か。三年前まで捜索願をさかのぼれ」
誠は機械を突き返されて不満顔だ。
「えー! 見つけなきゃよかった。マジうぜぇ」
隊長がサイに近づき、周囲が明るくなる。逆光で容姿は分からないが、視線は感じる。汚れた身体と局部が照らされて、限りなく恥ずかしい。
隊長は冷静で温情は無い。蔑んでいるのだろう。
「汚物!」
吐いて捨てたような言葉にサイは唇を噛みしめる。
確かにそっちは憎らしいほどに綺麗だ。手袋や制服には汚れひとつない。サイは貴族であった頃の自分を見ているような気がした。
誠が声を荒げた。
「隊長、記憶力どれだけ凄いんですか? ヒットしました。フォンデール家三男、サイ。画像を見る限り本人ですね。ただし届け出は二年前です」
「まぁそうだろう」
隊長が近づいて、サイの髪に触れた。
「緑色。サイ・フォンデール。間違いないか?」
「はい」
隊長は長い間考え、深く息を漏らし、ひとり呟く。
「三年か。長かったな……」
「隊長なら三年前の今晩のメニューとかもさらっと言いそうですね」
「オムライス」
誠はため息をついた。
「冗談ではないぞ。日記に書いてある。しかも卵をメレンゲにしたふわっふわのオムライス。完璧だった。もう一度食べてみたかったが、店が食中毒で潰れてしまったのだよ。もう二度とあの味には出会えない」
「オムライスより、処分方法はどうします?」
隊長は去った。
「ゴミならば捨て置け」
――捨て台詞吐いて、本当に捨てた!!
サイは血の気が引いた。
どうしても、どうしても助かりたい!!
このチャンスを逃したら、本当に生き残れない!
「待ってください!!」
サイは隊長の足に縋りついた。
「そのオムライス、オレなら作れる!! 料理得意だし。アルジャーノって店だろ!」
隊長は小さな悲鳴を上げて、サイを蹴り飛ばす!
「――よ……汚れた。おのれ!!――このモンスターめ!!」
誠が駆け寄り、急いで消臭スプレーをかける。
「消臭! 除菌! 滅菌!」
隊長は腰がくだけるほどによろめいたが、決して座り込んだりしなかった。必死に堪えて、自立を保とうとしている。
「隊長、しっかりしてください! 堪えて! スプレーで消毒済です。きっとまだいけます」
誠の励ましに隊長は歯を食いしばって耐える。そして呪文のように言葉を繰り返した。
「にちにちこれこうにち・にちにちこれせいそう……日日是好日・日日是清掃……日日……」
誠はさらに励ました。
「隊長、毎日毎日、素晴らしいです! グッジョブ! 僕が清掃します。こいつは今、やっつけますからしっかりしてください!」
隊長は気合を入れて、カッと瞳を見開いた。
「その必要は無い!」
サイは終わりを悟った。隊長を怒らせてしまったのだから、未来は断たれた。
――畜生、オレ、またやらかした。短い人生だったな。
サイは目を瞑って、その時を待つ。
「リサイクルだ」
誠は苦笑した。
「そんなにオムライス食べたいんですか?」
「そのようなことはあってもなくてもどうでもいい。決は下した。緑色を放置できんだろう。うちで飼うぞ」
誠はサイを見て、なるほどと頷いた。
「隊長に二言は無い。モンスターって言わせるなんて凄いね」
その時のサイには意味が分からなかった。助かったことに気が緩み、その場で気を失った。
「隊長、どうやって持ち帰りますか?」
「それはお前が担いで持って帰れ」
隊長の声は優しさの欠片もなかった。
「えー! 子供が大人を担ぐんですか?」
「できるだろ、誠は人間ではないんだからな」