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530部隊よ這い上がれ! 僕らは戦う清掃員  作者: またきち+
550階 闇の世界
2/22

ゴミ部隊



 少年は不思議そうに首を傾げた。

「サイ、何で泣いているの? 

 僕は名前聞いただけ。遺失物届が出てないか、確認したかったの。別に助けるわけじゃない。えっと特徴を入力して……身長は170、やせ型。髪と瞳が緑色……レアだねぇ」


 ――いしつぶつとどけ?? ここは御忘れ物コーナーかよ!


「隊長はリサイクルしないと言ってるし、届も出てないね。ま、要らなくて捨てたんだから、出すはずないけど! ザーンネン!」


「じ……人命救助は? お前、それ軍服だろ? 軍は民間人を守ってくれるんだろ!」


 暗闇の中から隊長の声がする。

「誠、もう行くぞ」


 サイは誠と呼ばれた少年に縋りついた。誠は少年らしからぬ怪力でそのまま歩き出す。


「諦めなよ。ここにあるのはゴミとモンスターだけ。君はどうみてもゴミだ。モンスターだったらまだ救いようがあったのに、つくづく運がないね」


 誠は隊長に認証印をもらうために画面を見せた。

「緑色か。三年前まで捜索願をさかのぼれ」


 誠は機械を突き返されて不満顔だ。

「えー! 見つけなきゃよかった。マジうぜぇ」


 隊長がサイに近づき、周囲が明るくなる。逆光で容姿は分からないが、視線は感じる。汚れた身体と局部が照らされて、限りなく恥ずかしい。


 隊長は冷静で温情は無い。蔑んでいるのだろう。


「汚物!」

 吐いて捨てたような言葉にサイは唇を噛みしめる。


 確かにそっちは憎らしいほどに綺麗だ。手袋や制服には汚れひとつない。サイは貴族であった頃の自分を見ているような気がした。


 誠が声を荒げた。

「隊長、記憶力どれだけ凄いんですか? ヒットしました。フォンデール家三男、サイ。画像を見る限り本人ですね。ただし届け出は二年前です」

「まぁそうだろう」


 隊長が近づいて、サイの髪に触れた。

「緑色。サイ・フォンデール。間違いないか?」

「はい」


 隊長は長い間考え、深く息を漏らし、ひとり呟く。

「三年か。長かったな……」



「隊長なら三年前の今晩のメニューとかもさらっと言いそうですね」

「オムライス」

 誠はため息をついた。


「冗談ではないぞ。日記に書いてある。しかも卵をメレンゲにしたふわっふわのオムライス。完璧だった。もう一度食べてみたかったが、店が食中毒で潰れてしまったのだよ。もう二度とあの味には出会えない」


「オムライスより、処分方法はどうします?」


 隊長は去った。

「ゴミならば捨て置け」


――捨て台詞吐いて、本当に捨てた!!


 サイは血の気が引いた。


どうしても、どうしても助かりたい!!

このチャンスを逃したら、本当に生き残れない!


「待ってください!!」

 サイは隊長の足に縋りついた。

「そのオムライス、オレなら作れる!! 料理得意だし。アルジャーノって店だろ!」


 隊長は小さな悲鳴を上げて、サイを蹴り飛ばす!

「――よ……汚れた。おのれ!!――このモンスターめ!!」


 誠が駆け寄り、急いで消臭スプレーをかける。

「消臭! 除菌! 滅菌!」


 隊長は腰がくだけるほどによろめいたが、決して座り込んだりしなかった。必死に堪えて、自立を保とうとしている。


「隊長、しっかりしてください! 堪えて! スプレーで消毒済です。きっとまだいけます」


 誠の励ましに隊長は歯を食いしばって耐える。そして呪文のように言葉を繰り返した。


「にちにちこれこうにち・にちにちこれせいそう……日日是好日・日日是清掃……日日……」


 誠はさらに励ました。

「隊長、毎日毎日、素晴らしいです! グッジョブ! 僕が清掃します。こいつは今、やっつけますからしっかりしてください!」


 隊長は気合を入れて、カッと瞳を見開いた。

「その必要は無い!」


 サイは終わりを悟った。隊長を怒らせてしまったのだから、未来は断たれた。


 ――畜生、オレ、またやらかした。短い人生だったな。


 サイは目を瞑って、その時を待つ。


「リサイクルだ」


 誠は苦笑した。

「そんなにオムライス食べたいんですか?」


「そのようなことはあってもなくてもどうでもいい。決は下した。緑色を放置できんだろう。うちで飼うぞ」


 誠はサイを見て、なるほどと頷いた。

「隊長に二言は無い。モンスターって言わせるなんて凄いね」


 その時のサイには意味が分からなかった。助かったことに気が緩み、その場で気を失った。 


「隊長、どうやって持ち帰りますか?」

「それはお前が担いで持って帰れ」

 隊長の声は優しさの欠片もなかった。


「えー! 子供が大人を担ぐんですか?」

「できるだろ、誠は人間ではないんだからな」




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