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530部隊よ這い上がれ! 僕らは戦う清掃員  作者: またきち+
500階 紛争地帯
18/22

(18)酒くさい騎士(頼りにならんけど)


「西尾さんは潔癖症で、厳しい人です。でもやることは間違っていないから」


「ペットとして従順だな。西尾を信用する効果が首輪についているのか?」

「違います! オレは自分の目で見て、感じたことを言っています。信じてください。西尾さんもオレも、同じメシを食う仲間ですよ!」


「ペットは隊員ではないし、西尾が隊員というのも怪しい。厳密に隊員登録しているのはオレと徳井、それに新入りの李くらいだ。花梨が二人を隊員登録しない理由はたったひとつ。


 お前らが必要以上にメンドクサイ厄介者だからだ!」


 サイは過去に引き戻された。二人の兄は有能ゆえに扱いも特別だった。そしてライガも隊員であるからと差別する。それは少し辛いけれど、前と同じように拗ねたり、反抗的になったりしない。


――オレは生まれ変わった。昔と同じではダメだ。


「オレはそう言われても仕方ないかもしれません。でも西尾さんは違う。あの人は今、病人で、怪我人で……それでも頑張っている。隊員になれない事情はあるけれど目的は同じです。みんな魔神を倒したいって思っている。目的が同じなら、同志じゃないですか」


 ライガは笑った。

「西尾が怪我? だからペットが一人でここにきたのか」

「オレの名前はサイです。あと首輪していますけど人間です」


「その瞳、どう見てもモンスターの血を引いている。まさか純血種か?」

「言っている意味が分かりません」


「オレは騎士の家系で、騎士団が守るべきはアルバーンの家系。だから純血種について知っている。“血の濃い者ほどよく守れ”という暗黙のルールがある。貴族を護れという意味で使われているが、純血種はその最上位になる。まぁモンスターなら、母親はいないだろう!」

 馬鹿にしたような笑いにサイは首を傾げる。


「人間ですから、母はいるに決まっているじゃないですか。もちろん母も瞳が緑色です……でも純血種の話は初耳です。むしろ後妻だったので、親族には嫌われていました」


「うっそだろ!」

「アルバーンも声だけなら聞きました。さすがに会ったことはないですけど」

「マジか!」

「アルバーン、まだ生きているらしいですよ?」

「……。」


 ライガはショックでしばらく言葉が出ない。 

「アルバーンは長生きだからな。妻も三人いた。最初の妻は民間の人間で、のちに貴族となった。ラファティ家なんか特に有名だな。二番目は軍人の女で戦友でもあった。


 三番目の妻を名乗る女はアルバーンが死んだとされてから存在が知れた。そいつが雌のモンスターだったという噂だ。その子供は証拠に緑色の瞳を持ち、アルバーンのように魔法石を生み出すことができる。アルバーンの血筋でも一番に魔法力が濃いから、純血種という。


 当然、その存在は隠されてきた。魔法石を生み出せる都合の良い存在を、軍が手放すわけがない」


「過去の話はわかりませんが、ライガさんが騎士の家系ということは貴族の下ですよね?」

「あぁ、そうだ」


「じゃあ守ってください。いやぁ、助かるなぁ。ライガさん強そうだし、西尾さんがいなくて不安でしたぁ。はぁ良かった!」


 ライガはしばらく何も言わなかった。

「いやいや、ちょっと待て。オレはお前を西尾のペットとして、レアなモンスターだということを……証明」

「サイ・フォンデールです」


「フォンデール? 高級氏族……」

「社交界あまり出なかったので……でも一応三男だし、純血種ならばライガさんの保護対象ですよね!」


 ライガは頭を抱えた。全てが裏目に出ている気がする。

「言わなきゃ良かった」

 サイは上機嫌で、ライガの手を取った。

「よろしくお願いします!」


 ライガは不承不承頷いた。

「とりあえず、今だけ。主人不在の首輪付きなんて、野良のモンスターと大差ない。ばれたらオレ一人では守りきれないから内密にしろ。くれぐれも魔法石は……出すなよ?」


「わかりました」

「もうひとつ大事な事を言う。530部隊は、ただでさえゴミ部隊として嫌われている。オレは、ずっと軍属であることを隠していた。酒場の主の顔をしていれば、誰も文句は言えないからだ。


 あれだけでもリスキーだった。もし所属が530だと知られたら、この店ごとぶっ壊されていた。分からないだろうが、隊の数字が少ないほど、この世界では権力がある。目安にしておけ」


「了解!」

 ライガはサングラスを渡して、厳しい顔をした。


 伝令だけが目的ならば、誠で十分なのに、サイを送りこんできた理由が気になる。あえていうなら嫌な予感しかしない。


――あの花梨だぞ?


「510階まで送ってやる。メンドクサイ。さっさと帰ってくれ」

 



 店を出ると、可愛らしい女の子が数人出待ちしていた。

「もうライガったら、冷たいんだからぁ!」

「そうよ、二人っきりで話すなんてズルイわ」

「連れのペット、可愛いわねぇ」


 ライガは女たちを遠ざけた。警戒しているのに、サイ本人は自覚があまりないようだ。

「人を信じすぎるなよ」


 ライガの囁きにサイは同意できない。

「大丈夫ですよ。だてに二十年生きていないんで」

「さっきの女ども、ろく番隊の剣士だぞ。お前の魔法石臭に気付いている」


 サイは青ざめた。

「女って怖いなぁ。李明明も豹変して。いきなり西尾さん殺そうとするとか、あり得ないです」


「李は撃ったから隊員になった。撃たなければ、負け犬のままだ。花梨は撃つと分かっていたはずだ。あの娘の軍と魔神に対する恨みは大きい」


「否定はしませんよ。李は西尾さんだけでなく、全員を殺すつもりでした。まぁ、それに関しては西尾さんも同類ですけど」


「西尾は裏切り者だ」

「ライガさんもそう言うのですね」


「アスタロットの部隊は500以上あるが、採掘隊とその補助員ばかりで、攻略隊は圧倒的に数が少ない。入れ替わりは激しいし、魔法石の使用量が他の部隊と比べて半端なく多い。魔法を多用して剣や飛び道具に実装しているせいだ。


 なのに西尾が裏切ったから質の悪い魔法石が増えた。


 地下深くにある良質な魔法石は今の攻略隊の実力では手に入りづらい。魔法石の価格はどんどん高くなっている。もしかしたら数年で魔法石が尽きるかもしれない。


 そうなったらここはただの砂漠に戻る。人も動物も、みんな死ぬしかない」


「アスタロットの外は砂漠なのですか?」

「知らなかったのか? 街の外は熱波が酷い。魔法で守られているから分からないだろうが、隣の都市までは千キロ以上ある。魔法が使えるから自給自足できているが、魔法石を失ったら、誰も生きていけないだろう」


「へぇ、西尾さんって本当に凄いのですね」

「味方であった時は、どれほど心強かったものか――それが小娘の弾丸数発で怪我などして情けない。もはや戦力外。やはり530部隊の隊員であっても、軍属させるわけにはいかんな」


「その件ですけれど、西尾さんは上官に呼ばれたくないからこっちにいるみたいで。軍人だから逆らえないそうです。それって、どこかの隊員だから、530部隊には入れないってことでしょう。それと西尾さんが530部隊といっしょに行動していることは秘密です」


「……。ならば隊の所属は解かれていないのかもしれん。どういうことだ?」

「壱番隊はダンジョン攻略の究極のメンバー枠ですよね。まさしく神セブン。戦闘員六千人の頂点にたつ隊。チョーカッコイイなぁ」


「三年前までは、オレもそう思っていたよ。お前は何も知らないな、幸せなヤツだ」


「同じようなことを、父親に言われましたよ。たしか最下層、初到達のニュースで騒いでいた時だったな。魔神は本当にいると実感しました」


「オレはその時、地獄を見たけどな。その時は伍番隊で隊長していたから後方支援だ。西尾の姿はチラッと見たが……壱番隊ではなかったな。そうだ、もっと凄いのがいたからだ。名前も顔も知らない奴らで、ルーキーと呼ばれていた。きっとそいつらもあの騒ぎで……」


 気が付くとサイが尊敬の眼差しで見ている。

「ライガさんは伍番隊の隊長だったのですか!」


「それがどうかしたのか?」 

「すごく強いってことでしょう!?」


「昔の話だ。それにここにいるヤツは皆強いからな。オレなんか、今じゃ酒が切れたら手が震えちまって、堕ちた勇者と呼ばれても反論できねぇ。

 大事なモノ全部失っちまったから、終わった勇者でいいのに、堕落した勇者じゃ、またキッチリしなくちゃならねぇよな?」


 ライガはキャンプを出たところで剣を抜いた。

 脇や後方から、武装した戦士が出てくる。


「ざっと見て十五人ってとこか。やだねぇ、リタイア寸前の酔っ払い相手にハンデありすぎだろ。お前、戦えねぇよな?」


 サイは青ざめた。前からも五人が行く手を塞いで二十人いる。

「攻略隊相手に? 無理ですよ!」

「まぁ、何事も経験だ。できるとこまでやってみろ」


「経験する前に死にますって!」

 不幸か幸いか、捕獲しろという言葉が聞こえてくる。命は助かりラッキーだが、永遠に逃げられない。

「やっぱりどちらも不幸だ!」


――西尾さん! 助けて!!


 剣を抜いて、一斉に襲ってくる。

 ライガの最初の相手は酒場の入り口で待ち伏せしていた女たちだ。

「髭と髪がボウボウで分からなかったわ。お久しぶりすぎて、記憶の欠片もないけど、元、伍番隊隊長クルーガーよね?」


「人違いでしょう」

「隠してもダメよ。あんたみたいなイケ男、そうそういないから」


「うーん。褒められても何もでないけど、オレが勝ったら酒場の店主のまんまで、一発……」

 矢が頬を掠る。

「問答無用!」


 熟練の女剣士二人を同時に相手するのは難しい。だからライガは準備してきた。剣に魔法石は二つ仕込んである。

「しっかり掴まれよ?」


 ライガは剣を大地に突き刺した。

「ファイヤーウォール!」


 四方を炎の壁に囲まれ、視界は一面に炎となる。二十人は笑った。短時間の時間稼ぎのうちに、次にどんな作戦でくるか。


「前に集まれ!」

 逃げるならおそらく前方に向かって突っ込んでくるであろう。


 炎は徐々に低下し、地面と突き刺さった剣が見えてきた。しかし人影がひとつもない。

「!? どこに消えた?」


 地下か、左右か? 

 一人が上を指さした。炎で作られた上昇気流に乗って、二人の男が空高く浮いている。

「凧?」


 ライガは苦笑いした。

「ありゃりゃ、気付かれちまった。オレたちが落ちるまでに、さてはて何人やれるか……」


 片手で剣を抜き、矢の雨を召喚した。

「ぎゃぁああ!」


 悲鳴が聞こえているうちは有利だ。混乱しているうちに遠くに逃げたいところだ。


 ライガは急に顔を青くした。

「やべぇ」

 サイは必死につかまりながらも心配した。

「どうしたんですか!?」


「ヴォーエエエエ!!」

 酔っ払いは急に動かしてはいけない。汚物拡散。一番攻撃力があったようだ。


「ひぃぃ!」

 清掃部隊としては、最悪な汚し方だ。



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