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530部隊よ這い上がれ! 僕らは戦う清掃員  作者: またきち+
500階 紛争地帯
17/22

(17)這い上がる怪物と堕ちた勇者(行動するのみ)


 サイは誠と共に地下500階を訪れた。


 普通に太陽が見えて街がある。区画整理された戸建住宅を抜け、商店街には武器や生活必需品が並ぶ。サイは初めて見るものばかりだ。

「これが本当に攻略隊のキャンプ?」


「上層に戻った気分でしょうが、全部魔法で生み出されています」

 全部と言われても、店から漏れ出る焼肉の匂いや、キャバクラまで必要だろうか。最前線なのに緊張感の欠片もない。


「太陽も?」

「そう、太陽も月も。ま、上空の本物の空をコピーしているだけですから、生み出しているわけではないですけど」


「あの女の子も?」

 セクシーな女性に導かれ、戦士が店に入っていく。ちょっと羨ましい。

「コピーです。けれど本人と感覚が繋がっているので、触れたら殴られますよ? サイさん、遊びに来たわけではありませんからね?」

 歓楽街に来たのはライガを捜すためだ。


「大衆酒場を全部探すの?」

「そんなわけないでしょう。匂いで追っています」


 誠は青い軍服を着た少年の恰好で、いかにも人間っぽい。しかし真実は魔法石から召喚されてくるモンスター。その能力の得意とするところは道案内である。

 ライガの匂いは基本的に酒と女の匂いだと聞き、サイは心配になるばかりだ。


 ――530部隊、まともな奴いないのか?


「ここにいるのは選ばれたエリート軍人だけと思っていたけど、なんか違うなぁ」


「魔法石による人体コピーは高等術式で、強力な魔法石が必要です。しかし500階となれば資源は豊富です。上層の人材派遣課に持っていけば加工処理ができます。おおよそ八時間勤務で、意識、意思と感覚をこちらで使用します。あっちでは寝たきりの状態です。


 あとは500階で、魔法石で呼び出すだけ。だから街は一瞬でただの石に戻ります」

「はぁ。便利だな」


 誠は不満顔であった。

「便利だからやって良いとは限りません。良質の魔法石が大量に、しかも無駄に消費されている。資源は無限ではない!」

「限りある資源を大切に!」

 

「そうです。だから、まちがっても正体をばらさないで下さいね。どうか穏便に、決して能力を発動させたりしないで、ライガを連れ戻してください」

「? 何故?」


 誠は苛立った。

「緑色は一番自由の効く魔法石で希少です。石は鉱物ですから、長い時間をかけて生成されます。400年前に魔神を地下に封じ込めた際、アルバーンがどうやって封印したのが知らないのですか?」


「うん、知らない」

「大量の緑色の魔法石ですよ。中でも一番純度の高いものが、エバーグリーンです」


「へぇ、そうなのか」

 サイは指輪の石を見ていると、誠が気付いて手袋をはめさせる。

「指輪が見つかったら、一瞬で腕ごと切り落とされますから!!」


 サイはぞっとして頷いた。

「魔法石は限りある資源です。つまり現在のアスタロットで、魔法石を作ることができるのは貴方一人です。これがどれほど貴重な存在か、いくらお馬鹿でも分かりますよね?」


 サイは恥ずかしくなってきた。

「そんなに褒められるとは……」


「馬鹿ですか。褒めていません! うっかり人前で魔法石を生み出したら、人身売買の対象になると忠告しているのですよ。

 一生どころか永遠に魔法石を生み出す道具です。人間の欲を満たすための奴隷に堕ちる。いくら首輪をしていたって無駄ですからね?」


 サイは青い顔で頷いた。

「人の欲望に限りは無い。貴方はそれが原因で家族と地位を失ったことを忘れてはなりません」

「そうだな」

 

 酒場に入ると中は暗闇だった。めくるめく動くスポットライトだけが頼りで、誠の背中を追う。

「待ってくれ!」


 誠はライガが匂いで分かるので、ガンガン先へ行く。背が低いからすぐに人ごみに紛れてしまって迷子になる。


 人を掻き分けて進む。

「すみません! ごめん、通してください」


 すでに酔っぱらっていた男がよろめいた。

「痛えな! この野郎!」

 殴られて倒れた。それで完全に誠を見失った。しかも悪くて強そうで、体格の良い男たちに囲まれた。


――うわ。やばい。攻略隊だぞ? 絶対に強いよ……。


「ごめんなさい! ちょっと先を急いでいて」

「ペットの分際で、酒場に堂々と俺たちのオアシスに踏み込んできやがって。モンスターのくせに態度デカイんだよ!」


 モンスターという言葉に周囲がざわめきだし、警報が鳴った。部屋の照明が明るくなった。いつしか周囲に空間ができていた。


 それは戦うための人払いだ。剣と銃で狙われて、脱出は不可能。そして首輪をした四つ足の獣が涎を垂らして、目の前で唸っている。


 歓声が上がった。サイは焦る。

「オレは戦えないよ! 戦闘力、無いんだよ」


「じゃあ……食われろ!」

 獣のリードが緩み、飛びかかった。サイは目を瞑り、頭を抱えて縮むしかなかった。最悪でも頭さえ齧られなければ、命は助かる。


 押し倒された。だが痛みは無く、駆け付けた誠が呻いた。


「誠! 誠! しっかりして!」

 腕を失った誠を抱きしめ、サイは大声を上げて泣いた。零れた涙の一粒は結晶になって床に転がる。

「酷いよ! どうしてこんなことをする!」


 返ってきたのは嘲笑だけだった。モンスターに人権などないのだ。

「おい、見ろよ、腕がないけど、けっこう平気みたいだ。もしかして子供の方もモンスターじゃないか?」

 サイは誠を抱きしめた。


 ――まずい。

 

「どこの隊だ? 見かけない顔だな」


 救助に出た男を押しのけて、金髪の男がサイと誠の頭を掴み、小さな部屋に放り込む。しっかり鍵をかけて監禁すると、両隣に派手な美女を従えて戻ってきた。


「オレのもんに手をだすなよ」

「お前は酒場の主で、ただのコピーだろ。戦士の遊びに手をだすな」


 獣の飼い主は寒気を感じた。男の殺気が凄い。

「ずっと酒場にいるからってコピー扱いするなよ。酒を飲むコピーがいるか。出し入れしている証拠にウ〇コ出して投げつけてやろうか?」


 隣の女が少し驚いている。

「ライガ、軍属だったの?」

「悪いが、今日はこれで店じまいだ。帰れ。――皆さま、またのご来店をお待ちしております」


 ライガの言動に不満を言う者はいなかった。彼がここの支配者であるらしい。女も帰らせて店に鍵をかけたところで、誠とサイを部屋から出した。


 人の気配の消えた酒場である。サイは席に案内されたものの、状況が掴めない。

 ライガはありあわせの魔法石を誠に渡した。

「これ食って、腕戻せ」


 誠は頷いた。

「それと、これだ」

 酒の肴の隣にライガが置いたものは、サイの流した涙の一粒。緑色の結晶は小さいが、威力は強い。

「奴らに見つかったら、大変だぞ。気をつけろ。ゲップひとつ出すなよ?」


 サイは頷いた。

「すみません。よくコントロールできなくて」

「これは今日の臨時休業代としてもらっておく。用件は?」

 ライガは誠から事情を聞いた。しかしすぐに帰るとは言わなかった。


「花梨が上の階にキャンプを置くことは、オレが移動する理由にならない。オレが530部隊に属しているのは、清掃任務ならば、どこの階でも営業できるからだ」

「闇営業ですけどね」

 誠のツッコミにライガは舌打ちする。


「サイさん、心得てください。本来、軍属の者に課されることは基本的に三つ。状況連絡。上司と相談して指示に従い、結果報告。社会人の基本ですが、すべてライガさんは守っておりません。完全なる隊律違反の理想的な姿が、こちらになります」

「うるさいな、ただの石に戻すぞ? 花梨が何も言ってこないということは許可しているということだ!」


「女遊びも?」

「情報収集だ」

「アルコール依存症でも?」

「情報収集できるだろ!! 世間で一番、緩~く♪なれるのが酒場だ。ここで稼ぐことが大事になんだよ」


「堕ちた勇者と言われても?」

 誠のツッコミは限界に達した。ライガは強く拳を握った。


 サイは言葉を失った。ライガと二人きりで、誠はただの“石ころ”に戻った。


 わずか数時間でも愛情があったから、命を絶たれたようで気に食わない。


「何だよ、その目。西尾のペットのくせに」

 ライガがサイの首輪を指さしたが、先端が震えている。すぐに酒瓶を開封した。


「お前も飲むか? 西尾って、あの西尾尚斗だろ? どんな男だ?」

「え?」


「オレはまだ会ったことがない。ここ何年か部隊には戻っていないからな」

「あぁ、そうなのですね。えぇっと……」


 白き流星のことを言っている。堕ちた勇者は最近の勇者のことが気になっているらしい。



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