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530部隊よ這い上がれ! 僕らは戦う清掃員  作者: またきち+
520階 火山地帯
13/22

魔神(ここにも悪い奴がいる)

 

 西尾は530階の空を見上げた。

 薄暗い天井の夜空。シュートホールの光は闇に溶けた落日のようだ。520階の床が穴のあいた部分から溶岩が見えている。


 それは大地の息遣いのように妖しく蠢いて、光を放つ。液体だから落ちてきそうなものだが、ダイヤモンドの結晶が膜になっており、光が増幅され乱れ飛んでいた。とても高価で焦げ付いた煌めきである。


「完璧だ」

 西尾は満足していた。


 この溶岩によって99%のゴミが燃え尽きる。全てを燃やし尽くす浄化の光だ。清々しくも不純物が削がれ、ほんの1%、強力な魔法石だけが残る。


 魔法核型炊飯器で例えれば、炊飯器の蓋や窯などは燃え、中央核の魔法石部分が残る。それらは溶岩の流れに乗って地下を流れたり、モンスターが拾い上げて、餌として土に埋めたりする。どれも比重の関係で魔法石はさらに地下へ落ち、530階に降り積もっていくのである。


 530階の空に星がキラリと光ったら、それは魔法石が落ちた証拠だ。そして長い積み重ねで540階に魔法石の氷原ができあがった。


 だが、そういう真実は伏せておいたほうがいい。強力な魔法石が手に入ると分かったなら、530階に人が押し寄せる。そういうのは勘弁してほしい。特に口の緩そうなサイ・フォンデール。これに知られると情報が筒抜けになるので、ゴミが落ちてくるから避けろと言ってある。


 ではなぜ530階が氷原ではないのか。

 この謎があることも、そしてここに真実があることも知る者は僅かだ。


 西尾は二年前を思い出さずにはいられない。



 現在の攻略隊でも500階に到達できるのはごく一部だが、二年前はもっと酷く、450階程度であった。魔神のいる場所へは、西尾抜きでは誰も到達できず、魔神攻略を目標にしていながら、道のりは遠くなっていた。

 その折り、西尾は単独で行動し530階の第一発見者となっている。


 原因は巨大な魔力を持った“何か”がシュートホールを通過したことだ。それは流星のようにアスタロットの街の中央を突き抜けていく。溶岩の海に突入したと予測できたが、軍では確認の方法もなく、この一件は徐々に終息していった。


 しかし西尾は地下へもぐった。

 西尾が見たものは、暗い灼熱の火口に開く緑色の穴だった。ストローを刺したように、細長く下へ続いている。これを西尾はホットオレンジスムージーと例えた。


 靴の裏に魔法石をはめ込み、穴に飛び込む。西尾はゆっくりと落ちていった。


 筒は透明なトンネル状で、灼熱の溶岩流のなかに不死鳥の卵を見かけた。おそらく不死鳥はこの災害に巻き込まれ、卵に戻ってしまったのだろう。


 520階を突き抜け、周囲は明るくなったが、その光は淡い緑色である。それには溶岩よりも酷い危機感を感じ、舌打ちした。

 西尾は緑色に染まる世界にたどり着いたのだ。


 膨大な魔力、その放出源を求める。その光はあまりに眩しく、人の形をしていること以外は分からなかった。

「魔神……ではないのか」

 邪悪な意思は感じない。それどころかアルバーンの意思を感じる。


 西尾は目を細めた。


 全てを見極める眼。それが西尾の能力。


 その瞳を持ってすれば原因の追究など容易い。

 かつて西尾はその能力で魔神と戦った。歴戦の英雄、西尾尚斗を人は神と称えた。だが真実は違う。西尾は皮肉をこめて呟いた。


「神というなら、俺は魔神だな」


 アスタロットは全てが魔法石で出来ているといっても過言ではない。そして魔法石を自由に扱えることは神にも等しいのだ。


 焼け焦げた人肉の匂いがするが、どうやら今は疲れ果てて眠っているらしい。


 西尾は神経質に眉根寄せた。

 ――汚い。


 男に近寄ることなく、西尾は足元と天に向かって手を翳す。


 基本的に魔法石は使用すれば石コロに戻るのである。使用もできればただの石に戻すこともできる。そして微塵も残さぬほど使用すれば、そこに空間が誕生する。


 魔法を使用後の洞窟。それが現在の530階であり、西尾が作り上げた階層だ。


 眠っていた人物は魔力を失い、再び下へ落ちていった。

 その行方は気になるが西尾も疲れており、追うことはできなかった。


 


 それから二年が過ぎ、530階の空は再び色を変えた。


 溶岩は熱と光を失い、薄く緑色に輝く太陽が現れた。空を見上げ、西尾は呟いた。

「アルバーン。余計なことを!」


 西尾が無色の魔法石を握ると蒸発し、白く熱気が上へと昇っていく。

「私が殺すと決めたのだ。邪魔をするな!!」


 その時、アルバーンの声が西尾に届いた。

『ヴォルガン・ハモンド。アスタロット駐留軍、魔法石研究所所属。少佐。享年五十歳。李明明の父、李太白と同じ職場……だったんだよねぇ。これって李明明の敵討ち?』


 ――手をだけでなく口まで出すか。うるさい。ハモンドはまだ死んでいない。


『素敵な眼だね。遠くからでもよく視えている。ハモンドは魔法石に封印した。彼はバルトの同僚だ。目的はそちらかな? いくらハモンドがあちら側の人間でも、上層部とは距離がある。私的な恨みで君が動くとは。西尾くんもまだまだだね』


 ――ハモンドの命乞いのために話しかけてきたわけではないよな? 貴様も歳を取りすぎたか。ハモンドはコピーだぞ?


『え? そうなの?』


 ――殺すと決めたのはサイ・フォンデールだ。あいつのせいで作戦が台無しだ。李明明の能力も邪魔だと思っていたところだ。二人とも溶岩で焼却処分とする。


『え? マジでそれやめて! あいつバカだから可哀想だよ。


 前向き! 素直! 明るい性格! それに明明ちゃん、若くて可愛いし。二人ともいい素材じゃないか! 君の育て方次第で、伸びる子だよ!』


 ――貴様のパシリなど眼中にない。


『だから天井と床をぶち抜くの、やめてくれない?』


 ――前と同じにするだけだ。大して問題はない。


『かなり広範囲なんですけど! 下まで一直線って、そんなに暴いたら、上から丸見えで恥ずかしいの! 素っ裸にされる恥辱。考えてよ』


 ――脆弱な。奴に見られ臆するか?


 西尾が両手を広げて集中を始める。少々大がかりな魔法だけに時間が必要だ。


『だからそれやめろって。お年寄りにはもっと敬意を払いたまえ! 創始者だぞ! すごく偉いんだぞ!』


 ――叛逆の狼煙を上げる。


「さらば。愛玩動物たち」

 530階の床が溶け始めた。


「清掃の時間だ」



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