表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
530部隊よ這い上がれ! 僕らは戦う清掃員  作者: またきち+
520階 火山地帯
11/22

高みを目指して(オレは戦う)



 サイ・フォンデールは李明明と520階の最高峰を目指している。


 “草木も生えぬ500階”と西尾が言っていたが、550階はゴミの底、540階は氷原、530階は平地だが狭く、現在520階。岩場だらけの上り坂!!


 噴煙で覆われた空は黒く重い雲に覆われて、周囲は真っ暗だ。永遠に朝日の来ない場所で、ヘルメットの小さな灯を頼りに前へ進む。


 目指す先は暗闇に赤く光る溶岩の噴き出す頂上。


 上に行けば標高が上がり、涼しくなるはずだと踏んだがどうも違う。ここはダンジョンだから、密閉された空間では熱い空気は上に、涼しい空気は下だと悟った時、絶望した。


「もうやだ!」

 成功すれば隊員にしてもらえて、西尾にも人間扱いされる。けれど不死鳥の羽を二十枚手にいれるのは簡単なことではない。とにかく熱い!


 サイはリュックを降ろした。手首には腕輪がしてあり、そこから鎖が上へ伸びている。サイが鎖を引っ張るとその先で浮いている大きな塊が下がってきた。


 風船のように軽い一人用のテントである。耐熱加工してあり、窓や入り口も小さいが中は快適なようで、明るく楽しそうな曲が音漏れしている。

「メイちゃん、いいなぁ」


 出かけるにあたって花梨は二人にひとつずつ支給品を用意した。サイには特別な服、メイメイには特別なテントである。テントには軽度の浮遊魔法がかけてあり、重さはゼロだが推進力がない。


 つまり誰かが引っ張らないと動かないのである。

「花梨さんの意地悪」


 サイはそう思っているが、魔石中毒患者が魔力欲しさにサイを襲う可能性を考えての策である。メイメイもそれが分かっているから、安心して外に出られた。テントは小さいながらも檻であったのだ。


 目の前で頑張るサイをメイメイは心から応援したかった。


 小窓から差し出した冷えた飲み物がサイにはありがたく、一気に飲み干す。


「酸っぱ辛い!!」

 サイは泣いた。加減が分かっていないのか、嫌がらせなのか。


「外は暑くてたいへんでしょ。熱中症対策でレモンとお塩入れてみたよ」

 それは優しい心遣いだ。でも次回は普通の水でお願いしたい。微笑んだメイメイは無邪気で可愛いからつい許してしまうけれど。


「見て! シュートホールよ」

 空の一角に大穴が開いていて、そこだけ明るい。天から梯子が下りたように見えるが、よく見ると黒い大小の物体が雑に降ってくる。


「あれは何?」

「大きいゴミ捨て用の穴。地上まで続いているんだよ」


「あそこから上に登れば一気に上へ行けるのか?」

「上から物が落ちてくるから無理よ。あそこから落ちてきたんでしょ?」

 サイは首を傾げている。


「その辺の記憶は全然ないんだ。気が付いたら550階だった」


「落ちてきたなら、凄い奇跡よね。だってシュートホールの真下は溶岩の海で何千度レベル。万が一そこを越えたとしてもその先は540階の氷の平原でマイナス温度の世界。熱いガラスを冷やすと割れてしまうように熱の衝撃で破壊される。そもそも何百メートルも下に落ちて生きているはずがないよね。きっと誰かに運ばれてきたんでしょう」

 サイは頷いた。


「そうか。そうだよな。西尾さんが捨てられたって言うし、ゴミが上から降ってくるからてっきり上から落ちてきたと思っていたよ。でもよく考えてみれば理屈に合わないよな! 誰がこんな深い場所まで運んでくれたんだろう。悪党も苦労しないで、もっと上の方の階にすればよかったのに」


 サイの疑問にメイメイは頷いた。確かに550階に捨てる理由はどこにもない。

「西尾は理屈に合わないことは言わない。西尾がそう言うなら本当に落ちてきたのかも」


「え? 今だって生きているはずないって言っていたじゃん」

 メイメイは温度計を横目で見た。外の気温は百度を超えている。


「魔神の末裔」

「え? 何か言った?」


 メイメイは笑顔で小窓を閉めた。

「じゃ、お願いね♪ 不死鳥の巣が見えたら教えてね!」



 サイは渋々歩き出した。メイメイがいなかったら、とっくに諦めていたかもしれない。何度かの休息を繰り返すとサイは暑さになれてきた。


 歩き始めて20時間が過ぎ、頂上もかなり近づいてきた。不死鳥の復活まであと四時間。花梨の話では復活と同時に火山が爆発するらしいから、帰る時間を含めたらギリギリだ。


 最後の休憩を取りながら、サイは自分の姿を見た。

 服は焼け焦げ、靴は焼けて溶けてなくなった。素肌や裸足は熱いが、傷にはなっていない。思えば540階でマイナス30度の世界にいたのに、薄着で凍傷にもならなかった。悪い奴らに刺されて、気が付くと怪我が治っている。


「メイメイ、オレって不死身なのかな?」


 サイが腕の鎖を引っ張った時、鎖が溶けて切れそうだ。テントの中も冷却が間に合わずにかなりの高温になってきている。置いていくのも心配だが、これ以上火口に近づくのは彼女の命に関わる。


 岩に鎖を括りつけていると、冷たいものに触れて驚いた。たまたま緑色の魔法石の結晶があって、そこは熱くなかったのだ。


 サイは直感でそうすればいいと悟った。

――えっとどうやるんだ? メイメイを守りたいなら、テントのだいたいを包んで断熱材にすればいいんだよな。西尾さんをやっちゃった時を思い出せ……。


 まるで緑色の宝石のように、テントは美しく緑色に発光した。異変に気付いたメイメイだが窓が塞がれてしまって声が聞こえない。


「ここで待ってて。すぐに取ってくるから」

 サイは元気だ。勢いよく急斜面を素手で登った。


 あと少し!


 サイは目的地が近づくたびに、心の底から湧く感情に満足していた。

「日日是好日!」

 達成感だ。苦しかったけれど、自分の力でやりきった!


 火口にたどり着いた時、サイはほぼ全裸だった。

 しかし花梨からもらったスーパーアイテムがある。その効果絶大だ。


 もう二度とノーパンフル〇ンで苦しむことはない。どんなに過酷な状況でも破けないヒーローパンツ。この安心感は絶大だ。まさにおでかけ前にはこれ一枚なのである。


「やったぜベイベー! 不死鳥の巣も発見!!」

 火口の窯の淵に鳥の巣があった。そして七色に光る羽もいくつか落ちている。

「不死鳥って……」

 サイは駆け寄るたびに言葉を失った。巣が近いと思ったのは気のせいで、巣が大きかったのである。


 ――意外と遠い!


 かなり時間は経過していたと思う。不死鳥が落した羽の一枚1メートルほどあり、不死鳥自体も大きいのが想像できる。もし見つかって突かれたりしたら大ごとで、逃げるが勝ちである。


 羽をベルトの隙間に差し込むと、サンバの衣装のようになった。

「よし、帰ろう!」


 暑くて、労力のいる任務だったが、無事にできたことが嬉しい。あとは急いで戻るだけだと、下で待っているメイメイに伝えようと手を振った。


 そして後悔した。


 テントの周りに数人がいるようで、明るく大きな照明でテントが照らされている。見知らぬ防火服の男が手を振り返した。男たちの手にはピッケルがあって、魔法石を砕いている。宝を発見して、喜んで懐にいれているのだ。


「メイちゃん!」

 サイは崖から落ちるように走り出した。

「てめぇら! そのテントに触れるな!」

 

 


 テントの中は長い間暑かったが、具合が悪い原因はそれだけはなかった。

 李明明は意識が朦朧としている。


 520階に来てから、幻覚や妄想に悩まされている。

 530階では症状が落ち着いていたのに、久しぶりに外に出たら、このザマだ。このことはサイにも言いたくなかった。


 テントの中なら一人なので被害は及ばないと思った。頑丈なテントで暴れても空中なのだから振動は伝わらず、サイは気付かないだろう。


 魔石中毒は魔法石を食べたことが原因で感覚や精神が侵される病だ。


 メイメイも好んで食べたわけではないが、結果的にはそうなった。かなり特殊な石だったらしいが、どんな石かも分からないまましばらくこの病で苦しんでいる。


もっと。もっと食べたいの。大好き、大好物なのよ、緑色の魔法石が!

おかしいって分かってる。

でも、止められないの。


サイ、あなたごと食べてしまいたい。


 テントの外側が緑色に光り、覆われたときは壁を齧って、窓を突き破ってでも魔法石を食べたかった。だから爪で壁を引っ掻き、物をぶつけて、野獣のように吼えた。


 入口も窓も塞がれてしまって外に出ることはできない。もしも外に出てしまったら、全身火傷で死んでいただろうから、サイの処置は偶然でも良い方向になっていたといえる。


 けれどメイメイはそんなことも考える余裕はなかった。


 目の前にごちそうがあるのに、ひと欠片も食べることができなかったから。


 お預けをくらって飢えるばかり。狂いたくない一心から眠ろうとして、持ってきた睡眠導入剤を飲んでいた。


そこを、ガンガンと外から叩かれて起こされたのである。


 陶酔と苛立ち。そして何者かに襲われる恐怖が最高潮にメイメイを狂わせた。


「殺さないで…私は知らない。何も知らない!!」


 目の前に血だらけになった死体がある。まともに顔を見ることはできなかった。それでも目を開いて、瞬きもせずこちらを見ているのが分かる。それが幻だと分かっていても、幻とは思えない。


「やめて!」


父は不正などしていない。

あんなところに石を隠すはずがない。

父が嵌められた。


けれどこのままでは捕まってしまう。だから、その証拠を口に含んだ。

石だから、口の中で溶けるはずがない。


そう思っていたのに……。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ