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きみと描く、英雄の詩  作者: 寛喜堂秀介


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07 すこし変わったいつもの生活



 翌日、月曜日。

 久遠が学校に行き、日常に回帰するための重要な一日だ。



「大丈夫だ……きっと大丈夫だ……」



 教室の席で、俺は自分に言い聞かせる。


 訓練はした。

 日常生活において、久遠の動きは「どこか怪我でもしたのかな?」程度の違和感しかない。

 表情も……まあ久遠はもともと表情豊かに話す方じゃない。というか話す友達が居るか怪しい。きっとギリギリセーフだ。


 朝の登校は大丈夫だった。

 隣に俺が居て、なにごとかとジロジロ見られた以外はなんの問題もない。

 俺と久遠はクラスが別なので、授業中にやらかしてないか、ちょっと不安だったが、まあ記憶に関しては問題ないのだ。久遠を信じるとしよう。



「大丈夫だ。久遠に関しては、きっと」



 他の問題から目をそむけながら、祈るような気持ちでつぶやく。


 そう。他にも問題がある。

 ミキ丸だ。同じクラスの彼女は、野生の獣が獲物に対してするように、こちらの様子をじっとうかがい続けてる。



「いやー。久遠はきっとうまくやってるだろうなあ」



 昼休みになった。

 襟元ひっつかまれて、あっという間に教室から引っ張り出された。

 頼もしい我らがクラスメイト達は、なにやら生温かい瞳で俺を見送るだけだった。よし。いつも通りだなてめえら。



「――さあ、刹那くん。遠州さんとのこと、しっかり聞かせてください」



 屋上の鉄扉を開いて左右を確認すると、ミキ丸は後ろ手で扉を閉じて尋ねてきた。

 一瞬たりとも逃げる隙を生じさせなかったその手腕には恐怖を通り越して畏敬の念すら感じる。


 まあ、逃げるつもりはない。

 逃げるつもりはないんだが……どうしよう。



「……えーと、な」



 頭をかきながら、考える。

 ミキ丸はなんだかすごく覚悟決めてる様子で、下手なことを言える雰囲気じゃない。


 久遠が“人狼”に襲われて一度死んだ……なんてのは、さすがに言うべきじゃないだろう。

 ミキ丸なら信じてくれるだろうが、そうなるとこの妙な状況に、こいつを巻き込んでしまう。


 ……いや、正直に言おう。俺は怖い。

 ミキ丸のことは、親友だと思ってるし尊敬もしてる。

 こいつの前ではいい顔していたいし、助力者でありたいと思っている。


 だけど、もしミキ丸が、久遠の問題を知ってしまったら。

 俺を差し置いて解決してしまったら。久遠をミキ丸に奪われてしまったら……そんな馬鹿な想像が、ミキ丸に真実を伝えることをためらわせる。


 迷ったが、決めた。

 俺は久遠のヒーローだ。

 久遠の問題を解決すべきなのは俺だ。

 だから……誤魔化す。



「……真里絵。中学のころの久遠のこと、覚えてるか?」


「え……はい。覚えてますよ? 眼帯して包帯つけて中二病全開でしたよね? 校内有志によるランキングで“関わりたくない美少女ランキング”“つき合いたくない美少女ランキング”“残念美人ランキング”でタイトルを獲得してましたよねえ」


「なにそのランキング俺聞いたことないんだけど!?」


「ちなみに刹那くんは“体育で休みがちな子ランキング”で常に上位を獲得してました」


「それ原因100%お前だよね!? お前が俺の骨折りまくったのが原因だよね!?」


「はい。ですので、不本意なことに、わたしは常に遠州さんとランキングトップを争っていました」


「お前もランキング入りしてたのかよ!?」



 納得だよ!

 口に出すとまた腕捩じられるから言わないけどすっげえ納得だよ!



「というか、同級生の骨を折りまくる恐怖の空手少女より関わりたくなくてつき合いたくないってあいつ中学の頃どんなことやらかしたんだよ」


「……中学のころのわたしに対する、刹那くんの認識に対して問い質すのはあとにするとして、さすがのわたしも、学校にネアンデルタール人の頭蓋骨のレプリカ抱えて登校してくるような子と比較されたくはないですよ」



 言われてみれば、そんなこともあったらしいな。

 俺は小さいころから久遠のお父さんにいろんな人骨見せてもらってたから、たいしたことだとは思ってなかったけど。



「……ひょっとして、そのことで久遠、すげえ引かれてた?」


「みんなドン引き――というか、クラスじゃパニックでしたよ。刹那くんはあんまり問題視してないようですけど……ひょっとして刹那くん、自分も中学の頃中二病発症してたものだから、そのあたりの許容値、とんでもなく高くなってません?」


「俺が中二病? はは、そんな馬鹿な」


「刹那くんは謎修業にはしる系でしたよね。屋根から落ちてくる雨粒に延々パンチしたり、休み時間にタイヤ引きとかやりだしたり」


「おいやめろ」


「やめません。というか、無理やりいっしょに一本足下駄でランニングさせられた恨みは忘れません」


「それはすまんかった」



 話が逸れた。

 というかこの話を続けてちゃダメだ。古傷がザクザク抉られる。



「話を戻すが……結論から言うと、ヤツの中二病が再発した」



 と、俺は真顔で大嘘をつく。



「おおう……遠州さんは十七歳。年齢的には高二病ジャストミートな年ですね。中二病の裏返しみたいな病気で、中二病的諸症状に対して異常な敵愾心を抱いたりするらしいですけど」


「それとは微妙に違うかな。なんか“生きてる実感が欲しい”とか言い出した」



 これは本当のことだ。

 事情が事情なので、よく言われる“真実にすこしの嘘を混ぜる”なんてのは無理だ。そんなスキルもない。

 だけど、表面的に見えている部分、真実を言ってもさしつかえない部分は、率直に言う。嘘をつくのは「何故」のところだ。



「――いきなり謎筋トレとか始めたらしくてな。筋肉痛で身動きできないって助けを求められた。正直馬鹿だと思う」


「え……あれ? ひょっとして、昨日遠州さんが内股で足元ぷるぷるさせてたのって……」


「筋肉痛だ」


「そうだったんですか」



 ミキ丸はあからさまにほっとした様子で息を吐いた。

 いまの説明で、とりあえずは納得してくれたみたいだ。



「わたしはてっきり……いや、昨日は混乱しててほんとにすみませんでした」


「ああ。なんつーか、見てられねえからよ。筋トレくらいなら、俺もリハビリがてらつき合ってやろうと思ってな」


「……ん?」


「そんなわけで、しばらく久遠のやつとつるんでると思うが、生温かい目で見ててくれ」


「んん?」



 笑顔のまま、ミキ丸が首を傾ける。

 そこに、黒髪の美少女――遠州久遠当人が、屋上の扉を開いてやってきた。



「刹那。ここに居たのか。今朝は弁当を作れなかったので、昼食が無い。学食に行きたいが、システムがわからない。教えてくれないか?」


「おお……わかった。すまん真里絵。飯食ってくるわ」



 とりあえず、話も済んだし、あまり話しすぎるとボロが出そうなので、とっとと退散することにする。



「んんんー?」



 ミキ丸は、最後まで首をひねっていた。

 ……なにも気づかれてないよね?







 来るのが遅れたせいか、学食はかなり混んでいた。


 券売機に並んで、待つことしばし。

 順番が回って来たので、券売機にお金を投入しながら、久遠に尋ねる。



「俺はカレーにするけど、久遠はなに食う?」


「……毎日カレーを食べてるのに、学食でもカレーを食べるのか?」


「まあカレーは毎日食べても飽きないしな。で、なに食う?」


「きつねうどん……いや、天ぷらうどんで」



 腹具合をたしかめるようにお腹を押さえてから、久遠は千円札を渡してくる。

 教えてやるから自分でやれ、と言いたいところだが、券売機にお札を投入するという作業は、いまの久遠にとってはすこし難しい。


 もたつくと悪目立ちするし、ここはやっておくか。

 久遠には、あとで自販機ででも練習してもらおう。



「ほら、麺系はあっちだ。券を持って並んで来い。その後は……えーと、カレーの方が先っぽいな。先に座って場所取ってるから」


「わかった」



 たまたま空いていた端の方の席に座って、待つことしばし。

 久遠は、やや危なっかしげな感じで、トレイに乗せたうどんを運んできた。

 なんだかんだで、昼休みも半分近く過ぎてしまっているので、まずは食事にする。双方八割がた平らげたところで、俺は久遠に尋ねた。



「久遠、学校はどうだ。うまく誤魔化せてるか?」


「大丈夫だ。問題はない」



 久遠はものすごく自信ありげに答える。

 表情を作るのはいいが、過剰すぎてものすごいドヤ顔になってる。



「そりゃよかった。午後の授業も平穏無事で頼む」


「まかせてくれ」


「だからドヤ顔はやめとけ……そういや放課後の予定はどんな感じなんだ?」


「月水金は塾の日……だったんだが、休む。近所で事件があったのが、いい口実だろう」


「その方がいいだろうな」



 というか、学校の部活すら禁止になってる状況で、帰りが夜になる塾に通ってる人間も少なかろう。



「帰って、どうしようか、刹那。本当はいろんなことを体感すべきなのだろうが」


「まあ焦るな。なにをするにも、平日はまとまった時間がとれないだろ。特に、夜に出歩くことも出来ないこんな状況じゃな」


「それもまあ、そうか。はやく殺人犯が捕まるといいのだが」


「まあ、今日のところは、晩飯に美味いものを食べるってとこで我慢しとこうぜ。肉とかてんこ盛りにしたカレーを」


「カレーを食べながら晩御飯のカレーについて楽しげに語る刹那に、心のないボクですら、淡い恐怖にも似た感覚を覚えるのだが……普通に刺身やステーキでいいのではないだろうか」


「わかった。ステーキとカレーで行こう」


「カレーは無くならないのだな」


「メニューの決定権がある今、好きなものを好きなだけ食べたいという欲求は、非難されるべきものじゃないと思うんだ」


「それにしても、ほかの好きなメニューとローテーション組むとかあるだろうに」


「俺の好きな食べ物はカレー一強だ」



 迷いない主張に、久遠はしばし、黙り込んで。



「……ふむ。では、考えてみてくれ。将来、二十代半ばくらいになったキミの姿を。そして想像してみよう。刹那に彼女が出来た。ものすごく美人の彼女だ。何度かデートを重ねて、ホテルで夕食を、という運びになった。うまくいけばこのままイケる。そんな時、キミはディナーにどんな料理を選ぶ?」



 二十代半ばくらいの美人、というワードを出されると、昨日出会った賀古みらいもどきの残念美人が思い浮かぶので心底やめてほしい。

 というのはさておき、考える。久遠の提示したシチュエーションで選ぶべき料理は……



「カレー……だな」


「刹那に彼女が居ない理由がわかった」


「待てよ久遠。待ってくれよ。まずは俺の説明を聞いてくれ。そうすれば俺のチョイスも、そう捨てたもんじゃないってのがわかるはずだ」



 なんか唐突に男として否定されだしたので、あわてて自己弁護する。



「まず俺はカレーが好きだ。毎日食っても食い飽きない。なんなら毎日三食食ってもいいと思ってる。それくらいカレーが好きなんだ。つまり俺はそんな男で、そんな俺を知って欲しい。偽りのない素のままの俺を受け入れてほしい! だからこそ、あえてのカレーなんだよ!」


「いや、だめだろう」


「なぜ!?」


「だって、キミには相手を楽しませよう。気分良く過ごしてもらおうという視点が抜けている。考えてみてほしい。彼女もキミのことが好きなんだ。何度かデートして、ムードが良ければそのまま結ばれてもいいかと思ってる。そこへカレーだ。普段と変わらず、特別感も何もないキミにとっては日常の食べ物だ。ムードがどうこう以前に、キミの愛情に深刻な疑問を抱かせかねない」


「言葉のナイフでザクザク刺してくるのやめろよ……大人の恋愛なんて彼女いない歴=年齢の俺にわかるわけないだろ」


「いや、相手を大事にする。そしてそのことを目に見える形で示すという単純な話なんだが……あとボクも彼氏いない歴=年齢だ」


「ならなんでいきなり恋愛師匠みたいな話やりだしたんだ」


「いや、なんというか……そうしないとキミは、近い将来物理的に刺されるんじゃないかと心配したのだ」


「なんだそりゃ。女難を被るのならなってみたいわ。モテたいわ」


「そのときは、ぜひともボクの話を思い出してほしい」


「いまの話? ……ああ、話を切って悪いが、お前がなにを言いたいか、遅まきながら気づいたわ」



 頭をかいて、俺は刹那に問いかける。

 心が無いくせに、変に気を回して迂遠な言い方をするものだから、気づくのが遅れまくった。


 つまるところ。



「晩飯なに食べたい?」


「寿司」



 3秒で終わる話だった。





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