笑顔にする為にフスフスを
三作目だけど、二作目は迷走して振られて終わるはずがなぜか笑いも入れようと頑張ったところ主人公の友人と兄がバトルをする話が三割占領ししかも主人公振られず振られたと思い込みなぜか上半身裸の兄と会い、帰って終わりというね……。
話が最初から逸れましたが、この作品は頭を真っ白にして読んでください、以上!
七月の終わり、夕暮れの空に旱星が見える頃。二年生になった松木青は今日も柔道部の先輩に扱かれ、くたくたになりながら校門を目指して歩いていた。八月にある総体ではなんと団体戦で中堅に選ばれたこともあり、特に青は三年生と遅くまで練習をしていたので校門が閉まるギリギリになってしまった。
(しかも掃除を押し付けて帰るとは。でも先輩たちはオレのために居残ってくれていたんだから、恨みはしないけど)
優しい性格もあり掃除のことは忘れ、少し俯き気味に歩いていたのを立ち止まりスクールバッグを肩に掛け直して頭を上げて歩き出した時だった。
目の前に、毛玉がある――いや違う、これはフスフスだ。この学校で良く見られる謎の生物で、足なんだか触毛なのか分からないが個体により色や形が異なるのだ。しかも伸縮自在、らしい。
青はフスフスと出会うのはこれが初めてではない。よく見かけられるのだからそんなの当たり前だろうと思われるかもしれないが、青は部活に入ってから帰りが遅いのが理由か分からないが、一年生の時にまだ部活にも入ってない四月の終わりごろに会ったきりでその後は見ていなかったのだ。
動物好きの青としては、また見たかったのに見られないのは辛かった。
(昨年は、目が合ったと思ったら逃げられちゃったんだよな……抱き上げようとかして動いてもいないのに)
それに青は動物にも好かれるので逃げられるたのはかなりショックだったのである。
昨年の事を教訓にしようと思ってたがフスフスを見つけてしまうとつい、目が離せなくなる。
(今年は怖がられてない、のかな?)
年度が関係あるのかは青には分からない。ただ、目を合わせてるのに逃げられない。
「だ、大丈夫、だよー」
ゆっくり、相手を警戒させないように猫なで声を出して一歩だした。のだが、
「!」
飛び上がったかと思うとフシューと音を何処から出してるのか分からないが、フシューと音を発しながら近くの林に逃げてしまった。
「え、ええー……」
何が怖かったのだろう、青にはその思いでいっぱいだった。フスフスは基本誰にでも擦り寄ってくる、そう聞いたことあったがアレでは人に慣れてない野良猫と同じだ。
「だ、だいぶ嫌われてるなー。もしかして、匂いなのかな?」
夏用の半袖になったワイシャツを嗅いでみたが、汗の匂いがするくらいだ。
(となると、存在自体がフスフスにとって嫌悪の対象、なのか)
「青くーん!」
後ろから声を掛けられた。振り返ると、学校の玄関口から桃色っぽい茶髪に茶色い目の女の子が走ってきていた。
「あ、桃ちゃん。オレもうマネージャーの皆は帰ったから桃ちゃんも帰ったと思ってたけど、まだいたんだね」
「うん、忘れ物しちゃって」
梅花桃は青とは幼なじみで柔道部のマネージャーをしている。そして、青の好きな人だ。
「お、遅いしオレが家まで送って、い、いこうか?」
青は内気で赤面症なのに二人きりということもあり余計に顔を真っ赤にしている。
「ううん、私一人でも大丈夫だよ」
「そ、そっか。じゃあまた」
「青くん」
確かに二人の家は歩いて五分ぐらいなので近いし家まで送らなくても危ないことは何もないだろう、そう思って話してたらちょうど我が家が見えたのでまたねと言おうとしたら、遮られた。
「何?」
「女の子一人で夜道を歩くのは危ないと思わない?」
「……そ、そうだね。でもさっきは大丈夫って」
「青くーん、あ ぶ な い よね?」
「うん、危ないよね! オレ送って行くよ!」
「うんうん、偉いね。青君はいつも頼りになるっ!」
そう言いながら腕に抱きつかれさっきまでのやりとりを忘れ思わず赤面してしまう青。……実は内気になったのは案外桃とのこういうやりとりをむかしからしていたからかもしれない。
「そういえば三年生の桂木って人がまたねー」
「そ、そうなんだ」
他愛もない話を桃の家についてからも桃が話す限り相づちを青は打つので、桃の親が近所迷惑だと怒鳴りに来るまでそこにいるのは実は日常茶飯事だったりする。
*****
翌日、青はあまり元気が無かった。朝ごはんを食べていないとか、柔道部の朝練がキツかった、のではなく昨日のフスフスが原因だった。普通の人なら得体の知れない生き物に逃げられたって心に突き刺さるものは無いだろうが、青には大きな棘が刺さっている。しかも生まれてこのかた動物に好かれ自分も好いていたのだ。それが二回も逃げられた。おかげで大きな棘には返し棘が付いてしまい、まったく抜けない状態である。
「はあ、フスフス一体何が……」
お昼になっても青は机に突っ伏し人に聞こえない程度に一人愚痴っていた。
「青君?」
「フスフス……」
「青君、大丈夫?」
「フス?」
「ふす?」
「い、いやいや何でもないから!」
桃の声に反応し顔を上げたが、変な言葉を発していることに気付き、ボッとゆでトマトみたいに顔を赤くさせながら手をブンブン振る。
「え、えっとそれでどうしたの?」
「呼んだだけよ?」
「あ、そ、そうなんだ。というかもうお昼なんだね。オレも皆とご飯食べてくるよ」
そう言うと青は席を立つ。
「うん、私も皆と食べてくる」
「じゃ」
「はいはーい」
男子の集まっているいくつかのグループに混ざって行った。それを手をひらひらさせてニコニコしながら桃は見送った。
「……青君がグロッキーなのは、あの毛玉が原因、だよね」
ボソッと呟いた声は昼休みの喧騒のせいで誰にも聞かれることはなかった。
*****
話は昨日に遡る。桃は戻ってきたと言っていたがそれは嘘だった。
桃はずっと青が先輩と練習をしているのを窓から見ていた。決して男が絡むのが好きという腐女子というのではない。桃の言葉を借りていうと『見守っていた』だ。桃も青のことが好きなのだがその『好き』が普通ではなかった。それはもう、一時も離れたくないくらいに、好きだった。
今日も見守る、というかストーキングをしていると青の練習が終わり、偶然と思わせて一緒に帰ろうかなと想像していたら先輩たちに掃除を押し付けられてしまった。
「青君だけに任せるなんて……やっぱり見守っていて良かったわ。今度ドサクサに紛れて報復しなきゃ」
先輩たちへの報復を考え、メモし終わるとちょうど青も掃除が終わったらしく、着替え室に入って行った。
その間に桃は部室棟から離れ木の陰に隠れた。青が通りかかるのを待っていると、疲れているのかゆっくりと校門に向かう青が見えたので今だと思い、口を開くが声が出る前に青が止まったので桃も思わず止まってしまった。青が何かに話しかけているが青の足が邪魔で見えない。
「だ、大丈夫、だよー」
声を少し高くして一歩出す青が見えたがその足元の所から毛玉がゴキブリ並みの速さで逃げて行った。
「え、ええー……、だいぶ嫌われているな。匂いかな」
ワイシャツの匂いを嗅いでいる青を見て私が嗅ぎたいと桃が思ったのは置いといて、桃はずっと立ち尽くしてる青に話しかけ無事考えてた通り家に一緒に帰ることは出来たもののいつもと同じに普通の人には見えただろうが、桃にはやはり元気が無いということはヒシヒシと伝わってきた。そして今日、昨日よりも元気がないのを見て桃は決めたのだ。
青君のワイシャツをこっそり嗅ごう。……違う、今はそれではないと桃は頭を振り、切り替える。
あの毛玉を捕まえよう。きっとあの毛玉を触れなかったことを後悔してるのだろうから触れればきっと元気になる。
(そうとなればまずはあの毛玉と現れるのが最も多い時間帯を知らないといけないよね、うーん)
動物、というかあんな謎の生き物について詳しい人なんていない、そう思いかけたがふとある部を思い出した。基本桃は最低限の情報以外は記憶していることも考えることも青一色である。
(あそこに真唯花入れたは良いけど、まさか頼ることになるなんて、ねぇ)
他に当てもないので昼休みが終わる前には聞き出そうと一階にある屋外通路で部室棟に行くことにした。
桃は目的の部室のドアの前に着いたが、冷静になって考えるとあの毛玉について知っているか微妙である。
猫部。その名前の通り猫が好きな人の集まる部活、としか知らない。良くこんな部活動を生徒会は認めたものねと呆れたものの、今はここしか頼れるところが無い。
鍵は開いているのを見るに、誰かいるのだろう。
(真唯花ちゃんいなくても、何か誰でもいいから聞きだせると良いなぁ)
「失礼します。あの、聞きたいことがあるんですが」
「あれ、梅花ちゃんじゃん。どうしたの?」
中には大きなソファーに猫を膝に乗せた黒髪黒目の女の子がいた。外見だけだととても美人に見える。でも桃は赤羽が嫌いだ。
「赤羽先輩だけですか?」
「真唯花ちゃんはまだだけど、私で良ければ答えるけど、猫の事で何かお困り?」
「猫じゃあ無いんですけど、この学校に出る毛がいっぱい生えてる生き物について情報が欲しくて」
「ああ、ケサランパサランだね」
「け、ケサランパサラン?」
「そそ、幸せを運ぶ妖怪らしくて酷いことをすると呪われるんだってさ」
「え、本当ですか?」
捕まえたりして怒らせて死んだりしたら困る、そう思っていたが、
「いや、嘘だよ? そんな危ない生き物がこの学校だけに出るわけ無いじゃーん」
赤羽は人をからかうのが好きなのだ。
「……じゃあ、なんなんですか?」
イライラして少し低い声で聞く。
「フスフスっていうんだよ」
「……猫って屋上から落ちても生きていられると思いますか?」
「本当にフスフスって言うんだよ! 夕方の教室棟の裏に現れるんだ。好物はキャラメルで夕方に良く見られてるらしい。私が知ってるのはこれだけだ、だからウチの部の猫をガン見しないで!」
「ふん、教えてくれてありがとうございます」
猫を上手く使い聞き出すことに成功した桃はお昼の終わりを告げるチャイムと共に猫部を後にした。
*****
放課後になり、青は部活に行こうとスクールバッグを肩に掛けて教室を出ようとした。その時桃が今日は部活には行けないから、と言い青が答える前にさっさと出て行ってしまった。珍しいなぁと思いつつ、総体が近く出来るだけたくさん練習したい青はフスフスのことが胸に刺さったままではあるが頑張ろうと自分に言い聞かせ部活で先輩たちと練習をした。
「松木ぃ!」
「は、はい」
練習中先輩に呼び止められた青は怒られるのかとビクビクした。
「お前、いつもの技にキレがないぞ。体調悪いのか?」
そんなことはない、と言いかけてフスフスのことを思い出す。
「あ、いえ元気なんですけど……」
「ふむ、昨日は遅くまでやったしな、今日はもう帰っていいぞ」
「そ、そんな! オレまだ出来ます!」
「いやいや、疲れているときに無理にやって体壊したり学業に支障が出たらいけないかな」
昨日掃除を押し付けた先輩の言う言葉ではない。だが、多少は昨日の事を悪いと思っているから出た言葉でもある。
「そ、そうですか。分かりました、今日は帰ります。失礼します」
青は自分がそんなに具合が悪いように見えるのかと思っていたが桃にも言われたし、本当にそうなんだろうなと納得せざるを得ない。
着替え終わり、早く帰らせてもらったとはいえ運動場やテニスコートなどの屋外の部活動はもう終わっておりいつもよりも何だが寂しい道のりが更に寂しく思えた。いつもよりも寂しく青が感じたのは桃が見守っていないからなのだが、本人は気づかないだろう。
昨日と同じ校門が見えて来た所でピタリと青は足を止めた。もしかしたらまたフスフスがいるんじゃないだろうか……そう思って周りを見てみるが去年も一回しか見てないのだ。いるわけない、そう結論づけ、歩こうとした時だった。
「フスッ」
「へ?」
肩に、フスフスが突然乗ってきたのだ。
「ふ、フスフス!」
フスフスは青の肩から飛び降りると教室棟裏に走る、と言うのか分からないが移動していく。だが昨日とは違いその速度は付いていけるものだった。
「付いて、来いって事なの……?」
後ろを振り向きながら移動している所を見るに付いてきて欲しいのだと思い付いていく事にした。
教室棟裏に着くと驚いた。沢山のフスフスがいたのだ。色とりどりで多種多様な形のフスフスがいた。正直、色とりどりのモフモフしたモップの毛に目玉が付いたのが沢山いると夜に近づく夕方という事もあり怖いと思い普通の人なら引いてしまう光景なのだが、青は感動していた。1年越しに、逃げる事なくこちらを目をキラキラさせて見ている。
「っ! フスフス〜!」
フスフスの群れにダイブした避けられて地面にフレンチキスをすることなく、青はフスフスたちの上に着地し、そこでひたすら戯れる事が出来、一時間たっぷりそこにいると満足をし帰っていった。
実はフスフスたちも青に撫でられたりしたかったのだが、桃の見守っている時の目があまりにも怖く、青から逃げていたのである。だが今回は天敵はいない。このチャンスを逃すことなく、触れ合えてフスフスたちも満足した。だが、それを桃はいないので知ることはないのだった。
*****
青とフスフスたちのわだかまりが解消された翌朝、桃は登校時に青と一緒に登校したが青は昨日と違いとても晴れやかな顔をしていた。フスフスともしかして会えたのか、と考えたが二度あることは三度ある、また会ったしても逃げられるだろうと思い、何はともあれ元気な青が見れて嬉しい桃だった。
学校に着くと教室棟の裏手に回り、桃はカバンに入れておいた組立式の簡易なネズミ捕りとキャラメルを取り出す。
(夕方に頻繁にフスフスが見られてると赤羽先輩が言っていたけど、今から仕掛けとけば一匹くらい引っかかるよね)
桃は罠を設置し林と林の間の少し拓けた場所に置いた。他の人が気づかない用にである。学校へと向かい授業を受けお昼を食べとあれよあれよ放課後にはあっという間になってしまった。そして青と部室棟の柔道場まで行き、更衣室に青が入ると桃はそそくさと教室棟の裏へ来た桃は驚いた。
「こ、こんなにいるのね……」
眉を引きつらせていた。檻にはたくさんのフスフスが檻をギシギシと聞こえるくらい詰まっていた。
「一匹いれば十分だから、っと」
檻の蓋を開け溢れてきた所を素早く一匹だけ掴みスクールバッグにねじ込む。
(うふふ、青もこれでもっと喜ぶよね)
鼻歌を歌いながら桃は道場へとスキップしていった。
バッグを隅に置き、マネージャーの仕事をしたり青を眺めて時間は過ぎて待ちに待った帰りの時間。
「桃~、着替え終わったよ」
「じゃあ、早く帰ろ!」
「う、うん」
腕にしがみ付き桃は青を引っ張って行く。
そんな二人を柔道部先輩の一人が近くにいた同級生に聞いた。
「なあ、あいつら何で付き合わないんだろうな」
「見てる限りお互い好きなのは誰が見ても分かるのにそうだなぁ。幼なじみつってたし、告白とかしなくても変わんないんじゃね?」
「そんなもんか」
「幼なじみなんて隣の家の太郎しかいねぇから分かんないわ」
「……犬か?」
「……犬だが?」
二人はしばらく虚しく感じた。すると犬が幼なじみの男が足元にむず痒さを感じ見ると、
「フスフス、か」
足元にいるフスフスのおかげで、癒された二人だった。
*****
校門近くまで来るとそろそろ良いかなと思い桃はカバンに手を突っ込む。だがあるべき毛触りが、ない。
「え、嘘でしょ」
カバンの横を見ると半径二センチ程の虫食いのような穴が空いていた。
「そ、そんな……!」
愕然としていると腕が開放され背伸びをし終えた青が不思議そうにしていた。
「えっと、カバンにその、青が喜ぶモノを入れてたんだけど、逃げられちゃって」
「に、逃げる?」
「うん、驚かせようとせず、すぐ見せれば良かった」
俯きながら落ち込む桃に青はきょとんとした。
「うーん、何捕まえたのか分かんないけどさ、オレのために何かしてくれようとした思いだけで十分だよ」
そう言いながら桃の頭に手をポンと置いた。だが、桃はそれでも闘志を燃やした目をしていた。
「う、うん。でも次はあの手この手を使って……」
自分のために何かしようとしてくれるのは嬉しい、だけど捕まえられてしまう動物は可哀想だと思った青は桃の手を取り、
「え、えっと、桃がいつもいてくれるからいつもウレシイカラ。だから、捕まえたりしなくて良い、よ?」
恥ずかしくてぎこちなくなってしまったが、何とか言えた。桃は顔を赤くして、
「青君が、そういうならやめるよ」
ガシッと青の腕に掴まりながら顔を腕に埋めていた。どうやら桃はもうその動物? か何か青は分かっていないが捕まえようとはしないと分かりホッとした。
「……スーハースーハー」
「ちょ、ちょっと桃嗅がないでくれる! 汗臭いから!」
歩きながら腕に顔を埋める桃を引き離そうとする青。そんな二人を教室棟の隅から串に刺した団子のように縦に連なって見ていたフスフスたちは思った。あの二人は、グルで自分たちを怖がらせようとしていたのか、と。
その後、青はフスフスがまた来ないかとキョロキョロするが、来ないことに落ち込み桃がまた動いたりするのは、別の話である。
おしまい
どうでしたか? なんだかんだで楽しめたなら作者としてとても嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。