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投稿日が遅れてしまいました。
申し訳ございません!
このようなことは極力ないように気をつけたいと思います!
少年たちはボロボロの格好で森を走る。
後を追うのはE級の魔物であるファングスパイダー。
それも一匹ではない、2mはあるであろう大きな蜘蛛が津波のように少年たちを追いかける様は地獄のような光景であった。
少年たちは冒険者である。
いくら彼らが幼子であったとしても、冒険者を名乗るのであるならE級の魔物ぐらい一人で倒せなくては命がいくつあっても足りない。
しかし、それは1対1での話である。
少年の人数は三人。
ファングスパイダーの数は一瞬見ただけでも10匹以上いる。
数の暴力というのは絶大である。
個々が殆ど同等の力を持っているのなら、その力は絶大である。
彼等はモノの数分で道に転がる肉塊へと変貌することは間違いないであろう。
ジリジリと縮む距離に業を煮やした少年の一人、サーズは焦りの色を見せる。
他の二人は既に満身創痍であった。
一人は血だらけで片腕が既にない、もう片方はファングスパイダーの麻酔毒で身体の動きが鈍くなっていた。
サーズ一人なら逃げ切ることは雑作もないだろうが、彼には出来なかった。
彼等は家族である。
どんな境遇であれ同じ釜の飯を食い、同じ場所で寝た仲間である。
彼等を見捨てることは出来なかった。
リバーウッド孤児院。
彼等の家はそこにあった。
彼等はそこで冒険者であることを強制されている。
冒険者とは命をかけるものである、だからこそ報酬もやはり破格であるのだ。
だからこそ、彼等は院長である糞ババアに金を払うために冒険者を強制されている。
逃げ出せればどれだけ楽なことか・・・
逃げ出せればどれだけ幸せなことか・・・
だが、逃げ出せばその逃げ出した者と一番親しかった者が殺される。
人というものは過酷な状況でこそ絆を大事にする生き物である。
だからこそ過酷な状況化で生まれた絆が鎖になる矛盾。
それこそリバーウッド孤児院の現状であった。
各々が過酷な状況で仲間を大切に思えば思うほど効力を成す見えない鎖。
皮肉な話だが、だからこそ彼等の絆は強かった。
ジリジリと縮む距離に等々、覚悟を決めた少年が重い口を開く。
「サーズならアイツ等から振り切れる!! 俺等を見捨ててお前だけでも逃げろ!!」
片腕を失った少年が悲願するように叫ぶ。
もう一人の少年も同じ思いなのだろう、サーズを守るかのように巨大な蜘蛛の津波へと足を停めて対峙する。
「……お前らを見捨てたら、コローネに嫌われるんだよ。 妹に嫌われるのはゴメンだ」
そんな彼等をやはりサーズも見捨てきれずに足を止める。
「……本当にシスコンだな? 最後まで妹かよ?」
「悪るいかよ? だから俺の最後は妹に看取られながら死ぬって決めてんだ。こんな男と蜘蛛に看取られるのなんてゴメンだ」
「確かにな、それは俺も同感だ」
「おうよ、やるからには勝つぞ」
少年たちは思い思いの武器を片手にファングスパイダーへと見合う。
言動では強気だが、ここが彼等の墓場になることは誰がどう見ても明白である。
彼等は覚悟を決めて、武器を握る拳には自然と力がこもる。
最後に有終の美を飾ろうと彼等は漆黒の津波から目を晒さぬように睨みつける。
しかし、彼等の目前に写ったものは大量の化け物ではなく。
飛び散る肉片と自分たちと同じぐらいにしか見えない少年の姿であった。
「君たち……そんなに簡単に命を諦めたら駄目だよ? 唯でさえ冒険者なんて命懸けの仕事やってるんだから足掻いてでも生き残るつもりじゃないと」
少年の声をサーズたち三人が理解するまでにはだいぶ時間を要した。
それもそうであろう、いくら相手がE級のファングスパイダーが相手とは云え10匹以上が相手なのだ。
一人でそれだけの数を相手するにはC級ランクに在籍している冒険者でもギリギリの領域なのだ。
それを目の前の小さな少年は一瞬で、一匹残らず化け物を肉片へと変えたのだから。
「ねぇ、僕の話を聞いてる?」
唖然とするサーズたちへと少年が更に質問を投げかける。
だが、それも仕方ないであろう。
この時サーズたちは思いもしなかったであろうが、冒険者に憧れる全ての若者が目指す男。
SSS+ギルドの冒険者。白兼 暁がこんな少年だと思いもしなかったのだから…
side 黒影
俺は現在、赤ん坊用の寝具に寝かされている。
俺がこの孤児院に預かられて約3時間ほどの時刻が過ぎていた。
だが、俺はこの3時間でハッキリしたことがあった。
この孤児院は地獄の間違いということである。
言葉はわからない黒影であったが、それはこの孤児院の院長をやっている老婆を見ていれば否応なしに理解することが出来た。
周りには10の年端もいかない少女たちが掃除などの家事を行っている。
それに関しては何の問題もない。
人の教育方針には指図する気もないし、否定するつもりも黒影にはないのだから。
家事の手伝いをさせるのも将来役立つだろうから子供たちの為にもなるであろう。
しかし……掃除で少しでも埃が残っていたからといってムチを片手に少女の背中を叩く老婆に関しては別だ。
黒影は老婆に対する怒りで頭が沸騰しそうになっていた。
苦痛に滲む少女の姿が朱璃と重なってしまい黒影の心を更に締め付ける。
黒影はやり場のない怒りを感じながら我慢することしか出来なかった。
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どうも、こんな作品でも見てくれている方がいるんだなぁーとか思いながら驚いている作者です。
完全に作者のやりたいことをやっている作品なんですが、楽しんで読んで頂ければ幸いです!