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1-3

 

 黒影はこちらに来て初めての村に心奪われていた。

 造り的には中世ヨーロッパを思わせる街並みをしているこの村の名前はリバーウッド村という人口800人ぐらいの小さな村であった。


 村の周りには簡易な造りである塀があり、正門からしか出入りが出来ないようになっているらしい。魔物が闊歩する森の近くにあるのだから普通の処置であるのかもしれないが、趣のある造りになっていた。


 黒影たちは現在その門で持ち物検査を行なっていた。

 検査を行なう門番たちは衛兵と呼ばれるに相応しい格好をしていて、チェーンメイルの上から蒼い服を着込み。腰には革製のベルトで括りつけられているショートソードが目に付いた。



「リバーウッド村へようこそ。旅人よ」


 衛兵の一人がアキラたちに何かを話しかけていた。


「ありがとうございます。 旅の補給で寄らせて頂きたいんですがよろしいでしょうか?」


「勿論だとも、リバーウッド村は君たちを歓迎しよう。 それにしても君たちは運がいいな? こちらの道はいま山賊たちの根城があるから殆ど人が寄り付かないというのに無事に通れるだなんて」


「あっ、5人ぐらいの山賊なら遭遇したんですが賞金首になってますかね?」


「ということは倒してきたというのか? 君たちが?」


「はい」


「坊主と嬢ちゃんしか見えないようだが、他に誰か居たのかい?」


「誰もいませんよ? しいていうなら赤ちゃんぐらいでしょ?」


「……若いというのに立派だな。 どうだい? ノア国の騎士になってみないか?」


「生憎、騎士っていう性分ではないんで」


「それなら大丈夫だよ、ノア国の騎士団長様なんか毎日酒と女に溺れてるってもっぱらの噂なんだからな。 正義の志と力があれば誰でも騎士になれるさ」


「アハハハ……」


「それはそうと、その赤子はどうしたんだい? まさか赤子を連れて旅していた訳ではないだろ?」


「この子は森の中で拾ったんですが、孤児院に預けて上げたいんですがどこにありますかね?」


「そうだったのか、やはり私の見立ては間違ってなかったようだね。 赤子を助けるだなんて立派な正義の心があるね? 孤児院なら真っ直ぐいったところにあるよ」


「ありがとうございます」


 アキラと衛兵の男はある程度話したところで会釈をした後に門を潜っていく。

 マリーに抱かれた黒影たちもアキラに付き従う。


 村に入ると色んな種族の人間たちが働いていたり、買い物をしていた。

 門を抜けるとすぐに鎧や剣を置いてある武器屋や、肉の香ばしい匂いを漂わす露店が立ち並んでおり、武器を持った体格の良い人間が多種多様な格好で群がっていた。

 その景色はまるでRPGゲームのような壮観で黒影は年甲斐もなくワクワクしてしまう。


 ある程度歩いたところで商業的なものから民家が立ち並ぶ地区に変わったらしく、先程までいた武器を持って鎧を着込んだ人間よりも子供や女性が多く見られた。


「ついたよ。 ここがリバーウッド孤児院だ」


 そこはボロボロの一軒家の前であった。

 言語がわからない俺でもここが孤児院だとすぐにわかった。

 どうやら俺はここに預けられるようだ。


「……うん」


 マリーが悲しそうな顔で俺を見つめてくる。

 まぁ、彼女たちの歳で拾った子供を育てようだなんて無理なのは俺も理解していたので別に悲しくはなかった。だが、マリーは俺のことを大事に思ってくれているのは言葉のわからない俺でも容易にわかることであった。


 だから、こそ俺は満足に動かせない身体を精一杯に動かしてマリーの顔に近づく。


 俺はそのままマリーの頬に唇を重ねる。

 この二日間の恩と感謝の気持ちを込めて。


 ……いや、本当に感謝の意でキスをしただけである。

 役得だなんて思っても口には出さないぞ?


 いや、正直になろう。

 俺も男だ、他意はあったさ! そのなにが悪い!?

 こんな可愛い子に合法的にキスできるのなんて今だけなんだ!

 男は皆オオカミなのさっ!!!


 俺とマリーは感動的な別れをして、とうとう俺は孤児院に預けられることになった。

 アキラが孤児院の扉をノックすると出てきたのは優しそうな顔をした初老の女性だった。


「ようこそリバーウッド孤児院へ。 今日はどんな要件で?」


「子供を森で拾ったんですが、この孤児院で預かって頂けないでしょうか?」


「あら、そういうことだったんですか。 わざわざありがとうございます。 優しい冒険者さんたちに神のご加護がありますように」


 アキラと初老の女性は一言二言と話したあとに俺はマリーの胸元から引き離されそうになる。


 だが、心でわかってはいるのだが初老の女性よりも若くて綺麗なマリーのほうが断然良いと思ってしまう黒影はマリーの服を掴んでしまう。


 だが、所詮は赤子の抵抗。

 その抵抗は無残にも無意味と言ってよかった。


 マリーから老婆の胸に渡ることになった黒影。

 マリーも悲しそうな顔でこちらを見合う。


「大丈夫ですよ。 この子は確りと私たちが育てて見せますから」


 老婆の優しい声に決心がついたのかマリーも俺の頭を撫でてくる。

 そして孤児院の扉が閉められていく。


 まぁ、老婆もいい人そうなので安心出来るだろう。

 俺の目標は朱璃を守ることだ、俺はここで知識と力をつけて頑張ることを心に決めようとして気づく。


 扉を閉められてすぐに変わった老婆の表情に……


「ケッケケ、魔眼持ちの赤子かい? これは高く売れそうだよ」


 どんどんと目のハイライトがなくなっていき、口角が上がって三日月のようになった老婆の表情はどこからどう見ても極悪人のそれと大差なかった。


 ……俺の人生はここで終わったかもしれない。


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