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1-2

 

 結論から言うと俺は赤ん坊にされて異世界に飛ばされたみたいだった。

 つまりこの前の契約は夢ではなかったのだ。


 俺は、いまマリーと呼ばれる白髪の美少女に抱えられながらジメジメした森を抜けようと旅をしていた。


 目の前には黒髪の少年アキラが大量の荷物を持って先導している。


 俺は美少女に抱えられながら、案外居心地が良い旅路をしていた。

 特に甘酸っぱい柑橘系の香りがするマリーの胸元に顔を踞せることができるのは桃源郷と言っても良いだろう。


(俺も男だ。朱璃…すまん。)


 そんな状況に新たな人生も悪くはないなど世迷言を朱璃への罪悪感と共に思っていると問題が起きた。



 視界にはそびえ立つ木々が見えなくなり、鋪装された道が見え始めたあたりだろうか?

 茂みからあきらかにガラの悪い服装をした6人の男たちが現れる。


 男たちは各々で違う形状の武器を手に持ち、こちらにいやらしそうな笑みを溢す。


「よぉ? お前ら、命からがら深淵の森から出てきたところわりぃーんだが、手荷物を俺等に恵んでくんねーか?」


「なんならそこの女でもかまわねーぜ?」


 男達は黒影には意味がわからないと言うのに、予想がつきそうな程単純なボキャブラリーで近づいてくる。


「あっ、マリーは動かなくていいよ? ボク一人でやっちゃうから」


 アキラが何かをマリーに言いながら荷物を降ろして腰に差していた双刀に触れると一瞬で事態が終わっていた。


 まずは風圧。

 竜巻が現れたのかと思うほどの突風が空間を包み、土埃が宙に舞う。


 土埃が晴れると既に男たちの首は在るべき所定の位置になく、地面に転がっていた。



「まったく山賊なんて嫌になっちゃうわね。 まぁ、これで旅費分の足しにはなったんじゃないかしら?」


 マリーが何か喋るとアキラは苦笑いしながら男たちの首を髪を持って回収する。

 首は麻袋に放り投げられる。形状からして既にあの袋には先程の6人以外の首も入っているのだろう。ある程度は覚悟していたとは云え、顔色一つ変えずに男たちの首を斬り去ったのだ。この世界ではこれが日常なのだろう。


 こういった光景を見せられるとつくづく自分がいるのは異世界だと言うことを実感させられる。


 やはりこの世界では人間の命を奪うことに躊躇いなどないのだろう。

 躊躇えば殺られるのは自分。そんな世界で赤の他人に情を持つのは馬鹿のすることだ。

 悪いが自分にはそんな余裕はない。

 俺は朱璃を救うために来たのだ。朱璃の幸せのためなら俺は人殺しになる覚悟も既にある。おそらくこの先、生きていれば何人も殺すことになるだろう。その時には躊躇わないように覚悟を決めて生首から目を晒さずに見つめる。


 だが、こんな世界だ。

 力が必要になるのは明白と言っていいだろう。

 先程のアキラの動きは人間離れしていると言っていいし、正直に言って恐怖しかないが、世界が違うのだ。


 今までの常識は思考に入れるのはいい考えとは言えなさそうだ。


 まぁ、皆が皆アキラほど強いわけではないだろう。

 そうでなくては困る。

 今でも漏らしそうなのをギリギリのラインで我慢しているというのに、走って突風つくれる人間が何人もいるだなんて悪夢だ。…考えないようにしよう。


 だが、あの夢が現実だったのなら俺は朱璃より五年先に産まれているはずだ。

 そして朱璃の寿命は12歳。

 単純に考えて17年の期間があるのだ。

 しかも寿命が12年なら逆に考えれば余程のことがなければ12歳までは生きることができるとも考れらる。


 ならば俺のやることはこの17年間でやれることをやりきるということだ。

 まず知識と言語の習得が目下の目標だ。


 これからの行動を決めたところで俺に猛烈な睡魔が訪れる。

 赤子の身体になったからだろうか? 

 時々、猛烈な睡魔によく襲われることが多い。


 これも魂が赤子の身体に引っ張られているということだろうか?

 これも色々と研究していかなくてはならないだろう?


 まぁ、始めて殺人現場を見たこともあって予想以上に疲れていたのかもしれないので俺は訪れた睡魔に身を委ねてマリーに身を委ねる。





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 side_マリー


 時刻は既に夕暮れ。

 私の胸元には昨日あったばかりの赤子が身をゆだねて微睡みの中にいる。

 この子は赤子だというのに大人しく、殆ど泣くことがない。

 エルフの里から出て旅を始め、この5年という歳月で始めて関わる人間の赤ちゃんは可愛くて仕方ない。今でもこの子の寝顔を見ていると自然に笑みが溢れてしまう。


 まだポヤポヤとしか生えていない髪はアキラと同じく漆黒に染まっており、プニプニと柔らかそうな頬っぺたは薄く赤みがかっていた。

 特に特徴的なのはこの子の眼だろう。黒と朱のオッドアイ。

 そう、彼は魔眼持ちだったのだ。魔法の研究で魔眼を調べていた時に文献で見たことがあった『智見の魔眼』。彼はその持ち主なのだろう。


 魔眼持ちは希少と言う程ではないが、やはり貴重ではある。

 そんな彼がかつての自分と重なってしまう。ましてやこの子はあんな森に捨てられていたのだ。家族や同胞も皆無と言っていいだろう。そんなこの子に勝手に親心を持ってしまっている自分がいることには容易に気がついていた。


「アキラ……本当にこの子を近くの村に預けちゃうの?」


 マリーがアキラに問いかける。

 その顔を見れば離れたくないのが簡単に理解できてしまうほど悲願的な顔だった。


「……マリーが言いたいことはわかります。 彼が魔眼持ちだから確かにこれから大変かもしれませんが、僕たちの旅はもっと危険です。赤ん坊を連れては行けません。ここから一番近いリバーシックの村に預けるのがこの子のためになるでしょう」


「……そっか。 そうだよね……うん、残念だけど仕方ないわよね」


「マリー…… えっと…大丈夫ですよ! 旅が一段落つけば絶対に会えます!! それに今度はメンバーの皆でこの子に会いに行きましょう」


「……それもそうね」


 アキラが困ったようにマリーを励ましてくれる。

 それに孤児院だったら家族もできるだろうし、安心だ。

 自分たちはこの子が幸せになれるような世界をつくるために旅をしているんだから頑張らなくてはいけないのだ。


 そう自分を励ましながらマリーは赤ん坊の頭を撫でてあげる。



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