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プロローグ4

 あの火災から約3週間。

 既に朱璃の葬式も終わり、黒影はもう何の為に生きれば良いのかわからなくなっていた。

 唯一の家族がいなくなったのだから…。


 加藤さんや麻衣さん、親しかった友人からの連絡も無視して職場にも辞表を出してしまった。


 そして、俺は朱璃の場所に行くことに決めた。

 もう生きる必要はない。

 黒影は死に場所を求めていた。朱璃と共に過ごした場所を歩き回りながら…

 だが、この徘徊も今日で終わりであろう。

 もう録に飯も睡眠もとっていない状態で歩き続けていたのだ、きっともう少しで朱璃のところに行けるのだろう。



 唯々、無意識に歩いていると職場の現場まで来てしまっていた。

 知らぬ間に、ここまで来てしまったのだろうか?

 知人にバレるとめんどうなことになりそうだったので引き返そうと背後に振り返った時。


 加藤さんの言葉を思い出す。


 そう、黄昏坂の話を。


 多愛もない与太話でしかなかった会話の一端。

 それは信じるにも値しない所詮は噂話。

 だが…もし、もう一度話せるなら。

 また朱璃と話すことが出来るなら俺は確りと謝りたい。

 守れなかったこと、そして助けられなかったことを。



 姉さんは諦めない人だった。

 翼さんは優しい人だった。

 朱璃は常に元気で皆に笑顔を与えていた。


 そして…俺は…


 俺はここで諦めても良いのだろうか?

 ここで諦めて死ぬのが朱璃や姉さん、翼さんの為になるのだろうか?


 俺も…諦めない!

 どんなことをしても、どんな手を使ってでも諦めない。


 答えは案外簡単に出た。

 あれだけ悩んでいたのが馬鹿らしいほど簡単に。



 既に足は動いていた。

 目指す先は噂にあった黄昏坂。

 録に飲まず食わずだった身体は予想に反して軽いものだった。


 黄昏坂。

 この坂は一見ただの登り坂なのだが、夕刻の晴れた日のみ夕陽の日光が反射して坂すべてを一色に染め上げる。いつしかそれを地元の人が黄昏坂と呼ぶようになっただけと聞いていた。


 黒影が黄昏坂に着いたのはまるで謀ったかのように夕刻であった。

 黄昏坂は一面が緋色に染め上げ、まるで幻想的な雰囲気があたりを包み上げる。


 この場まで駆け抜けて来た黒影は、呼吸が整わずに道中にも関わらず膝をついてしまう。

 視線を上げると蜃気楼のようにボヤけた人影が頂上に見えた。


 __まさか、本当に?

 __本当にまた会えるのか!?


 黒影はまだ息も整っていない身体にムチを打ちつけ坂へと歩を進める。


「朱璃? 朱璃なのか!?」


 人影は動くことなくただ真っ直ぐと黒影を見下ろしている。

 黒影は坂を駆ける速度を上げて更に人影に近づこうとするが、近づくに連れて黒影の周りは白い光源に包まれていく。


 だが、そんなことを気にするほど今の黒影には余裕がなかった。

 ただ一歩でも早く朱璃らしき人影へと近づきたい。

 それ以外の思考は不必要だったのだ。


 __視界がどんどんと白く染まっていく。

 __そしてあたりが白い空間へと変わった。


「やぁ、ひさしぶり? はじめまして? どれがいいかな?」


 そんな第一声と共に『それ』は目の前に現れた。

 目の前にいる『それ』は明らかに異形の者だった。目の前にいるというのに黒影にはそれがなんなのかがわからない。人の形をしているというのに男のようにも女のようにも見える。もしかすると『それ』には性別という概念がないのかもしれない。


「お前は…なんだ?」


「んー、産みの親。神様。この世界そのもの。ってところかな? あぁ、君個人との関係を指すなら友達ってところかな?」


「…神? まぁ、いいや。 お前が神様なら朱璃を生き返すことが出来るんだろうな?」


「それは悪いが無理だよ。 例え神になっても出来ないことはあるのさ。 …例えば死者を甦す…とかね? 魂は常に回り続けているんだよ」


「回り続ける? …どーゆーことだ?」


「この世界で魂の器をなくした魂はまた新しい器を求めて新しい世界へと旅立つのさ。 あっ、魂の器ってのは肉体のことね? 朱璃ちゃんの魂は既にこの世界を旅立ってしまっているから僕が頑張っても彼女の魂をこの世界に引っ張ることはできないんだ」


「そんな…俺は…遅かったってことか? もう…朱璃に会えないのか?」


「会えないことはないですよ?」


「…っ!…ならっ!?」


「では僕と勝負をしましょう?」


「勝負?」


「はい、勝負です。 色々と変わってしまいましたがこの生活には正直嫌気が差していたところなんですよ。 朱璃さんの魂は器を求めてこの世界と異なる場所へと移動しましたが、魂の器の期限は12年です。つまり寿命が12歳ってことですね。ですのでアナタを朱璃さんが産まれる5年前に転生させます」


 朱璃の寿命が12歳というのに怒鳴り散らしたくなったが、説明を聞かないことには何も言えない。

 とりあえず話を促すように質問する。


「…それで、どーすれば俺の勝ちなんだ?」


「アナタが朱璃ちゃんの魂の器を護って、本来の規定事項である魂の器の期限を守り通すことが出来たのならアナタの勝ちです。 私が責任を持ってアナタの願いを叶えましょう。 その代わり…朱璃ちゃんの魂の器を守れなかった際はアナタの魂を貰います」



「あっ…そんぐらいでいいのね? ええよ、ええよ。 別に構わないっす」

 黒影は安堵のため息をつきながら地面に座り込む。

 要するに次こそは朱璃が死なないように守り抜けば言いという事だ。簡単と言っていいだろう。

 何故ならそれこそが俺が朱璃にしてあげるべきことなのだから。


「…なっ!? 軽くないですか?」


「いや、元々こんなに考えることのほうが珍しいんだよ。 朱璃にもう一度会えるんだろ? だったら、俺の魂一つや二ついらねーよ」


「ですが…魂の器の期限は絶対です。 そう簡単に覆すことはできませんよ? それに朱璃ちゃんの魂が存在する世界は魔物などのバケモノも多く治安も最悪の世界です。 それでもアナタはそんな簡単に決めてもいいというのですか!?」


「んなこと、どうでも良いんだよ。 俺は父親で朱璃は娘だ。 一度は失敗したがもう傷つけない。 朱璃は俺に満ち足りた日々を送らせてくれた。 俺はその恩返しをまだ出来ていないんだよ、父親は常に強くなくてはならない。 どんな危険な異世界だったとしても俺が最強のパパになればいいだけの話だろ? その為なら俺の命なんていらない」


「…そうですか。 アナタの覚悟はわかりました」


 すると先程までいた白い空間の光が時間を巻き戻したかのように戻されていき、七色の光に包まれていく。 


 時間にして一瞬。

 まるで夢でも見ていたかのように意識が遠のいていく。


 黒影は薄れゆく意識の中、目の前に立つ自称神様へと向き合う。


「ありがとうな? また機会があったら会おうや!」


 黒影はニッコリと笑ってから意識を暗闇の底へと沈める。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 side_???


 彼は行ってしまった。

 空間には人影だけが残されており、その人影は困った顔をしながらため息を吐く。

 

 __また会おう。

 これがどれだけ残酷な言葉かは彼にはわからないのだろう。

 これが彼の決めた道ならボクは甘んじよう。

 だが……願わくばもう会うことがないことを祈りながら__

 


「…これで、また長いこと一人になってしまいますね。 それにしても彼は相変わらずでしたね」


 白い空間で人影が微笑みながら自分の仕事に戻っていく。


 next



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