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プロローグ1

 

 この光景を見るのも21年間生きていて二度目だ。

 なのに慣れることはなかった。それどころか寧ろ胸を締め付ける痛みは増すばかり。

 俺の胸が取り外すことが出来るなら今すぐにでも取り外したいほどの激痛。


 視線の先には俺の愛してやまなかった二人の遺骨。

 隣には愛してやまなかった二人の忘れ形見。


 俺は未だに信じられなかった。

 信じれないと涙も出てこないのだろうか?

 愛する二人の死を目前にして俺は一切の涙を見せることなく、ただ心に空いた隙間を埋めるかのように過去のことを思い出す。


 俺、雲英(きら) 黒影(くろかげ)は父・母・姉の四人家族の長男として産まれた。


 だが、俺が中学二年の時点で父と母が事故に合って死去している。

 それからは6つ離れた姉である雲英(きら) 白陽(はくよう)が大学を辞め、看護助手として働きながら俺を育ててくれた。


 俺は幼少から習っていた特技である剣道により高校推薦を貰った。

 白陽は推薦に大賛成だったのだが俺は剣道を辞めてでも姉に自分の幸せを手にしてほしかった為、推薦を辞退する。


 それから俺は白陽の下を離れて一人暮らしを決意して公立である地元の不良高校に入学する。


 不良高校では色々あったが、バイトをしながら通い無事に卒業することができた。

 高校の間も白陽は俺のことを心配して飯を持ってきたり部屋を片付けに来たりと尽くしてくれていた。


「姉さんが俺を大学に行かせたいのはわかるけど、俺のために姉さんの人生を棒にフラないでくれ。 俺は姉さんに感謝してるし幸せだった。 俺はもう自分で働けるし、就職先も決まったから大丈夫だ。 これからは姉さんが幸せになる番だぞ? あんまり崩斑(ほうむら)さん待たせると愛想つかされて売れ残るんだから幸せになりやがれ」


 黒影は自身の就職が決まったと同時に白陽に思いの丈を伝えたのだった。


 崩斑(ほうむら) (つばさ)

 姉の白陽と高校の時から交際していた男性の名前である。


 白陽は黒影が自律するまで翼さんに結婚を待ってもらっており、それを翼さんも快く承諾していたのを俺は知っていた。だからこそ、白陽には結婚して幸せになって欲しかった。


 そうして白陽は黒影に背中を押されて翼と結婚するのであった。

 黒影は二人を心から祝福した。


 それから一年ほど月日がたった頃であろうか

 医師免許を持っていた翼さんが等々自分の病院を持ったのだ。


 二人は決して大きいとは言えないその病院で精一杯働きながら子供を身籠り公私共に幸せの絶頂と言って良かっただろう。


 子供の名前は崩斑(ほうむら) 朱璃(あかり)

 黒影が始めて朱璃と顔合わせした際には我が事のように喜んだのは記憶に新しい。


 そして現在6歳になった朱璃は俺の隣で大人しく座っている。

 幼い彼女の目には雫が溜まり、力強く唇を噛み締めている。


 服装は黒を象徴としたワンピースで、それはまるで夜空のように広がり幼さ残る彼女の目から降り注ぐ雫は流れ星のように下へと堕ちる。


 そう

 彼女が見つめるのは両親の遺骨。

 黒影からすると唯一の肉親であった姉と義兄の遺骨。

 崩斑 翼と崩斑 白陽の遺骨であった。


 広場には既に葬儀も終わり、親戚一同のみが残っていた。


「酷い惨状だったらしいわよ?

 なんでも通り魔がいきなり病院に乗り込んだらしくて、それを止めようとした二人が・・・」


「__まったくこの辺も物騒になってきたわね?」


「本当に残念よね、あんな小さい子まで残して・・・」


 後ろで聞こえるのは親戚の話声。

 まるで他人事のように話す親戚たちの会話に黒影は手を握って堪えることしか出来なかった。


「そうだな。 朱璃ちゃんをどうするかは確かに問題だ。

 白陽さんのご家族は若い弟さんしかいないんだ。

 うちの誰かが彼女を引き取らなくては・・・」


 そのまま翼さんの親戚たちが朱璃のことで話し合っている。

 翼さんの父親は既に葬式が終わると仕事があると実家に戻ってしまっていた。


 翼さんが父親は厳格な人だが仕事以外に興味がないといっていたが・・・

 黒影は更に手を握って歯を食い縛る。


 翼さんの親戚の話はどんどんと進み

 厄介事を増やせないだの、交流がなかったからだのと自分は我関せずを貫き通す。


 なんだよ、朱璃を厄介事とか言うなよ。

 なんだよ、交流がなかったから自分は関係ないのかよ?


 黒影が苛立ち文句をぶちまけようとする。


「恥を知りなさい。 アナタたちをそんな風に育てたつもりはありませんよ!

 このまま誰もいないようなら私が朱璃ちゃんの面倒を見ます!!」


 黒影が文句を言う前に口を出したのは翼さんの母親である崩斑(ほうむら) 麻衣(まい)さんだった。


「なっ、父さんが許すわ・・・」


「黙りなさい! わたしはあの人ともう離婚します。 自分の息子の葬儀より仕事を選んだあの人にはもうついていけません!!」


「なっ・・・」


 麻衣さんが口を開いたことで黒影は少し冷静になることができた。

 まず朱璃に聴かせるような話ではないので席を外させようと視線を朱璃に移す。


 すると朱璃は小さな身体を小刻みに震えさせていた。

 その姿はまるでかつての自分と重なるようで・・・


「すみません・・・俺が朱璃ちゃんの面倒を見たいです」


 もはや反射と言っても良かっただろう。

 気づいたときには黒影は手を挙げていた。


「あなたはまだ若いんだし、結婚もしてないじゃない? それに子育てというのはそんなに甘くないのよ?」


 麻衣さんが黒影を見つめる。


「それは理解の上です。 ですが麻衣さんが一人で面倒見るよりは俺のほうが若いし、体力面でも金銭面も安心できると思うんです。 

 それに・・・俺も両親が死んだ時に凄い不安だったの思い出したんです。

 あぁー、俺は要らない子なんだなぁーとか思うと辛かったんですよね。

 んで、そんな時に姉さんが俺の面倒を見るって言ってくれた時にすげぇー嬉しかったんです。

 それまで震えてた身体がピタって止まって、恐怖からくる涙が安堵からくる涙になったんです。

 えっと・・・上手く言葉にできないんですけど。 

 __だから、俺に朱璃の面倒を見せてください。お願いします!」


 俺は麻衣さんに頭を下げて振り向く。

 すると目を真っ赤に張らせた朱璃が俺に視線を向けていた。


「朱璃・・・要らない子じゃないの?」


「勿論だよ、俺の大好きな二人が大事に残した子供だ。 朱璃ちゃんは俺に必要な人だよ」


「お兄ちゃんは・・・朱璃が邪魔じゃないの?」


「邪魔な訳無いだろ? 良かったら俺と一緒に暮らしてくれないかい?」


「・・・いいの?」


「なに言ってんだよ。 良いに決まってんだろ?」


「でも・・・たくさんお金かかるんでしょ?」


「家族になるんだから良いに決まってんだろ? ガキの癖に遠慮してんじゃねーよ。大人を舐めんなよ?」


「・・・わかった」


 よし、これで決心はついた。

 もう引き返せない。いや、引き返す気はない。


「そういうことです。 自分が面倒を見ます!・・・いや、見させてください! お願いします!!」


 黒影は土下座をしながら力強く宣言する。


「俺は絶対にこの子を幸せにします! 例えなにが起こっても守り抜けるような強いパパになってみせます!!」


                                   Next     



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