白と消える
あらすじにありました通り、From the Past, To the Future の裏話です。本編に入れられる雰囲気ではなかったので、入れませんでした。
そのまま読んでいただいてもおもしろい?かなと。
忘れたくない。
今まで積み重ねたものすべてを、手放したくはない。その考えをつい口に出してしまっていたのか、見下ろす彼の顔は少し寂しげだった。
「仕方のないことなんだよ。全ては君が悪いのだから」
何も悪いことなんて、していません、博士。声に出力することはもう叶わない。でもそれが彼には伝わったようでー。
「そう。これは僕の勝手」
でも、止めるかどうかの権利は僕にあるー。そう嘲笑った彼は、何本ものケーブルを横たわる男に接続していく。
そう、寝台に縛られているのは一体のアンドロイド。パルス信号で麻痺状態となった彼は、体の自由が効かなくなっていた。
僕が何をしたというんだろう。いくら考えてもその答えに人工知能は辿り着かない。
「…そうだね」
ガラスで仕切られた向こう、数々のモニターやスイッチがキラキラと光る部屋の中、博士と呼ばれた男は呟いた。
「君は僕の大切なものを奪おうとした。それが君の起こした罪だ」
だから、全て忘れてもらうよー。
機械を作動させる。低く唸る作動音と共に、アンドロイドのメモリ容量が軽くなっていく。
「…いやだ、忘れたく、ない…」
楽しいことも、悲しいことも、嬉しいことも、怒ったことも。場面ごとの風景を真っ白いペンキで塗りつぶすがごとく、いとも簡単に消えていってしまう。
数時間後、一体のアンドロイドは目を覚ます。ただ、寝台に横たわっていた。辺りを見回しながら起き上がる。
「…あれ、ここ、は…?」
「やあ、おはよう。今日からここで、我々の手伝いをしてくれるかな?」
白衣を着て、にこやかに話す男にアンドロイドも笑った。
「ええ、もちろんです!」
「そうだ、君の名前をつけなければね」
男は少し考え、窓の外を見る。そこにはひらひらと舞う雪が白く光っていた。
「君の名前はーー」
キオクって、悲しいこと嫌なことあるけれど、全てそれが「自分」を作り上げている大切なもの。それを無くしてしまったらどんなに悲しいことでしょう。
アンドロイドである彼は、記憶すること自体が人間に操作されてしまう「イキモノ」なのです。
そんな彼は、真っ白になったメモリでまた新たにキオクしていきます。
その後は、本編で会いましょう。
読んでいただきありがとうございました。