25話 意思
毎度のごとく遅くなってすみません。
何で運命折曲取得しなかったんだ過去の俺!
どうせSPなんてありあっまてんだから、ケチる必要もなかっただろ!
あの時はなんか取得しちゃいけない気がしたんだよなぁ……そんなの無視って取っておくんだった。
まぁ後悔したところで意味はない。ってことでうじうじ終了!
「俺復活!」
『なんだ、生きておったのか』
「勝手に人を殺すな!」
『ほう、さすがに我の主と言うだけはある。ステータスの影響しない精神世界において、我が威圧を物ともしないとは』
威圧?そんなもん感じなかったぞ。
若干空気がぴりぴりしてる気がする。これかな?
「ところで危害を加えない所を見ると、何か用があってこの精神世界とやらに呼んだのか?」
そうならば厄介事と決め付けのは早計だったかも知れない。
『我の威圧を受けた者は、下手をせずとも廃人になるやも知れんのだから、危害を加えていないというのは間違いだ。まぁ用があるというのは間違い無い』
うわ俺廃人直前だったのかよ。おっかねぇなおい。
「で、何の用なんだ? 場合によってはお帰り願いたい」
厄介事メーター上昇中ですよ。
『そう警戒するでない。何、我に主が出来たのが久しかったのでな。主となった者の器を確認しに呼んだだけだ。先の威圧を余裕で受け流す位の者なら、問題なかろう』
これはセーフか? 結果的に平気だったんだからセーフだろ。
とりあえず一安心。
「用が済んだならもう帰してくれないか? 俺はぐっすり寝たいんだ」
俺の疲れたブレイン休ませてプリーズ。
『安心せい。ここにおるのは貴様の精神体、すなわち魂だ。肉体も脳も現実世界ではきっちりと休眠をとっておるよ』
俺の意識はあんのに脳は働いてないと。なるほど、訳分からん。
「現実世界で休眠を取っていたとしても、俺的には化け物と話してるだけでストレスなんだが?」
『むぅ。これは本来の姿ではないのだが、そんな率直に言われるとちと傷つくぞ』
あら意外と繊細。
「本来の姿じゃないってどういうことさ」
『うむ。全てを話すと長くなる故、詳しい事は割愛させてもらう。実を言うと、我は元々人々の感情から生まれたスキルなのだ。我自身がスキルのため自身を制御する術はあった。しかし遠い昔に我は危険因子扱いされての。力を4段階にわけて封印されてしまった様でな。我は自身を制御する事が不可能になり、人々の負のエネルギーを受けた怪物じみた姿になってしまったのだ』
なるほど。
「怪物の姿なのは、自分を制御できないからだって事は分かった。でも、それって本当に封印の所為なのか?」
『ほう。我の見当違いと申すか』
「いんや、ちょっと気になっただけさ」
実際、暴食が本来の力でないのは分かっていた。が、しかし説明欄の言葉をそのまま取るとすれば、暴食の力は封印されたわけじゃないということになる。
『気にかかる事があったと』
「ああ。一応、暴食ってのは俺のスキルだ。だからステータスからある程度の情報は入手できる。んで、それによると今の暴食の状態は『強制逆戻』って言う事になってるんだよ」
強制逆戻っていうことは封印というよりも、力そのものを巻き戻したって感じだよな。
それが暴食も分かったようだ。しかしあまり納得している気配はない。
『強制逆戻か。確かにその字面だと封印という印象とは離れている。だが、我は初期からこのような姿ではなかったぞ。我は負の感情より生まれし者。力を封印されていなければ、負の感情などただのエネルギーに過ぎぬ上、力の制御もたやすい事よ。そこが理解できん』
「だから断定じゃなくて気にかかる程度だったんだよ。どう考えても腑に落ちない」
制御する力が封印されていなければ、当然自らの力に飲み込まれるわけがない。そんなのフグが自分の毒で死ぬようなもんだ。
なにか見落としてるのか?
強制逆戻ってことは、力を封じるのではなく、以前の状態に戻すということだ。人々の負の感情を吸収居たとしても戻される前の姿になるだけ……待てよ? 暴食が生まれたときと強制逆戻状態になった時の人々の負の感情は、同等とは限らない。急に暴食を危険視し始めったって事は、以前はそこそこ受け入れられていたという事かもしれない。なのに危険因子扱いを受けたって事は、何か暴食が危険だとみなす事があったはずだ。だとすると、人々の負の感情は暴食が生まれたときよりもはるかに多かった可能性が高い。
もしかして暴食は急激に相当な量の負の感情を吸収したために、全体的な成長が追いつかずに力を制御できなくなってしまったのでは? 栄養を過剰摂取しすぎて太った、と同じような事だと考えると納得がいく。
『何を一人でうなずいておるのだ?』
おっとまた一人で考え込んでしまった。
「いや、すまんな。一回考え始めると周りを気にせずに考え込む癖があるんだよ」
『うむ。それは別に良い。それより何にうなずいておったのだ?』
「それはだな……」
◇◆◇◆◇◆
『なるほど。エネルギーの急激な過剰摂取か』
「まぁまだそれで決まりってわけじゃないがな」
『うむ。しかしながら、この状態が封印ではない事に説明はつくな』
「説明がついたとしても何か変わるわけじゃないがな」
完全に理由が分からないと対処のしようがない。
『いや、そうでもないぞ』
「と、いいますと?」
『まだそれと確定したわけでなくとも、それの対処法を試す事は無駄ではなかろう』
それはそうだ。
「でも、具体的にはどうするんだ?」
『我の体が急速に入り込んだエネルギーを対処できていないのであれば、貴様がその一部を肩代わりすれば良い』
理論的にはそうなんだろうけど。
「負の感情から生まれたエネルギーって、人間に有害じゃないのか?」
『元は人間から生まれたもの。故に己が器を超える量でなければ問題ない。まあ、少々性格が変わるかもしれんが』
おい。それは問題ないって言わん。
「そもそも俺の器が受け止めきれる量なのかよ?」
『仮にも我が主である貴様ならば、恐らく平気だ』
そこは断定しようよ。とっても不安なんですが。
『では、スキルとして繋がっている回路で貴様にエネルギーを受け渡すぞ』
「いやちょっと待って」
『もう送り始めてるぞ』
「はやっ」
即断即決すぎだろ!
でもなんか変わった感じはしないな。強いて言えば少しばかりムカムカするようなしないような。
おお。目の前の暴食がどんどん縮んでいく。
変化は俺の身長と同じか、それより少し高い位の人型になった所で止まった。
俺は美的センス等は持ち合わせていないが、容姿は一般的に美女と呼ばれる類のものだろう。凛としていて、女皇のような雰囲気だ。まぁ、俺は異性にあんま興味がないからそこら辺はいまいち分からんが。
というか、何でもかんでも人型美女にすればいいってもんじゃない。女性キャラクターが少ないからって……はっ! 俺は今何を?
ま、いいか。
「それがお前本来の姿か?」
『左様』
「さっきの姿からは想像も出来ないな。でも何でそんな容姿なんだ?」
『我は人々の感情の産物。正負関係なく強い感情に引っ張られるのだ。この場合は強い欲だな。こういう女が欲しい、こういう女になりたい等ど願望によるものだ』
なるほど。男の方が異性に対する欲が濃いからな。たぶんこの世界では特に。
「今更だが、なんともないのか」
「これといって特には。さっきまではちょっと違和感あったけど」
「と、なると負のエネルギーは余り残っていないだろうな」
「なんでだ?」
「貴様が違和感を感じていたのにそれが消えたということは、貴様の中で負の感情が処理されたということだからだ」
「そういうことか。ってことはお前にエネルギーを返すことは出来ないのか」
「そういうことになるな。ゆっくり取り戻していけばよかろう。何も焦る事は無い」
「それはどうかな?」
「どういうことだ?」
「いや、何でもない」
俺は災難を引き寄せるからな。その災難の中にはもしかしたら、今の暴食では通用しない物もあるかもしれない。杞憂だったらいいんだがな。
「ところで暴食」
「なんだ?」
「さっきの姿だったらまだしも、今のお前に貴様って呼ばれるのなんか違和感あるからやめてくれないか?」
「別にかまわんぞ。主でよいか?」
「なんかそれは違う気がする」
「では、マスターでどうだろうか」
「それならしっくり来る」
一応スキルの持ち主って事は認めてくれてる様でよかった。
「ところでマスター。我からも頼みがあるんだが」
「ん? なんだ?」
なんか頼みごとをするキャラじゃなさそうだが。
「お前や暴食ではマスターも不便であろう? なのでこの姿の時の名前を付けて欲しいのだが」
「なるほどねぇ。でも俺ネーミングセンス無いぞ?」
「かまわぬよ。はるか昔から存在しているのだ。今更恥ずかしいなどといった感情はそこまで無い」
とはいえ、そう簡単に名前は出てこない。意味の無いものなら簡単なのだが、こいつに合うような名前ってのが思い浮かばない。
「そうだな暴食をラテン語にしてグーラってのはどうだ」
「ラテン語というのは分からんが、それでよい」
よかった、俺が中二で。
◇◆◇◆◇◆
「なぁ、そろそろ帰してくれないか?」
「どちらにせよ、我がお前をここにとどめていられる限界の時間が近づいておる」
「限界とかあるのか」
「繋がっているとはいえ他者の魂を呼び寄せておるのだ。当然であろう」
異世界だからそれが当然なのかと思ったわ。
「そろそろ限界だ。では、またな」
「じゃあな」
ん? ちょっと待て、今またなって―――――
有り難うございました。




