魔法使いになったなら
クリスマスイブが誕生日。
そういうと、ロマンチックなイメージをもったりするのだろうか。
しかし、そんなロマンチックな日の夜に産まれたらしい俺には、ロマンチックさの欠片もない。
顔は並み。身長は高いが痩せすぎで気持ち悪いと言われるし、運動神経は繋がっていないレベルで、頭も悪く、しゃべれば吃る。
名前だけはクリスマスに因んだ、無駄に今時のキラキラネームで、だから当然学生時代は虐められた。
それもなかなか酷い虐めで、対人恐怖症になった俺は、現在立派な自宅警備員。
親父には屑と呼ばれ、妹には居ないものとして扱われた俺の味方は、お袋のみ。
もう死にたいと溢した俺を、お袋だけは泣いて止めた。
「頑張らなくていいから、死なないで」
そう言われた時の、あの胸の痛みは忘れられない。
そんな、どうしようもない俺にも、誕生日はやってくる。
無為に、なにもできず、なにもせず、それでも死ぬことも選べずに、また一つ年をとり、日付が変わる瞬間に、俺はついに三十路になる。
誕生日で、クリスマス。
奇跡の一つくらいあってもいいんじゃないか。
そんなことを考えながら眠りについてーー
ーー翌朝、目覚めたら目の前に文字が表示されていた。
“おめでとう!貴方は魔法使いになりました!!”
そう言えば、こんな話があった気がする。
三十越えても童貞なら、魔法使いになれる。
馬鹿馬鹿しい、都市伝説とすら言えないネット上のネタ。
ああ、けどこれは現実か。
なんとなく頬をつねり、その痛みに意識が覚醒する。
文字は消えてない。
やはり、俺は魔法使いになったのだ。
魔法が使えるのなら、きっと人生は変えられる。
どんな魔法なのだろうか。
人の役に立てるような力がいい。
強い力があるのなら、きっと俺だって自信をもてる。
物語の主人公のように!
そう考えていると、目の前の文字が変化した。
“使用可能魔法:時間停止・一時間”
キタコレ。
時間停止魔法。
うまく使えば、女性にあんなことやこんなこともやり放題。
ヒーローになるはずが、あっという間に堕ちきったが、仕方ない。
無職童貞だって、いやむしろ無職童貞だからこそ、性欲は誰より強い。
妹のパンツを盗んで、泣きながら殴られたのは俺の黒歴史。
そんな俺だから、喜び勇んで力を使う。
最初の目標は、リビングでくつろいでいるはずの妹だ。
いざ、時間停止!
そう張り切る俺の前で、空中の文字が形を変えた。
“しかしMPが足りない”
とことん俺の人生は上手くいかないようだ。
はい、やらかしました。
ほんとはクリスマスに投稿しようかとおもっていたのですが、あんまりにもあんまりな内容なので、やめておきました。