夢
学校での洸美はいたってふつうの生徒だった。
ふつうに友達がいて、ふつうに遊んで、ふつうにまじめに勉強していた。
ただ、洸美がバレエをやっていることはみんなが知っていた。
クラス替えをしてすぐ書くお決まりの『自己紹介カード』にはかならず
<将来の夢>
という項目があって、洸美は小学校の時からそこだけは空けたことがなかったからだ。
<バレリーナ>
洸美の学年で将来の夢がちゃんと決まっている人は、ほとんどいなかった。
バレエをやっている人もいない。
だから、
「へぇ〜宇野さん、バレエやってるんだぁ。つま先でまわれるの?!」
などとよく言われる。
将来の夢がないなんて、洸美には信じられなかった。
夢があることによって、洸美は辛いことも我慢できたし、ある程度のことをいい加減にできた。 だから学校でどんな嫌なことがあったとしても、帰ればバレエがあり、未来には夢があると思えば、平気な気がした。
夢がないことが、恐ろしい気さえした。
辛いとき何のために耐えるのか、何をいい加減にして何を頑張ればいいのか、わからないような気がした。
洸美には、いつでも何か、人生の軸になるようなものがないとだめだった。
夢をもっていたからそうなったのか、そういう性格だから夢をもったのかはわからない。
でも、そんなに大事な夢のことを、洸美はつい一ヶ月ほど前まで、一度もバレエの先生に話したことがなかったのだ。




