第九十八節 彼女からの視線 遥子の場合、その3
行っちゃったわ……
何するんだか知らないけど、本当にいつも勝手なのよね……
こんな所に、野暮用なんてある訳が無いじゃないの!
まともな言い訳ぐらい、考えときなさいって言うのよ!
その時、安が言ったわ。
「誰か、来たでやすよ……」
まだ姿は見えないけど、確かに声が聞こえてくる。
おもわず勇太が居た方に視線を向ける……
もう! 肝心な時に、居ないんだから……
まずは、隠れなきゃ……
あ……隠れるって言ったって、この荷車がメッチャ目立つわよね……
あぁ、もう! 困ったわ!
「あの……」
ん?
安が申し訳無さそうに、あたしを見ている。
「何?」
「遥子姉さん達は、ここに居てくれやすか?」
私達は、皆と顔を見合わせてから答えたわ。
「うん、別に良いけど……どうするの?」
安は、笑顔で言ったわ。
「ここは、あっし達に任せてくださいやし……」
伊代に目配せをすると、二人で頷きあう。
そして、それぞれ違う方向に走り出すと森の中へと消えて行った。
しばらくすると、ソイツ等が来たわ。
「それでよ! 夜通し、締め出し食らっちまってよ!」
「本当かよ! おめぇん所も、大変だな~……」
どうやら、それは二人らしい……
まだ遠目でしか解らないけど、どこをどう見ても山賊にしか見えない。
きっと、奴等の仲間ね……
その時ソイツ等は、あたし達に気が付いたわ。
「ん? 誰だ?」
こちらを鋭い視線で、注意深く見ながら歩いてくる。
どうしよう……
あたしが判断に迷っていると、翔子が大きな声を上げたわ。
「ナンデスカ~? ニシノヤマサイコウデシネ~? シゼンニメグマレマ~ス」
おいっ! また、それ?
でも、この際……仕方ないわ……
「フジ~ヤマ~スシ~サイコウネ~」
あたしが言うとソイツ等は、妙に呆れた顔をしたわ。
「なんだ……観光客かよ……」
だから、何でこれが観光客だって思うのよ……
「あぁ、まったく……ここは、お前等の来る所じゃねぇ! 痛い目見たくなけりゃ、とっとと行きやがれ!」
それに、蓮が続けたわ。
「イタイメ~? アタリメ~ノコトデスカ~?」
「おいっ! あんまりナメてやがると、さすがの俺達も……お……」
うわ……キモっ……
ソイツ等の眉間の辺りから、角のように刃が飛び出している。
それがヒョイと引っ込むと、二人同時に地に崩れ落ちた。
急いで覗き込んでみると、どちらもすでにお亡くなりになっているみたい……
ふと前を見ると、安と伊代が剣を収めていた。
この子達……けっこう残酷だわ……
おもわず、二人が浮かべる不敵な笑みに一瞬背筋が寒くなった……
しばらくすると、勇太達が戻ってきた。
私達を確認すると、声を上げながら急いで駆け寄ってくる。
「おい! 大丈夫か!」
そして、倒れている死体を慎重に確認した。
勇太は、静かに呟いたわ。
「あらら……やっちゃったのね……」