第九十五節 盗賊ね~……
城を出て眺めてみるが、ここは山ばがりなのでどれが西の山だか良く判らない。
とりあえず、近くに居た年配の騎士に聞いてみた。
「醸造所がある西の山って、どれか解ります?」
騎士は山の方へ視線を向けると、おもむろに指差した。
「あぁ、それならアレですよ。歩いて行けますよ」
なるほど……
どうやら、一番近くに見える山のようだ。
「どうも、ありがとうございます」
私は深く一礼すると、騎士は笑顔を返してくれた。
そして私達は、そのまま歩いて山へと向かった。
ほんの15分ほどで、山のふもとにまで来た。
まずは伯爵に貰った地図を広げる。
さてと……
まずはアジトの発見が優先事項だ。
今ある情報は、盗賊が醸造所から逃げる際に川へ向かったと言う事だけだ。
地図で確認すると、山の右側に醸造所が書いてある。
そして、その左側。地図の中心辺りに川が流れている。
ならば、アジトは川の左側にあると予測できる。
だが、その範囲は相当に広い。
私は質問を投げかける。
「なぁ? どの辺りがアジトだと思う?」
地図を差し出すと、皆も覗き込んだ。
その時、ダッツが言った。
「私の予想では、川からそう離れていないと思います。」
なるほど……確かに、川は生活に欠かせない。
それに、安が続けた。
「あの手の輩は、少し上流にアジトを構える場合が多いでやすよ」
確かにそうだ。なるべく人の目に触れたく無いのが心情だろう。
「では、まずはこの山道で上流を目指そうか」
私の言葉に、皆が頷いた。
私達がハイキング気分で歩いていると、遥か遠くに何かが見えた。
おもわず皆に合図を出す。
その場から散る様に周囲に木々に隠れた。
あれは、何だ?
木の隙間から様子を伺っていると、安が呟いた。
「人でやすね……4人居るでやす……」
マジっすか……良く見えるな……
本当に、安は凄いな……
しかし、4人か……だとすると、まぁ見張りだろうなぁ……
「ダッツ、ナーヴェ。奴等の背後に回ってくれるか?」
二人はそれに黙って頷くと、音も無く先へと走って行った。
あの二人も、本当に凄いな……
「じゃ、行くとするか……」
私達は、道の真ん中を堂々と歩いて行った。
遥子が不安そうに尋ねてくる。
「ねぇ? どうするつもりなの?」
私は笑みを浮かべた。
「それは、後のお楽しみだ」
「おい! お前等、ちょっと待て!」
奴等が立ち塞がり、私達の歩みを制止した。
私は、両手を半端に上げながら大きな声で言った。
「ナンデスカ~? ニシノヤマサイコウデシネ~? シゼンニメグマレマ~ス」
それに遥子は一瞬、はぁ? と言う表情を浮かべたが
「フジ~ヤマ~スシ~サイコウネ~」
意外に、シッカリと合わせてくれた。
それに、奴等は呆れ顔を浮かべている。
「なんだよ! 観光客かよ! ここは、お前等の来る所じゃねぇ! 痛い目見たくなけりゃ、とっとと行きやがれ!」
「イタイメ~? アタリメ~ノコトデスカ~?」
「てめぇ! それ以上ふざけた事を言ってやがるとタダじゃすまさ……」
奴は、そのまま地に崩れ落ちた。
顔を覗き込んでみると。白目を向いて失神している……
見張りの4人は、ダッツとナーヴェの強烈な当身を背後から食らわされていた。